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異世界とは愛すべき者達の居る世界  作者: かみのみさき
二章 異世界とはのぢゃっ子ドラゴンの居る世界

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プロローグ② 聖女リティナの調べ物


 2026/08/04 加筆修正



 このエイドノア大陸で、魔物よりも厄介で、出遭ったら不味い存在は誰かと問われたら、以前のウチならこう答えてた。

 

『そんなん、東西南北に居る魔王やろ?』


 西の魔王はまだええねん。一度会った事があるけど、上手く旦那が宥めとったから、そこまでの脅威には感じえへんかった。

 他の魔王は、見た事あらへん。

 院長先生に注意されとっただけやし、ウチは国外なんて行かへんから、なんとなく危ない奴らやて思うとるだけや。


 でも、今は違う。


 小々波(さざなみ)(ながれ)──ウチが流にーちゃんって呼んどる、魔王と噂される得体の知れへん者。この流にーちゃんこそ、不味い存在そのものやと思うわ。

 

「もう王都を出た頃やろうか」


「そうですねぇ。本当に、見送りに行かなくてもぉ、良かったのですかぁ?」


「どうせウチらも、調べもん終わったら行くんやさかい、わざわざ見送らんでもええやろ」


 ウチらが見た、流にーちゃんのあの魔法。孤児院の火を消した、天候操作。大聖堂を消滅させた、白く輝く光の柱。

 

「(神話の時代の魔法……か)」


 大聖堂に保管されとった書物には、神級魔法として載っとった、神々の魔法。詳しく調べ様にも、その書物ごと既に消し炭や。


「人外、魔王かぁ」


 真心の水晶が赤く光ったから、相当な化物やとは思ってたけど、見た目がただの中年やったさかい、そこまでは警戒はしてへんかった。

 でも、それは間違いやった。

 味方やから良いものの、一度怒らせたらエグい事ばかり考えて、更には意味不明な魔法までぶっ放す、正に魔王その者やった。

 

「リティナ・オルカス嬢、陛下がお呼びです」


「やっとかいな。ほな、ニアはここで待っといてな。あん女王に会ってくるわ」


「畏まりましたぁ」


 せやから魔王に興味を持った。城の書庫に入り浸って、魔王に関連する書物を探した。せやけど、城の書庫には手掛かり一つなく、結局は女王に頼み込んで、禁書庫内を探してもろた。


「女王の奴、ほんまに見付けたんやろな」


 貴賓室を出で兵士の後を歩き、謁見の間ではなく執務室の前へと来た。あん女王とウチが会うだけやさかい、妥当な場所やな。


 コンコンコンッ──「陛下。リティナ・オルカス嬢を、お連れ致しました」と兵士が扉に向かって言うと、『入れ』と声が聞こえた。


「リティナ・オルカス嬢。どうぞ、中へとお入り下さい。私はここで失礼致します」


「へいへい、ご苦労さんや」


 執務室の扉を開き、ゆっくりと部屋の中へ入ると、こん国の女王ルルシアヌ・ジィル・ジアストールが、机に向かって仕事をしていた。

 

「聖女か……そこに座って茶でも飲んでおれ。もう少しでこの書類が、片付くのでのぅ」


「相変わらず、偉そうな喋り方やなぁ。ホンマっ、そん喋り方は似合ってへんて」


 赤い髪を縛り、同じく赤い瞳を机に向けて、偉そうに喋っとるこん女王は、昔はこんな喋り方やなく、今は猫被っとんのや。


「どっこいせっと、ほな貰うで」


「うむ」


 茶をズゾッ──と飲み、焼菓子をバリバリと頬張り時間を潰していると、ようやく執務に区切りがついたんやろう、女王が前の席に座って、焼菓子に手を伸ばして来た。


「まったく……相変わらず御主は、食べ方が汚いのう。少しは礼儀作法を学ばぬか」


「ウチは貴族ちゃうねんで?」


「少しは気にせよ。我が国としても、御主を聖女として認めている以上、外面だけはしっかりと繕って貰わねばな」


「あんたらが勝手に、ウチを聖女扱いしとるだけやろ。ウチはそんなん要らへんねんで」


 ジアストール王国と、流にーちゃんがほぼほぼ潰した教会共が、勝手にウチを聖女認定しとるだけやし、失くなっても困らへんわ。


「何なら聖女の称号、あの恵の一本を生やす魔法使いに、譲渡したろか?」


「あの者は男でろうに、聖女にはなれぬわ。聖人というにも俗物過ぎて、分不相応だろうの」


「まああのおっさんは、ウチ以上に金に執着しとるからな。ボロい商売しとんでほんま」


 更地となった頭皮に、一日一本の恵みを与えるだけで、貴族共から大金をせしめとる奴や。聖人とは言えへんやろうな。


「して、流はラクレル村へ行ったのか?」


「出発したやろな。ウチは調べ物してたさかい、見送りはしてへんで? どうせ少ししたら、ウチらも向かうねんから」

 

