18話 みんなでお引越し.5
2/12 加筆修正致しました。
「あーっ、貧血気味だぁーっ」
昨日の疲れだろうか。
肩こり、腰痛、運動不足にっ、これ一本! という触れ込みの、回復薬を飲んだのに、足取りがおぼつかない。
「もう一本、飲んどくか?」
疲れている理由は簡単。
昨日、ヤナギの家と言うか、闇ギルドの本拠地で、ミルンと約束していた、肉三昧を実施。
ケモ耳っ子達に、無視されていた状況が一変して、肉焼け寄越せと大人気だった。
「……肉の力は、偉大だなっ」
んで、今日は一人で買い出しだ。
ミルンはどうしたって?
ミウ達と遊びたいとかで、昨日は帰らず、ヤナギの家にお泊まりしてます。
「ドゥシャさんも、村長も、羨ましいなぁ。何で俺だけ、泊まりは駄目なんだっ」
ミルンと楽しくお泊まり会っ!
そう思ったのに、ドゥシャさんから駄目と言われ、そのまま外に追い出され、一人寂しく、城へと戻りました。
「相談役の立場がっ、憎いっ……やっぱり、肩にミルンが居ないと、調子狂うな」
重さが足りない。
腰の負担は軽減されるが、体がふわふわし過ぎてて、変な感じなのよ。
「俺……擦り込みされてね?」
一人言を呟きながら、王都をぶらぶら。
ケモ耳っ子達が、何不自由無く、ラクレル村で生活出来る様に、買込みしまくりです。
持つべき者は、ルシィ様だわ。
「金貨何枚入ってんだよ……流石女王」
金を寄越せと催促したら、袋を投げて来て、中身がコレだからな。
「服、靴、下着は買っただろ。食料も、買えるだけ買ったし、後必要な物は……」
ラクレル村には、無人となった家が、沢山有るから、住む場所は問題無し。
それじゃあ他に、必要な物は何か。
食器類や、歯ブラシなどの、雑貨だな。
「燃えちゃったから、全部新品にしよう」
王都の雑貨屋らしきお店を、片っ端から回って、金貨を投げ付け爆買いです。
紙幣だったら、ビンタ出来たのに。
「……これだけ買っても、荷物にならないなんて、空間収納最高だよねっ!」
一人言、ここに極まれり。
ぶつぶつ言ってるからか、街行く人達が、速歩きで逃げて行くのよ。
そりゃぁ、真昼間から、ベンチっぽいのに座った中年が、ぶつぶつ言ってたら、怖いよな。
「異世界に来て、一カ月も経って無いのに……何で俺、ここに居るんだろ」
誰か答えてプリーズっ!
突っ込みの要員のリティナ、不在につき、誰も答えてくれません。
「ラクレル村に"帰ったら"、ミルンとのんびり、畑でも耕すかねぇ……」
その、ポロっと出た言葉に、正直驚いた。
「ラクレル村へ、"帰ったら"……か」
そもそも、俺は日本に、帰れるのだろうか。
両親のお墓も有る。
お墓参りが出来無いのは、正直辛い。
ケモ耳母さんは、言っちゃなんだが、ミルンのママであり、俺の母さんでは無いんだ。
母さんだけど、母さんでは無い。
「まっ、帰れたとしても、帰る気にはならないけどね。ミルンを守らなきゃだし……」
そう言えば、誰にも気にされず、こうして一人になったのって、初めてじゃね?
周囲を確認。
人通りが少なってる。
試しに呼んでみるか?
度々俺に絡んで来る、糞リシュエルを。
「もう居ますよぉ?」
「っ!?」
心臓が、止まるかと思った。
「なっ、おまっ、誰っ!?」
いつの間にか俺の隣に、存在感が薄いとでも言うのだろうか。ふわふわした雰囲気の女が、笑顔で座って居る。
金髪を肩まで伸ばし、背中には天使の羽根だろうか? 何処と無く、コルルに似ている。
「びっくりしたぁ……羽人族?」
「あんなのとぉ、一緒にしないで下さいねぇ。今さっき、私を呼ぼうとしたでしょぉ?」
「俺が? お前を呼ぼうとした……っ、て、お前がリシュエルかっ!?」
まさかまさかの、生リシュエルご登場。
絶好のチャンス到来っ!!
