1話 やらかし男の後始末.2
2026/08/03 加筆修正
ドゥシャさんから、貴重な世界樹の雫を譲って欲しいとのご提案。このメイドさん、売る宛でもあるのかね。
「世界樹の雫は、聖女リティナ様でも治せない病でも、治せるとされております。ですので、予備は有っても困りません」
成程ね、ルシィに売る訳か。
「お譲り頂けるのでしたら、復興資金の立て替えの他に、金貨五百枚をお支払い致します」
「ぼびゃぶ……」
「左様に御座います。如何で御座いましょう」
金貨二百五十万枚が、五百枚。欲を掻くのは駄目だと分かりつつも、この差額は流石にどうかと思うのよ。
「因みに旦那様。我が国での"窃盗"に関する刑罰は、鉱山労働五年と、定められております」
「っ……」
「どちらになさいますか?」
譲って下さいから、強請りに変化しました。
恐らく、あの糞大司教の財産を確認した際に、何か違和感を見つけたのだろう。ドゥシャさんの目が……本気だ。
「ぐっ、ばばっだ。ぶぶっ……」
「賢明な判断かと存じます。それでは、効果を確認する為に、旦那様に一滴、飲んで頂きましょう」
「ぼえっ?」
「院長様が鑑定したとは言え、念の為効果を確かめておきませんと。売った先で問題が起きては、困りますので」
それって被験者扱いですよねぇ。この顔面が治るんだったら、良いんだけどさ。
「お父さんのお顔、治るの?」
「雫が本物に御座いましたら、間違いなく治ります。院長様、雫をこちらに」
「どうぞ。一滴でも飲めば、完治するでしょう」
ドゥシャさんと院長影さんがそう言うのなら、飲んでも問題ない。と、思いたい。ミルンも心配そうに見てるし、ここは素直に頂くとしますかね。
「ぼばぶば」
「では、舌を出して下さいませ」
「びば? びびべぼ……んべ」
舌を出して準備良しっ、いつでも来いっ!
「失礼致します」
小瓶の蓋が外され、舌の上にゆっくりと落とされた、世界樹の雫。その効果は如何にいいいいいいいいいっ!?
「ほああああああああああああ────っ」
全身から光を放ち、あまりの心地良さに、大きく両手を広げ、空を見上げた。
「お父さんが光ってる!?」
「世界樹の雫を飲むと、光るのですね。次陛下にお会いしましたら、試してみましょう」
「流さん……気味が悪いですね」
「院長殿、同意するのである」
外野が何か言ってるが、そんな事も気にならないくらい、心穏やかリフレッシュ。心なしかお肌艶々、シワも薄れて五歳程若返った。そんな気分なんです。
「あーあーっ、げふんっ! おっ、顔の腫れが治って普通に喋れんじゃん。見た感じはどうなってる? 若返ったかな?」
「旦那様ですね」
「流君だな」
「流さんですね」
「お父さんです」
そんな素で答えんでも良いやん。
「どこも変わってない? 腫れが引いただけ?」
皆一様に、コクリと頷くとか、そんなタイミング合わせんでも良いやん。コントかよ。
「普通に喋れるだけでも、有難いけどさ……全部飲んだら、何か変わるかな?」
「それで御座いましたら、契約不履行となり、窃盗罪を適応致しますが?」
「言ってみただけだってのっ。お願いだから、普通に脅してくんの、止めて下さいね」
惜しい気もするけど、ドゥシャさんに譲ったんだから、返してなんて言わないっての。
「そんじゃ、リスタ、アジュ。俺の不手際ですまんけど、王都に戻って、アレやコレやの手続きを、頼んでも良いか?」
「分かりました」
「良いぜ。マッスルホース貸してくれんなら、王都なんて直ぐだからな」
「頼んだ。商業ギルドがゴネる様なら、城に行ってルシィに言えば、何とかなるだろ」
「ははっ、大丈夫ですよ。冒険者ギルドから商業ギルドへ、通達して貰うので」
へぇー、横の繋がりが、あるんだな。
「ドゥシャさん。支払い宜しくね?」
「お任せ下さいませ。彼等には、相場の五割り増しで、お支払い致します」
「五割り増しか、美味い仕事だな。おらっ! さっさと行くぞリスタっ!」
「はいはい。それでは、子供達の事を、宜しくお願い致します」
リスタとアジュは、馬車からマッスルホースを外して、そのまま飛び乗り、颯爽と駆けて行ったんだけど、アイツら格好良すぎだろ。
「流さん。そろそろ子供達を馬車から降ろして、休ませましょう。ずっと馬車の中で、相当疲れて居る様です」
「そうだな……魔物も居ないし、大丈夫か」
「私とドゥシャは、屋敷の掃除と、出来うる限りの改修を致します」
「それなら、俺とミルンは念の為、ここいらをぐるっと回るわ。安全確認は必要だろ」
「お願い致します。ヘラクレス様とレネアは、子供達が遠くへ行かない様、相手をしてあげて下さい」
「了解したのである」
「分かりました」
影さんが指示出しすんのって、随分と様になってるな。それにドゥシャさんを呼び捨てにしてるし、マジでどんな関係なんだろ。
「なぁドゥシャさん。院長影さんとは、古い付き合いなのか? 仲良さそうだけど」
「院長は、私の前任者に御座います」
「前任者って……メイド?」
院長影さん、メイドでもしてたのか? 美人エルフのメイドとか、浪漫溢れる姿なんですけど。亡くなった王太子の、側近だったっぽい話は聞いているけど、暗部的な人じゃないの?