「そうか。これで少しは、この王都も静かになるのぅ。流の……あの魔王の所為で、どれ程儂が忙しくなったかっ」


 アルテラ教大聖堂消失事件。

 獣族を長く虐げて来た、アルテラ教の大司教、オーグド・ディムニの行いが、獣族を擁護する魔王の怒りを買い、大聖堂が光に飲み込まれて消失した。


「あん教会の馬鹿共を放置してた、女王にも責任があるやろ。ウチらの家を燃やして、餓鬼共にも被害が出たんやで」


「分かっておるわ」


「それにあんた的にも、悪い事ばかりやなかったんやろ? 顔に出とるで」


 長く手を出されへんかった、教会の膿を出し切って、邪魔やったあの大臣を処分出来たんや。ウチなら絶対、大爆笑するで。


「ほんで……たにょんぐんぐでたあれ」


「食べながら喋るのではありません! 良い加減場所を弁えて下さいまし!」


「んぐっ、ぷは。そっちの喋り方の方がしっくりするわ。おっさん風に喋られとると、気持ち悪うて吐き気すんねん」


「……お主と話しておると、疲れるわっ」


 それならお互い様やろな。


「んで、ウチを呼び出したっちゅう事は、頼んでた本を見付けたんか?」


「魔王に関する書物であろう。お主の求める物かは知らぬが、一冊だけ、それらしき物があったと報告を受けたわ」


「誰に探させたんや……」


 城の禁書庫って結構広い筈やけど、この短時間で探し当てるって、相変わらず人使いが荒い女王やで。


「持って来させよう。影、来るのじゃ」


 あぁ、ジアストールの暗部らか。


「こちらに」


「うひっ!? 急に現れんなやっ!」


 いつの間にかウチの背後に居るって、このジアストールの暗部共、気配を消して来おるから、ほんまに心臓に悪いねん。


「リティナ様、こちらが御所望の本になるかと存じます。お確かめ下さいませ」


「……あんがとさん」


 本を受け取ると、影はそのまま「それでは、失礼致します」とだけ言って普通に歩き、そのまま"扉"から出て行った。


「いや、歩いて出て行くんかい! なんや出て来た時みたいにっ、パッと消えんかい!」


 思わず突っ込みを入れてもうたやん。ほんま恐ろしいわぁ、影っちゅう人ら。女王もなんや頷いとるし、毎回これしとんのかいな。


「まあええわ、見させて貰うで」


「好きにすれば良かろう」


「上から目線やなぁ……ふんふん。女王あんた、この本の中身見た事あるんか?」


 女王は眉を上げ、首を横に振る


「昔の魔王なんぞに興味はないからのぅ。興味があるのは、今の魔王だけじゃ」


「あんた、不勉強過ぎるやろ……」


「何じゃ? 面白い事でも書いてあるのか?」


「面白くはないで」


 この本は、ジアストールの裏の歴史書。

 冒頭のこの内容が事実であるならば、あの流にーちゃんと出逢った村──ラクレル村近くを流れる魔龍の川には、その名の通り、魔龍が封印されとる可能性がある。


「……ここじゃ読み切られへんな。なあ女王、この本借りてもええか?」


「構わぬ。ただの本じゃし、読み終わったら返してくれれば良い」


「そんじゃ、ニアも待っとるし、ウチは行くわ」


 ニアを放置し過ぎると、猫人らしく本気で拗ねおるから、機嫌取るのに苦労すんねん。


「うむ。次に会う時までには少しでも、礼儀作法を身に付けて来るのじゃぞ」


「うっさいねん。ほな女王、この本貸してくれて有り難うな。ウチは宿におるさかい、他にも似た本が有ったら言うてや」


「……はっ?」

 

 何や呆けとる女王を放置して、そのまま貴賓室へと向かい、部屋に入ると──ニアは美味しそうに紅茶を飲んどった。


「お待たせや、ニア」


「大丈夫ですよぉ。メイドさん達がぁ、お茶をご馳走してくれましたのでぇ」


 ナイスやメイドはん。尻尾の揺れ具合から見ても、拗ねてへん様やし助かったわ。


「それでぇ、お目当ての本はそれですかぁ?」


「それやったら、読んでみんと分からんな。宿屋に帰って、内容を確認するわ」


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