16話 みんなでお引越し.5
スラムでケモ耳っ子達の無事を確認した次の日、俺達と言うより俺は、ラクレル村へ戻る為の準備と、ケモ耳っ子達を受け入れる為の必要物資の買い出しに王都を歩いていた。
今日は肩の上にミルンも居ない。
スラムのケモ耳っ子達と遊びたいと言ったので影さんとドゥシャさんにお願いして見て貰い、村長はこれからの事を詰める為ルシィに呼び出され、リティナとニアノールさんは未だ調べ物の真っ最中で、俺はこの世界に来て久しぶりのぼっちだよ。
「はぁ…まだこの世界に来て一カ月も経っていないのに、なんか何年も過ごした感じがするなぁ」
一人なので突っ込み要員が居ない。
真昼間から街中の椅子? ベンチ? で腰掛けて独り言をボソボソと言うのは大人としてはどうなのか。買物は済ましたしラクレル村へ帰ったら家も畑もあるから大丈夫だろう。
「ラクレル村へ帰ったら…か」
帰るかぁ…地球はどこにあるのやら。
おーい、リシュエルさんやーい。
俺一人だから出て来ても大丈夫だよー。
「て出てくる訳無いか。ははは」
「呼びましたかぁ〜?」
はっ!?
いつの間にか俺の横にフワフワした薄い雰囲気の姉ちゃんが座ってる!?
「えっ? 誰お前?」
「えっ? 今呼んだじゃ〜無いですかぁ〜?」
うん? 今呼んだってまさか…。
「お前リシュエルか!?」
出て来んのかよビックリしたわ!?
「だって貴方が一人で寂しくしてたので〜、来てみましたよぉ〜ぷぷぷっ」
そうか、俺の為に来てくれたのか。
有難う御座います。
じゃあ暇つぶしの質問、聞いてくれるか?
「いいですよぉ〜、ちょっとだけならぁ」
そうか、お前に会えたら聞きたかったんだ。
たった一つ、聞こうと思ってたんだ。
「お前、俺の家族に何をした?」
その質問にリシュエルはいままでのフワフワした雰囲気から一変して、口が裂けんばかりの笑顔を俺に見せて来やがった。
「答えろよ、リシュエル」
嫌な汗が顔を濡らす。
本能的な恐怖か、未知の存在への畏怖か。
俺の母さんが転生してミルンの母親って事はだ、父さんはどうした? お前が俺をこの世界に連れて来たのか? 何故だ。
「えっとぉ、ふふふっ。まだ答えてあげませんよぉ〜ふふふっ」
だろうな。その顔見てると、お前が言わない事ぐらい分かるわ。それなら…。
「それなら…殴らせろやこの糞がぁあああああああ!!」
影さんとの約束だ! この距離なら一発ぐらい入るだろうよ顔面へこませたらぁあああああああああ!!
「ざんね〜ん」
俺の拳はリシュエルを顔を抜け、空を打つ。
幻影か、残像か、リシュエルは俺の前からいつの間にか消えていた。
「いつも観てますからね〜ふふふっ」
身体の芯から寒気を誘う、その言葉を残して。
「糞っ…お前の顔、覚えたからな、リシュエル」
次会ったら魔法ぶち込んでみよう。
※
それ以降、何事も無く穏やかな時間が過ぎていき、ラクレル村へと帰る日。
「なんだ? リティナとニアノールさんは一緒に来ないのか?」
どうやら調べ物とやらがまだ終わっておらず、物凄く寂しそうな顔で見送りに来ていた。
「そやな。こっちで調べ物が終わったらラクレル村へ行くさかい、その間チビ共の事頼むで流にーちゃん」
まあ流にーちゃんならチビ共死んでも護るやろーし大丈夫やろと笑ってるよその通り、ケモ耳っ子達は絶対護るよ。
「私はリティナ様の護衛ですのでぇ、一緒に残りますね」
そうですかニアノールさん。
じゃあお別れの挨拶にその猫耳と尻尾をモフモフ撫で撫でハァ、ハァ、しても。
「ヒィッ!? どうして私にはそんなに気持ち悪く来るんですか嫌です!」
残念、リティナ爆笑してるな笑うところか?
それで、一緒に帰るのは、村長、影さんとケモ耳っ子達と、勿論ミルンは俺の家族だから当たり前として…何で居るのお二人さんと野郎共?
「私はミルン御嬢様にお仕えする様にと陛下より承っておりますので、離れる事はございません。今後とも、末長く、死ぬ迄、宜しくお願い致します旦那様」
ドゥシャさん死ぬ迄って俺と結婚でもするつもりなのか? 結婚したらミルンにお母さんって呼んで貰える? 冗談だよね…しないよ?
「私はボスより子供達を護る様に命令された。
だから一緒に行く! それだけだ。
あと、以前はすまなかった…子供達を助けてくれた恩人に対する態度では無かった。
頼むから、同行を許可してもらえないだろうか」
確かレネアさんだっけ? 良いよ前の事は。
それよりその布面積薄い姿は目の毒? 保養になるから外套羽織って隠しなさいな。
「ありがとう!」
あとは…リスタとアジュか。
どうした一緒に来るのか?
「はい。ラクレル村へ移動する際の護衛としてギルドマスターより依頼を受けて来ました。道中の魔物や盗賊はお任せ下さい!」
リスタは相変わらず分かりやすい説明。
「俺ら孤児院焼けた時、別の依頼で王都離れてたからな! これぐらいはやらねぇとガキ共に嫌われてしまうぜ!」
んじゃ道中宜しくなアジュ。
そんじゃ村長、そろそろ行くか。
馬車の行者宜しくな。
このマッスルホース達はラクレル村へ行った事無いから道知らないって聞いたし、親戚同士仲良いだろ。
「だから親戚にマッスルホースは居らぬ!!
全く、変わらぬな流君は」
俺は変わらないし、変わろうとも思わない。
ケモ耳っ子大好きのニートでいたい。
そうだよなミルン。
「おとうさんはミルンのおとうさん!
すっといっしょ!」
頭撫でてと言わんばかりに擦りよって来たな良し良し撫で撫でするぞモフモフするぞ。
「モフ充電完了っと。そろそろ行くか、リティナ、ニアノールさん、早く村に来いよ。待ってるからな!」
んじゃ出発前に、ケモ耳っ子達、点呼!
ノーイン! 「はい!」
ミウちゃん! 「あい!」
メオ! 「いるの!」
モスク! 「おう!」
ラナス! 「食べないでぇ」
ノリス! 「はい!」
コルル! 「わたしのたびがはじまるの」
ラカス! 「馬車で爪研ぎーっ、はい!」
モンゴリ君! …?
モンゴリ君! …??
モンゴリ君?
あれ? モンゴリ君はどこだ。
覚醒者のモンゴリくーん、どこだー?
「僕はニアノールしゃんとぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!! 残ります」
うぉ!? 居るじゃ無いかモンゴリ君。
良いのかニアノールさん? あっ、駄目。
モンゴリ君諦めようなって喜んでる!? 駄目って言われたかった? お前程々にしろよ、ニアノールさんに薄切りスライスだぞ。
「村長ー確認した。マッスルホース起動だ!」
リティナのコンテナ馬車には及ばないが、頑丈さと快適性を追求されたそこそこの大きさの馬車がマッスルホースによってゆっくりと動き出す。
リティナとニアノールさんが手を振っている。
俺達も手を振りかえして、ふと城を見た。
そういや、ルシィ挨拶来なかったな。
お漏らしルシィは女王だから忙しいのかな。
そう思いながら、馬車は進んで行った。