「何でわざわざ、姿を現しやがった……」
「だってぇ、貴方が一人で、寂しくしてたのでぇ、来てみましたぁ! ぷぷぷっ」
「そうかそうか、俺の為にわざわざ。それじゃ暇潰しに、質問良いかな?」
「良いですよぉ、ちょっとだけならぁ」
色々と、聞きたい事は、山ほど有る。
有るんだけど、今は一つ。
たった一つの、質問をしよう。
リシュエルに遭えたなら、一番に聞いてみたかった事を、今ここで、聞くとしよう。
「お前、俺の家族に、何をした?」
その質問に、リシュエルの口が、裂けた。
それは笑み。
無垢で無邪気な、満面の笑み。
「答えろよ……リシュエルっ」
全身から、嫌な汗が吹き出す。
本能的な恐怖か、未知の存在への畏怖か。
「俺の母さんの転生に、お前が関わってた事は知っている。何の為に行った……俺をこの世界に連れて来たのは、お前なのかっ」
「うーん、どうしましょうかぁ? 教えても良いですけどぉ……ぷぷぷっ。そんなのぉ、教える訳無いですよねぇ」
「だろうな。そんな事、その糞っ、気持ち悪い顔見りゃ分かるわ」
言わないのならば良い。
俺の今の目的は、ただ一つなのだから。
院長影さんとの、約束だ。
「そんじゃ……っ、一発殴らせろやこの糞があああああああああ────っ!!」
リシュエルは、左に座っている。
俺は右利きだ。
座ったままでも、腰を捻り、顔面を殴る事ぐらいっ、簡単な事なんだよっ!!
「よっしゃっ! 直撃────っ!?」
顔面にぶち込んだ、筈だった。
力のステータスが弱かろうと、鼻っ柱に打ち込めば、ダメージは有る。
そう、思っていた。
「あらあらぁ、ざんねーん」
「っ、幻影っ……」
「似た様なモノですよぉ?」
俺の拳は、確かに、リシュエルの顔面目掛けて、打ち込まれた。
そしてそのまま、通り抜けた。
実体ではなく、幻影。
「いつも楽しくぅ、観てますからねぇ」
そう言って、リシュエルは、姿を消した。
怖気を誘う、満面の笑みを浮かべながら。
「ストーカーかよ……っ、糞っ!!」
顔は覚えたぞ、リシュエルっ!!
リシュエルと遭遇してから、二日が経った。
もうね、悶々とした日々なの。
リシュエルを、どうやったら殴れるのか。
ケモ耳っ子達の、移住の準備をしながらも、そんな事ばかり考えています。
「うしっ、馬車の車輪も問題無し。本当に、リティナもニアノールさんも、来ないのか?」
「今は無理やな。調べ物終わったら、そっちに住むさかい、そん時に頼むわ」
「私は、リティナ様の護衛ですのでぇ。子供達の事を、頼みますねぇ」
何でこんな話を、しているのかって?
今日で王都を、離れるからな。
リティナとニアノールさんは、何やら調べ物があるらしく、一緒には来ない様だ。
「寂しくなるので、猫耳を触っても?」
「斬られても良いのならぁ、どうぞぉ?」
「冗談だからっ、刃物出さないでっ!」
「流にーちゃん……何やっとんねん」
他のメンバーが遅いから、こうして遊んでいないと、暇で寝ちゃうからね。
「ミルンも来てないし、皆んな遅いな」
待合場所はここ、城の真ん前。
貴族達がチラチラ見てくるけど、その度にリティナが、『あぁんっ! 何みとるんや!』と、聖女の眼力で追い払っている。
お前は本当に、聖女様なの?
昭和のレディースじゃ、無いよね?
「んーっ? ようやく来たか」
ケモ耳っ子達が、遠くに見えた。
既に、お洋服一式は渡してあるので、皆んな小綺麗な姿で、歩いて来る。
「見違えたなぁ。流さんは、嬉しいよ」
「なんや、変なもん食うたか?」
「気持ち悪いですぅ」
二人共酷くね?
普通に喜んだだけなのに、この言われ様。
引率者は、院長影さんと、村長だけの筈なのに、レネア、リスタ、アジュまでも、荷物を背負っている。
「あの三人も来るのか?」
「左様に御座います」
「うひっ!? 誰っ、ドゥシャさんか……急に現れるの、勘弁してくれっ」
貴女さっきまで、遠くでミルン達と楽しそうに、歩いてましたよね。
どうやって、背後に回ったのさ。
「んで、その荷物は……何?」
「私目の、鞄に御座います」
「うん。見たら分かるんだけど、何で鞄?」
「お供させて頂く為に、準備を致しました」
「えっ……ドゥシャさんも来るの?」
どうやらこのメイド、付いて来るらしい。
城のメイドなのに、何してんの?
「陛下より、ミルン御嬢様に、お仕えする様にとの御言葉を、頂いておりますので。今後とも末永く、お願い致します、旦那様」
「何それ……末永くって、怖いんですけどっ」
「ミルン御嬢様の、身の回りの御世話は、このドゥシャめに、お任せ下さいませ」
それは有難いけど、移住するだけなのに、その末永くって言葉使うの、おかしく無いか?
まるで、結婚する気みたいじゃん。
「ボソッ(何考えてるのか、全く分からんっ)」
軽い悪寒を覚えながら、ドゥシャさんの荷物を預かり、馬車への積み込み完了です。
空間収納に、入れないのかって?
女性の荷物だから……怖くて入れたく無い。
「大きめの馬車で、良かったぬぉっ!?」
背中からの奇襲っ!
誰かが俺の背中にくっ付いて、上へ上へと、流クライミングをしているっ!
