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異世界とは愛すべき者達の居る世界  作者: かみのみさき
一章 異世界とはケモ耳幼女の居る世界

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30話 異世界での暮らしの始まり


 2026/06/28 改稿



 王都を出発して、二日目の朝。

 本来なら既に、ラクレル村へと到着しているにも関わらず、未だ村には着いていない。


「……えっぐいなぁ、あれ」


「いっぱい居るの」


 正確に言うならば、米粒程の大きさとして、村が見える離れた位置から、どうしたものかと監視している真っ最中。


「村を空け過ぎたのであるな。山から魔物が下りて来て、集落を作ったのであろう」


 そうなんです。村長の言う通り、ラクレルのを中心にして、馬鹿みたいな数の魔物達が、集落を作っちゃってんの。


「なあ院長影さん。あの数の魔物とかって、ここに居る人員で、どうにかなるかな?」


「無理ですね。ざっと見た限りで、一万以上の数が居ますので、精々が五割削れれば良い方です。勿論、全滅を覚悟した上でですが」


「それは……なしだよなぁ」


 ラクレル村から、王都に出発した際に遭遇した魔物の、何十倍かも分からない程の大群。しかも、ここからでも見えるほど、巨大な個体が何体も見えるし、あれはなんの魔物だよ。


「ハイオークよりデカいなぁ」


「ミルンの目でもぉぉぉ、見えないのっ」


「ここまで離れてたら、そりゃ見えんだろ。リスタ、アジュ。絶対にケモ耳っ子達を、馬車から出すなよ。レネアは周囲の警戒だ」


 護衛の三人に指示を出すと、無駄な話をする事なく、テキパキと行動してくれる。流石はガチ冒険者と、闇ギルドの人だわ。


「んで……ドゥシャさんはどこ行った?」


「お父さん気付いてなかったの? ドゥシャなら状況確認に行ったの。えっと、戻るにしても、情報は必要なんだって」


「あのメイドさん、マジで何者? 院長影さんと、話をしてたよな……暗部なのか?」


 院長影に顔を向け聞いてみるが、「流さん。聞かない方が、良い事もありますよ」と、普通に釘を刺されてしまった。

 

「さてさて、これからどうしたもんか」


「攻めないの?」


「ミルンさんや。命懸けなんてもんは、逃げ切れなくなった時に、するものだからな。今なら逃げ切れるし、安全第一だぞ」


「むぅぅぅ、村が目の前なのにっ」


 ミルンの気持ちは分からなくもないが、火中の栗を拾うなんて事を、わざわざする必要もないし、命あっての物種だ。だからこそ、俺達に取れる手段は限られている。


「王都に戻ってルシィに報告。魔物の討伐が終わってから、移住すべきだろうな……」


「そうするべきだと、私も思うのである。あのような数、我々ではどうもできまい」


「仕方ない……か」


 このままここに、長居するのも不味いだろうし、ドゥシャさんが戻り次第離れるか。そう思って、先に馬車を反転させようとしたその時──側面の草むらから、何かが飛び出して来た。


