side1 ミルン.1
2026/02/19 加筆修正致しました。
私はミルン、お父さんの娘。
私はミルン、パパとママの子供。
今でも鮮明に、覚えている。
忘れる事の出来無い、あの時の記憶。
夢にまで見る、あの時の記憶。
優しいパパに抱っこされて、ちくちくするお髭で、じょりじょりされた記憶。
優しいママに抱っこされて、一緒にお勉強したり、遊んだりした記憶。
そして────パパとママの、最後の記憶。
震えが止まらない。
自然と目から、涙が溢れて来る。
そんな時は、お父さんに甘えるに限る。
そっとくっ付いて、横になると、お父さんは寝ている筈なのに、抱き締めてくれて、優しく頭を、撫でてくれるのだ。
たったそれだけで、スッと、さっきまでの震えが収まり、気持ちが楽になる。
お父さんが、大好きだ。
甘えたくて、声色を変える程に。
それでもやっぱり、忘れられない。
怖い、辛い記憶だけど、だからこそ、お父さんに出逢う事が、出来たから。
怖くて悲しいけども、優しい記憶。
忘れたら駄目な、私の記憶。
私は物心付く前から、ユカリママの目を盗んでは、家の中を徘徊する、良く言えば元気、悪く言えば、お転婆な娘だった。
「こらミルンーっ、勝手に入っちゃ駄目でしょ」
ぼんやりとだけど、ユカリママに抱っこされて、美味しそうなお肉から、引き離された記憶が残っているの。
「だぅぁうーっ」
「まったく。剥製に涎って、可愛い娘だわぁ。すぅぅぅ、はぁぁぁ……良い匂い」
「むぅぅぅ、やぅぁう」
そう言えば、匂いも嗅がれていたっけ。
温かいお湯で、毎日パパに洗って貰っていたのに、そんなに匂ったのかな?
「ただいまーっ! ユカリっ! ミルンっ! パパが帰って来たよーうっ!!」
パパの事は、はっきり覚えている。
キリッとしてたら格好良いのに、いつもニヤけているから、正直気持ち悪かった。
「ユカリーっ、お帰りの尻尾をふがっ!?」
「全く……ミルンより子供じゃない」
「はぁーっ、癒されるうぅぅぅ」
こんなパパなのだ。
忘れる事なんて、出来無いでしょ。
ママの尻尾に顔を埋めて、ニヤけ顔が、更に気持ち悪くなるパパだもん。
「ほらミルン。パパが帰って来たよーっ」
「ゼスったら。ミユンはまだ、喋れ無いでしょ」
「まぁまっ」
「「喋ったっ!?」」
私は物覚えが、良かったのだ。
「ミルン、パパは? ほらっ、パーパ」
「ふっ、残念ね、ゼス。ミルンはママの事が、大好きだもんねー?」
「まぁま、ぱぁぱ?」
「何でパパだけ疑問なのっ!?」
パパが床に崩れてしまった。
「すかさずキスだ──んぐっ!?」
ママ必殺の、アイアンクロー。
ママは良く、硬い果物を手搾りしていたから、本気でパパの顔を握っていたら……。
「こらパパっ! ミルンにキスをするなら、先ずは手洗いうがい、歯を磨いて、お風呂に入ってからって、約束したでしょ!」
パパはバイ菌?と言う、悪いモノが沢山付いているから、そこまでしないと、私に触れる事すら、許されなかった。
バイ菌って、何だろう?
「痛いよユカリ……直ぐに全部、終わらせて来るからさ……離して?」
「はいはい。それじゃあ、お願いね」
「ふぅ。待っててねミル──ンっ!!」
直ぐ洗って来るからと、走って行くパパ。
家の中では、ママが最強っ。
「じゃあミルンは、パパが帰って来るまで、お勉強しましょうねーっ」
ママの尻尾が、ユッサユッサ揺れている。
やっぱり、綺麗な尻尾だと思う。
そんな綺麗な尻尾の、ユカリママは、私に毎日、お勉強と言う遊びを、教えてくれた。
「ミルン、これなーんだ?」
「まぅぅぅ、おーうっ」
「正解っ。それじゃあ、これなーんだ?」
ママが絵を描いて、私がそれを答える。
楽しいお勉強だった。
沢山の言葉を、ママから教わった。
「むぅ、おういんっ」
「正解っ。ミルンは賢いねぇ」
そう言ってママは、笑顔で私の頭を、優しく撫でてくれた。
楽しい楽しいお勉強。
ダダダダダダッ────「お待たせミルンっ! さあっ、お帰りのチュゥゥゥっ!」
それを邪魔するのは、いつもパパだった。
水浸しのパパ。
床もお水で濡れている。
そして、ママ必殺のアイアンクロー。
「毎回パパは、困った子だよねぇ?」
「ああっ!? 割れるっ! 割れるっ! 助けてミル──ンっ! ミルン?」
「ぱぁぱ?」
「また疑問っ!?」
そんな日が、ゆっくりと過ぎていった。
「なあユカリ? 前も思っていたんだが、何で蝋燭を立てるんだ?」
「んっ? そんなの私も、知ら無いわよ。私的には、元気に育ってくれて、有り難うって言う、愛の蝋燭かしらね」
「へぇーっ、愛の蝋燭か。それなら僕は、ずっと心に、それが灯っている訳だね」
「……臭いセリフよそれ?」
この頃になると、パパとママの言っている事が、ハッキリと、理解出来る様になっていた。
蝋燭が二本だから、二歳の誕生日だ。
「パパとママは、あつあつなの」
「「っ!?」」
そんな事を言ったら、物凄く驚かれた。
驚くよりも、目の前にあるモノを、早く食べたくて、涎が止まら無いの。
特別な日にしか、食べられ無いモノ。
私の大好物の、おっきなお肉っ。
「ミルンの涎が凄いな……可愛いっ」
「ほんと、冒険者さんに、感謝しないと」
「そこは、パパに感謝だろ?」
「はいはい。ミルンの為に、魔物討伐に参加した、強い強いゼスに、感謝するわ」
もうお肉を食べても、良いのかな?
「ほらゼス、ミルンが待ってるじゃない」
「おっと、そうだね。それじゃあ言うぞっ!」
「「お誕生日っ、おめでとうっ!!」」
お肉へ齧り付く、合図だと判断した。
直ぐに『ふっ』と一息で、蝋燭の火を消して、おっきなお肉に齧り付く。
「むきゅむきゅむきゅ……パパとママの分っ」
手でお肉を毟って、ママには多めに、パパには少なめに、分配した記憶がある。
「ミルンは良い子ねぇ。ゼスっ、そんな暗い顔しないの。分けてあげるからね」
「ははっ。それなら僕からは、コレを進呈しようかな。冒険者から貰った、良いお酒だ」
「お酒っ!? 流石ゼスっ、愛してるぅっ」
お肉をむきゅむきゅと、頬張りながら、この先の展開を、良く考えていた。
酔ったママに、パパのお肉が奪われる。
「むきゅむきゅ……やっぱり、ママはつよいの」