「流さん。寿命を縮めますよ」
「あっ、はいっ、黙ります」
院長影さん、視線で人を殺せそうだよね。
「くーるびゅーてぃーめいどっ、ミルンなの!」
「そうだね。ミルンがメイド服を着たら、間違いなく、犬耳メイドミルン爆誕だよね」
「くーるじゃない?」
「ミルンは可愛い系だぞ」
今度メイド服を着せてみよう。可愛い過ぎて、天に召されるかもだけど。
「そんじゃ、影さん、ドゥシャさん。屋敷の事は任せた。村長とレネアも、ケモ耳っ子達の面倒を、宜しく頼むわ」
「んしょっ、んしょっ、準備良しっ!」
「ミルン合体完了っ! 流号発進しますっ!」
ミルンを肩車して、ゆっくり荒地を散策だ。
「やっぱミルンが肩に居ると、落ち着くなぁ。ある意味で、洗脳されてんのかね」
「そんなのしてないよ?」
「分かってるって」
そうしてラクレル村跡地を、ぐーるぐると。やっぱり目に入るのは、あの穴だわな。
「でっけえ穴だ……隕石の落下地点か」
「お水が出てるの。お魚さん居る?」
「湧き水っぽいから、お魚は居ないだろ」
直径は、正直言って分からん。見た感じだと、百メートルは超えてるだろうな。深さは十メートル程だろうか。ミルンの言う通り、綺麗な湧き水が出ている。
「このままだと、湖になるんじゃね?」
「泳げるのっ」
「それ良いな。泳げて尚且つ、貯水湖にもなるなんて、一石二鳥じゃん」
生きて行く為には、水は欠かせないし、村を一から作るなら、色々と活用出来そうだ。
「屋敷に近い芋畑以外は、全滅と」
「地面から煙が出てるの、なんで?」
「地面に熱が残ってるからな。あのボロ屋敷が無事だっただけでも、本当に奇跡だわ」
異世界だから、何かの不思議アイテムで、守られたとかだろうか。そんな事を考えながら、ミルンと歩いていると、パシャアッ──と穴の方から、何かが噴き出した様な音が聞こえた。
「何だ?」
穴の方を覗いて見たが、何もない。
「ほぁ──っ、凄いのっ」
「どうしたミルン? 何か見たのか?」
肩の上のミルンに、聞いたその時、今度はドポンッ──と水に沈む音が聞こえた。
「またか……何も居ないよな?」
穴を覗いても、ポコポコと小さな泡が出ているだけで、他には何も見当たらない。
「もしかしてあの穴、川と繋がってんのか? 魚でも飛び跳ねた音とか……」
「凄い飛んでたの。それでっ、そのまま落ちて行ったの。あれはなあに?」
「飛んで落ちた? 何を見たんだ?」
「分かんない」
実際に見たミルンが分からなければ、俺に分かる訳がないだろう。こちとら異世界人ですから、知らない事が多過ぎる。
「今の所は何もなしっと、屋敷に帰るか」
「任務完了?」
「一応な」
再度村をぐるっと一回りして、ボロ屋敷へと帰って来たんだけど、これは一体……どういう事だろうか。
「これ、ボロ屋敷だよな?」
俺とミルンが村を周っていた時間は、体感時間で精々二、三時間っていうところだろう。
「ぴかぴかしてるっ」
俺とミルンは目を擦り、三度見までしたのだが、目の前のボロ屋敷から、ボロが抜けてんの。小綺麗な屋敷になってんの。
「ミルン……俺は幻でも、見てるのだろうか」
「確認してみるのっ」
ゴスッと一発、ミルンの可愛いパンチを脳天に受けたが、痛いという事は、夢じゃないというな、本気で痛いんですけどミルンさん。
「あっ、影なのっ!」
ミルンが指差す方へと目を向けたら、一瞬だけど、影さんが着ていた黒外套が見え、屋敷の裏へと消えて行った。
「痛っ……今のは、院長影さんか? 何であんな姿を隠す様に行ったんだ。意味分からん」
「あれは影なのっ」
「院長影さんだろ? 他の影さなら王都に居るだろうし、ここに居る訳ないって」
「お父さんは時々、話が通じないっ。匂いが違うから、今のは違う影なのっ」
背中にタシタシと、ミルンの尻尾が当たる感触を楽しんでいたら、正面の扉が開き、ドゥシャさんと院長影さんが出て来た。
「お帰りなさいませ、ミルン御嬢様、旦那様」
「流さん、お帰りなさい。ミルンさんも、村を見て来てくれて、有り難う御座います」
「あれぇ……院長影さんさ。さっき屋敷の裏手に、走って行ってなかったか?」
「私はずっと屋敷の中に、居ましたよ。見間違いではないでしょうか」
「見間違いなのか……」
この二人、屋敷を掃除してたにしては、汗一つ掻いてないし、意味が分からん。
「流さん、屋敷の中で村の状況説明を。ミルンさんはゆっくりと、休んでいて下さい」
「ああ……はぐらかそうとしてない?」
「さっきのは影なのっ」
「旦那様。時間が惜しいので、状況説明をお願い致します。時間が惜しいので」
「ドゥシャさんまで……二回言うなよな」
美人二人に睨まれると、新しい世界に目覚めて、萌えあがっちゃうぞ。
「ミルンの話を聞くのおっ!」
ミルンの可愛いパンチが、俺の脳天にゴスッ──と振り下ろされたけど、泣きそうな程痛いんですよ、ミルンさん。加減して欲しいわ。




