1話 やらかし男の後始末.1
2026/08/03 加筆修正
大きな木槌を杭目掛けて振り下ろし、ゴッゴッゴッと、何度も地面に打ち付け、簡単に抜けないよう固定をする。
「ふへぇ……疲れる……」
チラッと目線を右に動かせば、直径何百メートルという穴に、水が湧き出て来ており、あれは地下水だろうか。
「どっこいしょ」
汗を拭い、穴を見ながら軽く小休憩。チラッと右を向けば、瓦礫が散乱する荒地。
「……果てしなき重労働ってか」
左を向けばトントントンと、まるで太鼓を鳴らすかの様なリズムで、小屋を仕上げて行く建築屋のおっさん達。
「……むさっ苦しい男衆だなぁ」
あの建築屋のおっさん達の為に、"ここに家を建てて下さい"と目印を打つ。その為に、延々杭打ちをやってるんだけど……終わりが見えない作業なんです。肉体的にも精神的にも、疲弊するわぁ。
「なんで俺が、こんな事をせにゃならんのか……自業自得だよねっ! 分かってますよっ!」
村に隕石爆撃かまして、ほぼ更地にしちゃったのは悪いと思ってるんだ。わざとじゃない。だからそろそろ、許して欲しい。
「自堕落な生活したーい。働きたくなーい。ミルンをモフってゆっくりしたーい」
「こらぁっ! 杭打ちを早よして貰わんと、小屋が建てられんだろうがっ!」
「チッ、親方が来やがったか。わーってるよ! やりますっ! やりますからっ!」
杭打ち作業強制再開です。力ステ低いから、全力で木槌を振っても、地面に中々刺さってくれないんだよ。
「えーんやこらさっ! どっこいしょーっ!」
そう言えば、自己紹介がまだだったな。俺の名前は小々波流。アラフォー間際の、立派なお兄さんだ。
あっ? 誰だ今おっさんって言った奴。身体はおっさんだけど、心は少年のままだから、間を取ればお兄さんだろ。
「脳内一人芝居乙っ」
「こらぁっ! 手を動かさんかっ!」
「やっとるわっ!」
後悔先に立たず、覆水盆に返らず。心身的にも、物理的にもやっちゃったから、文句は言うけどやるしかない。
「予定と違うなぁ……何でこんな事にっ」
俺は全力で木槌を振るいながら、この何も無いラクレル村へ、戻って来て直ぐの事を思い出していた。
さて、今この現状を伝える上で、これまでの経緯を、説明しなくてはならない。絶賛タコ殴られ中だけど、それは無視して欲しいと言うか、意識を保つ為に必要な事なのだと、理解して欲しい。
「お父さんっ! そこっ! そこよけるの!」
マウントを取られているのに、避けろと無茶を言って来るのは、犬耳幼女のミルン。俺を助けてくれた、心優しい肉食娘だ。好物は、オークの生睾丸。
食料品店で夜食を買込み、家に帰ってのんびりと、ネットサーフィンを楽しむ、筈だった。
いつの間にやら森の中。
豚野郎と鬼ごっこ。
崖からダイブで意識が飛んで、起きたら目の前に、犬耳娘のミルンが居た。
「ふはははっ! まだ息があるのだなっ!」
んで、俺にマウントを取って、笑顔でタコ殴りしてる筋肉は、ヘラクレス・ヴァント。ミルンとなんやかんやあって、逃げた先で良くして貰った筋肉だけど、ミルンを傷付け、殺そうとしてたから、俺が村ごと蹂躙かまして考えを改めさせた、ラクレル村の村長だ。
「旦那様は、ゴブリン並みの生命力に御座いますね。流石に御座います」
この人は、良く分からん。
ここには居ない聖女、リティナ・オルカス。
猫耳メイド、ニアノールさん。
この二人に、王都へと連れて行かれ、孤児院の院長、影さんと出逢い、ケモ耳っ子達と触れ合って、色々あったのよ。