「シッ!!」


 それにリスタが反応し、腰の剣を抜き放って、ブシィッ──と生暖かいモノが、俺の肩に乗っていたミルンに降り注ぐ。


「ぬあっ!? 臭いのかかったのっ!」


「えっ? はっ? 何今の?」


「流さんっ! 両側面にゴブリンの群れですっ! アジュとレネアさんは馬車の護衛をっ!」


 俺の理解が追い付く間もなく、草むらから次々と姿を現したのは──日本のゲームや小説に登場する、あのゴブリン。


「流君っ! 馬車の近くへ行くのであるっ!」


「変異ゴブリンとは、厄介ですね。この私に気配を悟らせぬとは……数は二十ですか」


 俺の勝手なイメージだと、ゴブリンは雑魚魔物であり、一対一なら子供でも楽勝。そう思っていたのに、ここにいる全員が緊張している。

 そして何より、あのゴブリン達。

 緑色や灰色の肌に、目は赤く光り、ほぼ半裸の小男という風貌にも関わらず、まるで"迷彩服"を着ているかのように、草や木の枝を体に巻き付け、手には鉄剣を握っている。


「おいおいっ、特殊部隊かよふざけんなっ!」


 俺の心からの叫びと共に、声を発さぬゴブリン達が──"三手に分かれて"行動を起こした。

 その動きはまるで、俺達の戦力を理解しているかのように、的確な行動と言えるだろう。


「ぐっ、これだからゴブリンはっ!」


 二体はリスタを挟み、その動きを牽制。


「子供達には近付けさせぬぞっ!」


「ヘラクレス様は右側をっ!」


 十体は村長と院長影さんを取り囲み、無駄に飛び掛かる事をせず、剣で威嚇している。


「糞っ! おいレネア姉っ! 一体も馬車に突っ込ませるなよ! 餓鬼共には荷が重い!」


「分かっている──フシュッ!」


 残る八体は、レネアとアジュに飛び掛かり、その奥にある馬車へと入ろうとしている。

 違和感が全開だ。

 何故かゴブリン達は、俺やミルンを狙わずに、他の奴らばかりを攻めている。まるで、来たのは良いけども、"ヤバい奴が居た"的な雰囲気を出しながら、俺を避けている。


「ミルンも戦うのおおおおおおっ!!」


 肩の上のミルンが飛び出し、リスタやアジュの加勢し始めると、ゴブリン達はミルンにも剣を突き出しているので、間違いない。


「……本能で、俺の称号を恐れている?」


 "半魔王"の称号を得てから、変な"圧"を発せられるようになり、殺意を乗せてそれを使えば、兵士は硬直し、大司教は死にそうだった。


「流君っ! 何をボーッとしておるのだっ!」


 今の俺は、魔物すら怯える存在なだろうか。


「お父さんっ! なんとかするのおっ!」


 それは分からないが、事実としてあのゴブリン共は、俺を襲おうとはして来ない。それならば、やりようはいくらでもある。違うな。やりようというか、俺が潰せば良いだけだ。


「この糞ゴブリン共っ……ミルンに剣を向けやがって。死に去らせやボケがああああああっ!」


「ギギャッ!?」


 俺に攻撃が来ないイコール、俺からしたらこのゴブリン達は、超が付く程隙だらけ。だからこそこの拳を、ゴブリン目掛けて振り抜いて、ペチィ──という、可愛い音が鳴る。


「ギィ……?」


 その音に、ゴブリン達が固まった。


「……んっ?」


 俺はそっと、自分の拳を見る。


「ギィィィ?」


 ステータスがあるこの異世界は、理不尽だ。馬鹿みたいな威力の魔法が使えても、俺の腕力自体は貧弱で、犬耳幼女のミルンにでさえ、腕相撲しても負けてしまう。

 その事実を──忘れていた。やるのならば、豪炎を撃てば良かったのに、勢いそのままに殴り付けてしまった。


「ギィィィギャアアアアアアアッ!」


「「「ギャギャギャギャッ!!」」」


 うん、急に最弱認定だろうか。ゴブリンのヘイトが、俺に全集中とか……笑えねぇ。が、お前ら油断し過ぎだわ。


「囮とはやるでないかっ!」


「何のスキルでしょうか?」


「お父さんに近付いちゃ、めっ!!」


「アジュっ! 後ろの奴を斬れっ!」


 ゴブリン達の連携が止まった、その一瞬を狙っての、近距離特化メンバーによる、殴殺。


「おいリスタっ! 油断し過ぎだぜっ!」


「それはアジュもですよ。連携しないゴブリンであれば、変異種といえどもっ!」

 

 ものの見事に、ゴブリン殲滅完了しました。

 俺はただ見ていただけとか……俺のステータスって、完全に後衛向きだよなぁ。


「旦那様。只今帰り……ゴブリンに御座いますか。しかも変異種とは」


「うん。もう唐突に現れても、驚かないからね」


「その様な事を仰られている暇は、御座いません。村の方を、ご覧になって下さいませ」


「急になんだよ……っ、有り得ねえだろ」


 血の匂いが風に乗って届いたのか。それとも何か、別の要因があるのだろうか。どちらにしてもこれは、非常に不味い状況だ。


「魔物の群れが、こっちに向かって動き出してるとかっ。全員急いで馬車に乗れっ!」


「旦那様」


「なんだっ、今は早く逃げないとダメだろ!」


「この馬車を引くマッスルホースでは、逃げ切る体力は御座いません。子供達と護衛を逃し、囮になる者が必要です」


 囮って……ケモ耳っ子達を逃すのなら、必要だとは思うけど──待てよ。魔物の大群が動き出したのなら、ラクレル村に当てる事なく、意味不明な魔法とかを、撃てるんじゃね? 念の為ケモ耳っ子達は、逃しておくか。

