エピローグ
2/13 加筆修正致しました。
ここは、世界の狭間。
灰色の空間が、何処までも、何処までも、何処までも続く、神域と地上の、境目の場所。
そんな場所で、ふわふわと漂いながら、額の汗を拭う"フリ"を、する者が居た。
「あーっ、危なかったですねぇ。まさか、殴りかかって来るなんてぇ。あの時、介入しなければぁ、当たってましたよぉ。ぷぷぷっ」
上か下かも分からぬ場所で、くるくると回りながらも、考える。
変質は、抑える事が出来た。
しかし、別の問題が起きてしまった。
「あれしかぁ、無かったとは言え、魔王の卵ですからねぇ。ふとした拍子に、孵化しちゃったらぁ、不味いですよねぇ」
あのまま変質していたら、それこそ勇者と言った、あの世界にあってはならない存在が、誕生していたかもしれない。
「勇者は、神様の影響下ですからぁ、私にとっては、邪魔なんですよねぇ」
と言っても、あの世界に、勇者なんて存在が産まれた事など、一度も無い。
「何処かにぃ、良い材料でも有ればぁ、試してみたいですねぇ」
神様の影響下に無い、勇者を作る。
勿論、神の目を盗んで。
「それでもぉ、"彼と"同じくぅ、魔王になられでもしたらぁ、困るんですけどぉ、どうしましょうかぁ。ぷぷぷっ、楽しいなぁ」
その顔は、困ると言うよりも、玩具を壊すまいとする、子供の様な笑顔である。
数多居る異世界人の中で、唯一、私の干渉を防ぎ、脱した、"ジアストールの魔王"。
「"哲也"ぁ、何処に居るんですかぁ、ぷぷぷっ」
くるくるくるくると、その場で前転をしながらも、次の手を考える。
どの様に干渉しようか。
どうすれば、思う様な存在になるのか。
くるくるくるくると、前転をしていたら、ふと、気になるモノを見つけた。
ピシィッ────「あらぁ、これは……っ」
目の前にの空間に、亀裂が走った。
この狭間は、自身の制御空間であり、他の者には、干渉出来ない筈なのに。
それが可能な存在は────『見つけたわよりしゅえええええええええるっ!』
逃げようとしたが、遅かった。
亀裂から伸びてきた手が、リシュエルの頭を掴み取り、そのまま締め付ける。
『貴女っ、やってくれたわねぇ……』
「痛いですぅ、アルテラさまぁ」
亀裂が拡大して、ゆっくりと、時間をかける様に、狭間に入って来る存在。
女神アルテラが、姿を現した。
「ボソッ(目が痛いですよぉ)」
「聞こえてるのよっ! 目を開けなさいっ!」
リシュエルが、目を閉じる理由。
それは、女神アルテラの姿を見ると、目が潰れるのでは? と、思っているからである。
長い桃色の髪に、桃色の瞳。
桃色の唇からは、桃の香りがする。
桃色のドレスには、金色に輝く神具を付け、そこに嵌め込まれている宝石も、桃色。
勿論ヒールも、桃色だ。
桃色による、桃色の為の桃色。
「なんでぇ、普通のピンクにぃ、しないんですかぁ? 痛い姿ですよぉ?」
「黙らっしゃいっ!」
「申し訳、御座いませぇーん」
リシュエルは、軽口を叩いている様に見えるが、内心では、口から下呂を吐き、アルテラにぶちまけたい気分である。
片や、信仰神の一柱。
片や、神様の奴隷。
どう足掻いても、勝てる訳が無い。
正に、ドラゴンに睨まれた、可愛い兎。
脱兎の如く、逃げ出したい。
「えぇっとぉ、どの様な御用件でしょうかぁ。転生神様ならぁ、別の空間ですよぉ?」
ミシミシと、頭蓋が嫌な音を立てる。
「分からないのかしらぁ、リシュエエエエエエエエエルちゃああああああんっ?」
「皆目ぅ、見当もぉ、つきませんねぇ」
ミシミシと、頭蓋が嫌な音を立てる。
「貴女のミスの所為でぇ、送られて来た馬鹿がぁ、私の美貌を讃える為に作らせたぁ、私の為の像を……っ、壊したんでしょうがっ!!」
「えぇぇぇ、それぇ、私の所為ですかぁ?」
「当たり前でしょうっ!?」
アルテラ様の信徒が、アルテラ様と同じく、頭が愉快な方達ばかりで、自業自得では、無いのでしょうかぁ。
そんな事を口にすればぁ、頭蓋が割られるのでぇ、思うだけにしますぅ。
「何よその目は。存在ごと……潰すわよ」
「止めてくださぁい。申しわけぇ、御座いませんでしたぁ、アルテラさまぁ。この通りぃ、反省しておりますぅ」
「謝る時はっ、頭ちゃんと下げなさいよ!!」
「理不尽なぁ、要求ですねぇ」
ミシミシと、顔面を掴まれたままで、どの様にして、頭を下げろと言うのだろう。
流石、女神アルテラ様。
あの愉快な信徒達が崇める、神の一柱。
「頭を下げないのら、割るわよ……」
メキィッと、頭蓋が嫌な音を立てる。
「そんなに怒らないで下さぁい。やらかした彼もぉ、今は大人しいですからぁ、もう迷惑はかけない────ふぇっ?」
彼の現状を見てもらう為、指を鳴らして、地上の映像を、アルテラに見せた。
今頃彼は、獣族達を引き連れて、村での暮らしを、始めようとしている頃だろう。
そう思って、アルテラに見せたのだ。
「ねぇ……リシュエル?」
「えぇっとぉ、これはぁ……」
リシュエルにも、予想外の出来事。
映し出された映像は、彼が発動したのであろう、『神級魔法・メテオライトフォール』が、丁度ラクレル村に、直撃した瞬間であった。
「ねぇ……リシュエル?」
「ほらぁ、アルテラさまぁ、見て下さぁい。まだ無事な家もぉ、有りますよぉ?」
「本当ねぇ、凄いわぁ……」
ミチィッと、頭蓋が嫌な音を立てる。
「村滅ぼしてんじゃ無いのよおおお──っ!? このっ、お馬鹿あああああああああああああああああああああ────っ!!」
女神アルテラの叫びが、地上に降り注ぐ。
転生神に続いて、二度目となる神の波動は、地上に一体、どの様な異変をもたらす事に、なるのだろうか。
「ああああああっ、タイミング悪いですよぉ」
手脚をバタつかせながら、何とかこの場を乗り切るべく、リシュエルは考えるのであった。




