プロローグ 目覚めるモノ
2026/08/04 加筆修正
とある地の奥底で、透明な檻の様な物に閉じ込められながらも、穏やかに眠るモノが居た。
『ああああああああああああああっ何っから突っ込みを入れて良いか判らない処理をするな馬鹿者おおおおおおおおおおおおおお!!!』
それは──神の波動。
五百年もの長きに渡り、透明な檻はその力を失いつつあった。その檻を神の波動が襲い、震わせ、ピシィッ──とヒビ割れたのだが、ギリギリ壊れる事はなかった。
『村滅ぼしてんじゃないのよおおお──っ!? このっ、お馬鹿あああああああああああああああああああああ────っ!!』
しかし、そんな状態の檻を二度目の神の波動が襲い、ヒビ割れが徐々に広がって行き、パリィンッ──とガラスが砕け散ったかの様な音と共に、檻が掻き消えてしまった。
二柱の神の、本気のツッコミの波動。
本来ならば、多少天変地異や、作物の実りに影響が出る程度で、世界への影響は、微々たるものの筈であった。
ゆっくりと目を開ける。力が出ない。記憶も曖昧だ。動こうとするも大地に挟まれ、巨体が邪魔となり、自由に動く事が出来ない
「グルルルッ……」
喉を鳴らし、ここは何処かと眼を動かす。
完全な暗闇の中でも、その眼はしっかりと見えている。上から水が滴り落ち、周囲は岩に挟まれている。どうやらここは、洞窟の様だ。
「ゴアアアアアアアアア──ッ!!」
窮屈に苛々して叫び声を上げるが、無駄に響くだけで、ただ煩いだけだと理解した。
「グルゥゥゥ……」
そうしてボーッと動かずに居ると、ゴギュルルルッ──と腹の虫が鳴き、何か食べ物はないかと周囲を確認するが、ある訳がない。
そのモノは考える。
腹が減った。血の滴る肉が食べたい。
いつ食事をしたのだろう。
ここは何処なのだろう。
そんな事を考えても、ゴギュルルルッ──と鳴く腹には、何の意味もない。寧ろ色々と考えた所為で、余計に腹が減ってしまった。
「ゴアアアアアアアアア──ッ!!」
そしてまた無駄に叫び、煩さに顔を顰めて空腹に襲われる。そんな事を幾度も繰り返し、叫ぶ内に、ようやく答えに辿り着く。
この巨体が邪魔ならば小さくなれば良い。小さくなって上へと掘り進め、出た先で獲物を狩れば、窮屈からも空腹からも解放される。一石二鳥の案だと、自らを褒め称えた。
「グルルルッ、ゴアアアアアアアア──ッ!!」
そのモノは、僅かに残る力を振り絞り、記憶の奥底に薄っすらと残る"人の姿"へと、自らの身体を作り変える。
「アアアアアアっ、あああああああああっ!!」
洞窟内を自ら発する光で照らし、ゆっくりと、ゆっくりと、人の姿へと作り変える。そして──光が収まると同時に一息吐いた。
「ふへっ、ぶはぁっ、ふひぃっ……ふぅぅぅ」
自らの手足を確認すると、力が弱まっていた所為なのか、手足がとても小さく、先程まで窮屈に感じて居た場所が、やたらと広く感じる。
そして、そのモノは動き出した。
壁へと向かい横穴を掘り進め、頃合いを見計らい、上へ上へとその手に伸びる立派な爪を使って、掘り進めて行く。
地上はまだか、地上はまだかと、掘り進めた先で、大きな岩が行手を遮っていたのだが、立派な角の生えた頭で──頭突きを一発。
「ほぇっ? ぶふっ!?」
見事岩に亀裂が走り、粉々に砕け散った──と同時に鉄砲水が顔面を直撃し、掘り進めた穴を逆走して、最初の洞窟へと帰還。
そのモノは辺りを見てそれに気付き、地団駄を踏んで、声を荒げた。恨めしそうに勢い良く流れ込んでくる水を睨み、さてどうしたものかと考える。
「むむむむむぅっ……ハッ!」
考える事一時間。ピコーンと二本の角の間に光が灯り、閃いた感を自ら演出する。
「ふへぇ……ぷぷぷぷぷ」
この洞窟内に、落ちてくる水が溜まるのを待ち、上から流れ込んで来る水と繋がった瞬間、泳いで行けば良いのだ。
「ふむふむ」
洞窟に水が満ちる間、クロール、平泳ぎ、背泳ぎ、バタフライをして身体を水に馴らし、ついでに落ちて来た小魚を食べ、少しでも空腹から逃れようとする。
そうして時間を潰していると、洞窟内が水で満たされ、そのモノは上へと泳ぎ始めた。上へ上へと、鯉の滝登りの如く、水の流れに逆らいながら泳いで行く。
「ぷぽぽぽっ!」
泳ぐ先に光が見えた。あと少しと水を蹴り、そのまま勢い良く空中へと飛び出す。
岩よりも高く、木々よりも高く、陽の光がそのモノを、暖かく照らしている。
「────ほぅ」
空から地上を見渡すと、近くにとても目立つ、"ぽっかりと穴が空いた大地"を見付けた。そこを目印に行ってみようと思い、地上に降り立つ──筈であった。
「のじゃっ?」
翼をパタパタするが、飛べない、飛ばない。
「の────ぢゃふっ!?」
そのまま急降下からの川へと突っ込み、自ら開けた穴へと吸い込まれ、開いていた横穴にすっぽりと嵌り、そのままスポンっと呑み込まれてしまった。
「がぽぽぽ────」
何処へ行くのやらと水中で考えていると、ゴキュルルルルル──と忘れていた空腹感に襲われ、力なくそのまま流されて行く。
「(お腹が空いたのぢゃぁぁぁ)」
何処までも、何処までも流されて行く。
何処までも、何処までも、そして────




