16話 みんなでお引越し.4
ヤナギさんに案内されてスラムを右へ左へ移動して到着した場所…組事務所っぽいな。
スラムの中に有りながらその場所だけが切り離され、立派な木造建築物というか屋敷というか門構えが最早武家屋敷。
入口には女性だろうか、腰まで伸びた赤い髪が太陽に反射され、さも燃えているかの様に輝き、眼差し鋭く俺達を見てからヤナギさんに首を垂れた。
「ボス! お疲れ様です!」
「あぁ、帰ったぞ。兄ちゃん、こいつぁレネアっていう院長先生のとこの元孤児だ。まぁ、仲良くしてやってくれや」
ええーとっ、仲良くってどうすれば良いんだ? とりあえず挨拶かな。
「初めまして俺は流だ。こっちがミルンとドゥシャさんで、そっちが筋肉村長だな。宜しく!」
影さんは知り合いだから大丈夫だろ。
挨拶って、こんなんで良かったかな? 村長が何か言ってるけど無視しとこう。
「ご無沙汰しております院長。孤児院の件、力になれず申し訳ございません…」
あれ? 無視してるぞ。
ミルン、挨拶してみてよ。
「わたしはミルンっです! はじめまして」
そうそう偉いなぁちゃんと挨拶できて。
これならレネアって人も無視できまい。
「あの男…やはりここに来た時に始末しておけば、あの子達も苦しむ事は無かったのに」
まだ無視するかよ。
影さんも何か苛々してないか? 大丈夫か。
「院長先生、やはり私を雇って貰う事はできませんか! お金は要りません! あの子達ー」
「レネア」
おぉー影さん名前言っただけでレネアさん黙ったよ。
「私は、貴女がその様な礼儀知らずになっているとは思いませんでした。礼儀知らずな人をあの子達の側に置く事はできませんよ? その様な話をする前に、先ずは挨拶なさい」
全くもってその通りだ。
人の挨拶を、特にミルンが挨拶したのに無視って喧嘩売ってる事と同じだからな。
何睨んでんだよレネアさん。
喧嘩なら買うぞ。
「何睨んでるんだよレネアさん。喧嘩なら買うぞ」
あっ口にだしちゃったゴメンゴメンははは…ナイフだしやがったな。
「洒落で済まさないけど…良いのか?」
威圧先生カモーン!! ついでに魔法発射準備良しでいつでも来いよ、レアに焼くから。
ミルンもドゥシャさんが抱っこしてるし、安全は確保されてるからヤル気だすぞ。
「レネア!! 良い加減になさい!!」
影さんの怒鳴り声初めて聞いたわぁ、凄え、なんか顔怒って無いのに声が怒ってるぞ。
レネアさん泣きそうじゃん何やってんだよ。
ナイフ腰に戻したな…俺はいつでも動ける準備万端だよ? あれ? 走ってどっか行っちゃったな。
「流さん、すみません。レノアは後でキッチリと釘を刺しておきますので」
宜しく影さん。
それと、おいっ! そこのおっさん!
おっさんがボスなら止めろよな!
「すまねぇな兄ちゃん。レネアの奴も何処とも知れねぇ奴が問題解決した事に心が追いついちょらんと思うてなぁ、まあ、兄ちゃんなら大丈夫だろとも思うちゃがね」
カッカッカッってそこ笑うとこじゃないぞまったく…早くケモ耳っ子達に合わせろよ。
※
屋敷に入り、チラホラと居る柄の悪い男女の群れを抜け、奥へ奥へと入って行くとこの世界に来て初めて見た襖を開ければ、そこにケモ耳っ子達が…居た? 何か両端に並んでこっちを見た後にボスのおっさんを見て、
「「「お疲れ様です! ボス!!」」」
と一糸乱れぬ両手を膝に添えて頭を下げる姿がもはや極道一家そのものじゃないか。
「おいおっさん何してくれてんだケモ耳っ子達に!?」
何か顔も凛々しく、いや、威圧的になってこれは駄目だドゥシャさんとミルンも開いた口が塞がら無いし村長は目を伏せてるし。
「「「流の兄貴! お久しぶりです!!」」」
止めろぉ!! 戻ってこいケモ耳っ子達!
影さんも笑って無いでどうにかしてよこの極道ごっこ! 心臓に悪いんだよ!!
「皆さん、流さんで遊ぶのはこれぐらいにしましょう」
影さんがそう言うと皆んなが一斉に走って来て俺の横を素通りしてドゥシャさんに抱っこされてるミルンの元へ…。
「俺一番前に居たよねぇええええええええ!?」
ミルンと楽しく話をしているが、まあ、良いか、良いのか、ミルン楽しそうだしっ。
ミウちゃんは村長の肩に登り、メオは村長の太ももにくっついて、ミルンはドゥシャさんの手の中に…。
「おぃ兄ちゃん大丈夫か眼から血が流れてきちょるぞ!?」
おっさん、大丈夫だ。
ケモ耳っ子達が全員無事なら俺は幸せだから大丈夫だ。これは幸せの血涙だからな。
「影さん。皆んなにラクレル村へ行く事話さ無いとね」
「流さん、先ずは血を止めてからにしましょう」
ですよね…止まるかなぁ。