糞大司教泣かしたり、大聖堂を消炭にしたり、ミルンの親権をルシィと争ったりと、短い期間で、本当に色々とあった。んで、孤児院のケモ耳っ子達を、無人となったラクレル村へ移住させ、ケモ耳の村とする事に決まった訳だけど、この有様なんです。
「ふぅっ……村の状況を、見に行くのである」
「お父さんのお顔が、ぱんぱんっ」
「呼吸、脈拍共に、正常に御座います。ヘラクレス様。加減なさったのですね」
「当たり前である。流君にはしっかりと、働いて貰わねばならぬからな」
ここで問題です。何故俺は、村長にタコ殴りされて、引き摺られているのでしょーうか。答えは簡単。孤児院のケモ耳っ子達を連れて、ラクレル村近くまで帰って来たら、魔物に占領されていたから、魔法で一掃しようとしたら、隕石落下をかましてしまい、魔物だけでなく村も一緒に消えました。
「びばび、ばべべび」
「つんつん、痛そうなのぉ」
「ばべべでべ、びぶん?」
「なに言ってるのか、分からないの。つんつん」
ミルンさんや。俺がなんて言ってるのか、絶対に分かってて、つんつんしてるよね? 尻尾が楽しく動いてんのよ。
「ぶふぅ……」
そうして簀巻きにされ、ラクレル村……跡地まで、状況を確認しに来たけど、コレは酷い。
「魔物は、全滅であるな。しかしコレは……どうしたものであろうか」
「獣族達に住まわせる予定の家屋が、見事に全壊に御座いますね。残っているのは……」
「流君に貸していた、あの屋敷であるな」
「ぶべぇば。ばんべぼぼっべぶんば?」
隕石の衝撃に耐えるとか、凄くね? 今にも倒壊しそうなボロ屋敷なのに、周囲の木は倒れ、木炭の様に焦げ、雑草も燃え尽きてるのに、普通に建ったままなのよ。
「ふむ……取り敢えず孤児院の子供達は、あの屋敷で、寝泊まりをして貰うとしよう」
そう言うと村長は煙を焚いて、遠くに避難した避難したリスタ達への、合図なのだろうか。少し待っていると、遠くに馬車が見えた。
「矢張り、あの空から降って来た物を見て、戻って来ておったであるな」
馬車が来るまでに、ボロ屋敷の内外を確認して、住めるかどうかを確認。あの隕石の衝撃波を受けたのに、俺が泊まってたまんまなの。
「お待たせしました……酷い荒れ様ですね」
「まったくだ。そこの馬鹿者が意味の分からぬ魔法を使いおって、この有様なのである」
「ぢょっぼばっべっ!? ぼぶばぶぶばっ!」
村長が拳を握ったので、顔を必死に逸らします。簀巻きだから、逃げれないのよ。サンドバッグ流爆誕っ! なんてのは無しでね。
「顔面腫れてんのに、何か元気だよな?」
「タフなのであろう。それで済まぬが、リスタ君とアジュ君。至急王都へと戻り、商業ギルドへ、依頼を出して来てはくれぬか」
「この状況ですからね、馬をお借りしても?」
「構わぬ。依頼の金は、流君に負担させる」
「ばっ? ばびびっべんぼ?」
商業ギルドへの依頼料は、俺に負担? そんな大金、俺が持ってるとでも思ってんの?
「ヘラクレス様。どうせならば、旦那様に支払われる棒給も、充てては如何でしょうか」
「それは良いな」
「ぼぶばいばっ!? ぼべぼぼぼっ!」
「そうかそうか、了承してくれるかっ!」
「びばぶっ!?」
この村長っ、俺の滑舌が悪い事を利用して、なし崩し的に金を毟り取る気だぞ。
「ねえ、村長」
「何かね、ミルン君」
「お父さんね、あのスキルにお金沢山入れてるの。金ピカいっぱい小金持ちっ」
ミル──ンっ、それ言ったら駄目っ!!
「ほぅ……流君」
「ばんば……」
「全部出すのだ」
この異世界で、また無一文スタートですか?