 

「リスタっ! アジュっ! レネアさんっ! ケモ耳っ子達の馬車に乗って、急ぎこの場から退避してくれっ!」


「っ……分かりました!」


「死ぬんじゃねえぞ魔王っ!」


「子供達は任せろ」


 囮になる訳じゃないのに、三人共が悲痛な顔をしながら、馬車に乗り込み発進したよ。死ぬ気はないっての。


「流君。何をする気なのだ」


「おっ、流石村長。全然怖がらないな」


「君が本当に危ないと思ったのならば、ミルン君を逃すであろう」


 そりゃあ、ミルンが肩に乗っていないと、なんだか落ち着かないし、大聖堂を消し飛ばした魔法ならば、あんな魔物の大群なんて、一発で蒸発するだろう。


「村から離れて、わざわざこっちに来てくれてるんだ。上手く魔物に当てれば、村の被害も少なくて済むだろうさ」


「んしょっ、んしょっ、魔法使うの?」


「それしかないからな」


 背中をよじ登って来たミルンと一緒に、ラクレル村の方をみると、巨大な波が蠢くかのように、徐々に魔物が近付いてくる。


「旦那様のあの魔法が、また見れるのですね」


「……んっ? ドゥシャさんって、大聖堂消し飛ばした時に、どこからか見てたのか?」


「失言に御座いました。今の言葉はお忘れ頂きますよう、お願い申し上げます」


 すんごい目で睨まれた。アレだ、お願いという言葉は、睨んでするものじゃあないんだよと、言ってあげたい。怖いから言えんけど。


「うごうごしてるのっ。まだ撃たない?」


「もう少しだけ、引き付けたいな。村の中の魔物も、出来るだけ殲滅したいし……いや、試しに一発撃ってみるか」


「お試し?」


「ああ。どこまでの範囲を消し飛ばせるかが、正直曖昧だからな」


 この魔法を初めて使った時は、ミルンの小屋を消し飛ばす範囲だったけど、前に使った時は、巨大な大聖堂を、まるまる飲み込むほどの範囲だったし、確認は必要だろう。


「それじゃあ集中してっ……」


「尻尾を頭に乗せてあげますっ」


「モフモフしてるなぁ──あっ?」


 まだしっかりと、あの魔法をイメージしていない筈なのに、体から熱が抜けていく感じがして──魔法が発動した感じがした。


「えっ……あれっ?」


「どうしたのお父さん?」


「流君。何かあったのかね」


「いや、なんか……魔法が発動したっぽいんだけど、良く分からないというか……?」


 あの魔法は、空に火の玉が現れて、そこから巨大な炎の柱を撃ち落とす、範囲魔法の筈だ。そう思って空を見渡してみるが、火の玉なんてモノは、見当たらない。


「なんにもないよ?」


「そうだな。発動しなかったのか──って、あったあった。火の玉が"落ちて"くるじゃん」


 ちゃんと発動してて、安心したわ。後は、少しだけ待っていれば、炎の柱が落ちる……?


「お父さん。前に見たのと、何か違うの……」


「あれっ……"火の玉"が、落ちて来てね?」


「流さんっ! この魔法は不味いですっ!」


「えっ、院長影さん何か知ってんの?」


 院長影さんは言った──空からの災厄。その落下速度のまま大地を抉り、衝撃と熱波で周囲のモノを消し飛ばす神級魔法──《メテオライトフォール》であると。


「それって……隕石じゃんっ! 皆全力でっ、この場から逃げろおおおおおおおおお────」


 衝撃に背中を押され、音のない世界の中、俺はミルンを肩から掴み下ろし、頭を守るようにして、吹き飛ばされた。

 



 ゆっくりと目を開けると、砂塵が周囲に吹き荒れており、体の至る所が痛い。耳鳴りも酷く、気圧の変化だろうか、頭痛もしてきた。


「痛っ……ミルン、無事か?」


「ゔゔゔぅっ、びっくりしたのっ!」


「無事そうだな。良かったぁ……ケモ耳っ子達の馬車も、逃しておいて正解だったな」


 あんな爆風を受ければ、馬車なんて簡単に横転して、結構危ないところだった。


「砂煙が邪魔だな。皆んなは……無事なのか」


「声が聞こえるから、無事だと思うの」


 ミルンの可愛いお耳が、ピコピコと動いて、周囲の音を確認しているようだ……もしもあの隕石の軌道がズレて、こっちに来ていたら、間違いなく死んでいただろう。


「っとそうだ魔物は──」


 痛む体を起こして、砂塵の切れ間から村の方を見てみると──そこに魔物の姿はなく、その変わりにと主張する、黒煙吹き荒れる巨大なクレーターが、ぽっかりと口を開けていた。