そんな事をするのは、一人しか居ない。
「んしょっ、んしょっ、がったいっ!」
「ミルンセットっ! 合体完了っ!」
「てきじんを、せんめつするのっ」
我が家の犬耳天使ですね。
ミルンが肩に乗るだけで、リシュエルの所為で擦り減った、俺のお豆腐メンタルが、ギュンギュン回復して来るぞ。
「流君、待たせたのである」
「そんなに待ってないぞ。リティナで暇潰ししてたから、問題無しだ」
「ウチで暇潰しすなっ!?」
「それくらい良いだろ。減るモノも無いんだし」
リティナの胸元を凝視します。
既に減っているから、もう減らない。
「流にーちゃーん。鼻、折るぞゴラァっ!?」
「やっぱりリティナは、聖女じゃ無いな」
「どこからどう見ても聖女やっ!」
自称、聖女リティナ。
駄目だっ、ここで笑ったら、殺されるっ。
ニアノールさんに、サクッとね。
「それで、リスタやアジュは兎も角、何でレネアまで来るんだ?」
「私はボスより、子供達を護衛する様、命令を受けた。だから一緒に行く……変態だけにっ、任せておけるか」
「最後に本音が、漏れ出てるぞーい」
院長影さんの耳が、ピクピクしてるから、暴言ばっかり吐いてると、叱られちゃうぞ。
「レネア姉さん、流さんに失礼ですよ」
「レネア姉は、昔から雑頭だからな」
「誰が雑頭だっ! アジュよりマシだろっ!」
「はいはい二人共。子供達の護衛なんですから、早く準備をして下さい」
この中だと、リスタが纏め役っぽいな。
良い感じに、二人を御している。
ほのぼのと眺めていると、リスタが足早に近付いて来て、頭を下げた。
「流さん。子供達を救って頂き、有り難う御座います。こんな事しか出来無いですが、道中の護衛は、僕等にお任せ下さい」
「そんなん、気にせんで良いのに」
「気にしますよ。家族が危険な目に遭っていたのに、僕等は何も、出来なかった……」
二人は冒険者だからな。
王都の外で、依頼をこなしていたら、孤児院の対応なんて、無理だろうに。
「分かった。んじゃ、護衛を頼むわ」
「はいっ! 有り難う御座いますっ!」
そうして話をしていたら、ケモ耳っ子達全員、馬車に乗り込んだ様だ。
「ミルンも、準備は良いか?」
「いつでもいけるっ!」
俺は、馬車の荷台を、しっかり確認。
ケモ耳っ子達は、まだ子供だ。
院長影さんが、見ているとは言え、ふとした拍子に隠れたりして、危ないお年頃なんだ。
「そんじゃ、村長。二重チェックよろ」
「うむっ。任せたまえ」
「はい皆んなーっ。名前を呼ばれたら、元気な声で、『はいっ!』て、手を上げてくれ」
それではーっ、点呼開始っ!
「ノーイン」
「はいっ!」
「ミウ」
「あいっ!」
「メオ」
「いるのっ、」
「モスク」
「おうっ!」
「ラナス」
「はぃっ」
「コルル」
「たべないでっ!」
「ノリス」
「はいっ!」
「ラカス」
「爪研ぎ爪研ぎーっ!? はいっ!」
「モンゴリくーん」
「はぃ……」
うん、違和感しか無い。
モンゴリ君が、燃え尽きたかの様に、真っ白になってるんだけど、何コレ?
「モンゴリ君、どうした?」
ホームシックに、なったのだろうか。
無理も無い。
家が無くなって、辛いだろうかな。
「ぼくは……ぼくはっ」
「うん。不安なら、話を聞くぞ? ゆっくりで良いから、言ってみな」
「ぼくはっ、ニアノールしゃんとっ、はなれだぐなああああああいっ! 残りますっ!!」
ホームシックじゃ無かった。
猫耳メイドシックだったわ。
「うしっ、行くとするかっ!」
モンゴリ君は、大丈夫なのかって?
問題無いだろ。
モンゴリ君って、アレだからな。
「モンゴリくぅん? 我慢出来ますよねぇ?」
「あぁっ!? あぁっ!? つめたいめでっ、がまんしますううう──っ!!」
聞き分けの良い、モンゴリ君だもん。
「全員乗ったなーっ!」
「「「はーいっ!」」」
「そんじゃ、村長、影さん。ケモ耳っ子達を、しっかり見といてくれよ」
御者を務めるのは、勿論俺!
では無く、ケモ耳天使ミルンなんです。
御者の席に俺が座り、肩の上のミルンが、手綱を握ると言う、不思議な格好。
「リティナ、ニアノールさん。ラクレル村で、待ってるからな」
「はいはい、ウチもすぐ行くわ。ほなな」
「さようならぁ」
そうして、ゆっくりと、馬車は動き出す。
筈だった。
「おうまさんっ、おにぐぅっ!!」
ピシィッッッ────『バヒョヒョヒョヒョヒョッ、ブルゥッ、ヒヒィッ!!』
「ちょっ! 待てミルンっ!?」
ミルンの殺気と、手綱の尻打ちにより、マッスルホースが暴れ馬化。
爆速で王都を────突っ切って行った。