「ぼんばぼぶばびばっ!?」
「お父さんが嫌がってる……」
「この惨状の責任を、取って貰わねばならぬ。諦めて全て出すのだ」
異世界で、もう無一文は嫌だ。
金の裸婦像とかも、希少な鉱物だから手放したくないし、何か他の物はないかと、"空間収納"内を確認する。
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(一覧)
ミルンの尻尾の毛玉
ミルンの耳毛
ミルンの髪の毛
ミルンの抜け毛
ラクレル村の肉屋の在庫▼
ラクレル村の花屋の在庫▼
ラクレル村の農作物▼
ラクレル村の資材▼
流のお金▼
ミルンのお金▼
ルシィのお金▼
ミルンのお洋服一式▼
ミルンの私物一式▼
ミルンのミノタウロス肉(500キロ)▼
ミルンのオーク肉(300キロ)▼
ミルンのコカトリスの肉(198キロ)▼
王都肉のタレ▼
孤児院の子供達の私物一式▼
オークの骨▼
コカトリスの骨▼
ミノタウロスの骨▼
オーク肉(700キロ)▼
コカトリスの肉(500キロ)▼
ミノタウロスの肉(500キロ)▼
米っぽい作物▼
王都の香辛料▼
王都の作物の種▼
王都の野菜▼
王都の果物▼
王都のキノコ▼
王都の調理器具セット▼
王都の食器セット▼
王都の建築資材▼
王都の家具▼
金の器
金の皿
金の精霊像
金の裸婦像
金の塊(二キロ)
金のブレスレット
金の鎧
金の盾
金の剣
金の指輪(十個)
世界樹の雫
世界樹の枝
回復薬(二十個)
解毒剤(十個)
万能薬(十個)
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視線で操作出来んの、初めて知ったわ……金以外の物となると、世界樹の枝と雫だけど、枝は取っておきたい。試しに植えてみたいからな。残るは……世界樹の雫か。
「ばっ……ぼべべぼうびば」
空間収納から、慎重に手の平に出して、後ろ手に村長に見せてみる。絶賛ロープで、簀巻きされ中ですもん。
「何だねそれは? 金貨ではない様だが」
「べばびぶぼ、びぶぶ……」
「何を言っておるのだ?」
うん……顔腫れてるから、伝わらない。
村長は小瓶を受け取り、まじまじと見ているけど、落として割れたら洒落にならんぞ。
「さっきから、何をしているのです」
「院長殿。流君から、金を貰わねばならぬのだが、何故かこんな物を渡されてな」
「それは、薬でしょうか」
馬車の荷台から降りて来た、この金髪美人エルフさんが、孤児院の院長、影さんだ。謎が多過ぎる、不思議エルフさん。
「拝見させて頂いても?」
「構わぬ。私は薬に疎くてな」
「ふむ……小瓶は既製品ですねっ!?」
院長影さんが、村長から小瓶を受け取って直ぐ、口を半開きにして目をクワッとさせ、震え始めた。鑑定でもしたのだろうか?
「せっ、世界樹の雫っ!?」
「世界樹の?」
「雫で御座いますか……国宝級に御座いますね」
「なあにそれ?」
院長影さんの反応に、村長とミルンは疑問の顔を浮かべたが、ドゥシャさんだけその価値を示してくれた。国宝級だってさ……マジかぁ。
「ぼべっべ、びぶばぶばび?」
喋りにくいので、指を使って、幾らなのとジェスチャーしてみる。
「流さん。世界樹の雫で、現存している物は、この国で一つ、隣国で二つのみです」
合計三個しかないの? 超レアアイテムじゃん。ドゥシャさんが言った国宝級と言うのも、分かる気がするわ。
「ですので、この小瓶に価値を付けるならば、最低でも、王城五つ分。金貨二百五十万枚以上の価値があるかと……」
「ばびべっ!? びぼびぶぶぶんっ!?」
二千五百億ストールとか、物価の安いこの国だと、一生どころか、子々孫々に至る迄、遊んで暮らせる金額です。
そんな大金になるなら、ラクレル村を復興させても、余りまくるじゃん。勝組人生謳歌しながら、ケモ耳っ子達と暮らせるじゃん。
流は変な踊りを踊った。
頭が混乱している様だ。
そんなの当たり前だろ。
「お父さんが可笑しくなった!?」
「流さん。小躍りしている所、申し訳ないですが、その様な大金を得る事は、難しいかと」
「べっ? ばんべ?」
「売りたいと思っても、そもそも買える人がいません。貴重過ぎるのです」
「ぼっ、ぼんば……」
何その、天国行きのチケット貰ったのに、ダイレクトに奈落行きみたいな言い方。上げて落とすと言うか、叩き付けられたぞ。
「王城五つ分なぞ、無理であろうな」
「お父さんっ」
「ばんば?」
「宝の持ち腐れ?」
ミルンさんや、その通りだね。国宝級、金になるかと思いきや、貴重過ぎて、売るに売れぬこの状況。悲しみのあまり、簀巻きのまま三角座りしちゃいますよ。
「でしたら旦那様。僭越ながらその雫、このドゥシャめに、お譲り頂けないでしょうか」