「ラクレル……村は?」


「奥に家が見えるのっ。それ以外は、消えちゃった? お父さんがまたやったのっ!」


「えっと、俺、村長にさ。このままだと捕まって、ボコボコにされるよね……」


「分かんないっ」


 孤児院のケモ耳っ子達を移住させる筈が、魔物の大群と一緒に、村も消し飛ばしちゃいました。なーんて事、村長が許す訳がない。


「ゴホッ、流君っ! 何処であるかっ!」


 村長の声には応じずに、しっかりと目を凝らして、村の状態を確認すると、村を囲っていた柵、櫓は全滅。周囲の畑も全滅。残っている家は──山側に一軒だけ建っているようにも見えるが、それ以外には何もなく、ただクレーターがあるばかり。


「なあ、ミルン」


「なあに?」


「一旦行方を、くらませようかっ」


 ラクレル村の奥には山々が聳え立ち、その中には、ミルンと出逢った魔龍の川も流れている。そこまで向かえば、村長の追撃からも隠れる事が出来るだろうし、食料は大量に空間収納に入ってるから、問題はない。


「リスタやアジュ、レネアさんが、異常を察知して戻って来ても、村長や院長影さんが居る訳だし、大丈夫だろと……」


「お父さんのお顔が、強張ってるのっ」


「そりゃあねっ」


 痛む体に鞭打って、ミルンをそのまま背負い、砂塵が止まないうちにと、音を立てないように「ふがっ……ひっくちゅんっ!」してたのに、ミルンがくしゃみをしちゃったよ。


 その瞬間、砂煙の嵐が────止んだ。


「嘘だろ……」


「お父さん、御免なさいっ」


 皆の顔が、俺に向いている。いや、村長の顔だけが、ラクレル村と俺とを交互に見て、みるみる筋肉が盛り上がっていく。

 逃げなければ、俺は死ぬる。その本能に従い、俺は直様全力で駆け出した。


「待つのだ流君っ! 絶対にいいいいいいっ、逃がさぬぞおおおおおおおおお!!」


 俺は走った。中年の全身全霊をもって、全力で走り続けた。だって捕まったら、本気で命の危機なんです。


「待つのだあああああああああっ!!」


「お父さんハイヨーっ!」


 こんなつもりじゃなかったんです。ただ魔物を殲滅しよいとして、隕石が降って来るだなんて、思う訳ないじゃん。

 

「ドゥシャなの。お父さんを捕まえる?」


「ちょっ、いつの間に並走してんのっ!?」


「旦那様を捕まえる理由など、私目には御座いません。ただ、ミルン御嬢様のお側に」


 余裕でメイドさんが、並走しています。その時点で俺、詰んでますよね? だってミルンを背負ってるから、上手く走れないんだ。


「くくっ……」


「どうしたのお父さん?」


「いや、なんかね、笑えてきたんだ」


 訳も分からず異世界に来て、ミルンと出逢ってまだ一月も経ってないのに、どうして俺は、こうなってしまったんだろうってな。


「なあミルンっ」


「なあに?」


「これからも、宜しくな」


「勿論なのっ。ずっと一緒!」


 そうと決まれば全力で、村長を振り切らないと、今の村長には勝てる気がしない。


「あっ、お父さん。右見て、右っ」


「なんだミルン、右って──っ!」


「ふはははははっ! 追い付いたのであるっ!」


「ちょっ、待て待て待てええええええぶっ!?」


 村長の振り抜いたガチパンチが、俺の顔面に突き刺さり、俺はそのまま縦回転して──地面を転がって行った。


 ピンポンパンポーン(上がり調)


 レベルが1上がりました(破壊者乙)


 ピンポンパンポーン(下がり調)


 突如異世界に来て、あーだこーだあったけども、こうして、俺の長い長い異世界での暮らしが、幕を開けたのである。




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