18話 みんなでお引越し.4
2/11 加筆修正致しました。
任侠の人の、御宅訪問。
先ず目に入るのは、立派な門構え。
異世界なのに、どこか和を感じる造りとなっており、スラムの中においては、正に異質。
例えるのなら、昔の武家屋敷に、二階三階を足した様な、造りだろうか。
「おとうさん、ふるえてる?」
「怖いものは怖いんだ。何でミルンは、そんなに楽しそうなんだ? 怖く無いの?」
「どぅしゃがいるから、へいきですっ」
「御安心下さい、旦那様。何が起ころうとも、ミルン御嬢様だけは、御守り致します」
頼もしいメイドさんだ。
ミルン第一優先で、出来たら俺も守って欲しいんだけど、駄目ですかね?
「流君。早く行きたまえ」
「分かってるからっ、押すなよ村長っ」
闇ギルドのボス、ヤナギの後に続いて、その門を潜ると、玄関っぽい所に誰かが居た。
異世界風味溢れる、赤髪の女性。
ルシィよりも、若干明るい色だ。
んで、その女性も例に漏れず、ヤナギに向けての九十度の御辞儀。
「ボスっ! お疲れ様ですっ!」
美人なんだけど、威圧感が凄い。
それに、腹筋見えてるけど、割れてます。
女性の腹筋が、八パックに割れてます。
「おぉ、帰ったぞ。なぁ兄ちゃん。こん娘はレネアっちゅう者でなぁ、院長先生んとこの、元孤児じゃけぇ、仲良ぅしたってくれやぁ」
元孤児って事は、リスタやアジュと、似た様な立ち位置って事だろうか。
それにしては……睨んで来るんだけど。
「えーっと、流です? 宜しく……」
「院長先生っ、ご無沙汰しております。孤児院の件、お力になれず……っ」
普通に無視されました。
「ボソッ(ミルンさんや、挨拶してみてくれ)」
「ボソッ(あいさつ?)」
「ボソッ(そうそう。挨拶は大事だろ?)」
可愛いミルンに挨拶されれば、どんな人だろうと、挨拶を返してくれる筈だ。
「はじめましてっ! ミルンですっ!」
そうそう。挨拶は、元気良くが基本だよね。
どうだレネアって人?
これでも、無視出来るのか?
「あの男……っ、ここに来た時に始末しておけば、あの子達も、苦しむ事は無かったのにっ」
うん、無視してるわ。
院長影さんに向かって、ひたすら話しかけてるし、何なのこの女性。
「院長先生の大事な場所をっ……私はっ、私はどう償いをすれば────」
「レネア、少し黙りなさい」
「っ……」
一言で、レネアが黙りました。
院長影さん、少し怒ってるっぽいぞ?
「レネア。私の教えを、忘れたのですか?」
「おっ、覚えていますっ」
「挨拶をされたら、先ずは何をすべきでしょう」
「……礼には礼を、挨拶には、挨拶で返します」
「宜しい。では、挨拶なさい」
異世界教育番組ですね。
まるで、子供を叱り付ける、親の様だわ。
院長影さんに、怒られたレネアは、こっちに顔だけを向けての、御挨拶。
「ボソッ(レネアです……)」
「おこえが小さいの。げんきをだしてっ!」
「見た目は大人でも、中身は子供なのか」
「っ、レネアだっ! 子供じゃ無い!」
やっぱり子供っぽいな。
事実を言われて怒るとか、沸点低すぎだろ。
「腹筋八割れの、レネアと呼ぼう」
「好きで割れたんじゃ無いっ! いっ、院長先生に近付くなっ! この変態っ!」
「なんで俺が変態っ。流だ……宜しくな」
「誰が宜しくするかっ!」
宜しくしないと、院長影さんが見てるぞ。
また怒られても、知らんからな。
「おなかわれてるの、なんで?」
「ミルン御嬢様。日頃から、鍛錬を欠かす事無く続けていれば、あの様に割れるかと」
「かたそうっ」
「煩いっ! 私の腹筋を見るなっ!」
レネアとやら、腹筋を隠して、恥ずかしそうにするくらいなら、服着ろよな。
日本なら間違い無く、捕まります。
「なあヤナギ。笑ってないで、早く案内してくれよ。ケモ耳っ子達が、待ってるんだ」
「カカッ、そうじゃのぅ。おぅレネア。戯れ合うのはそのへんにしてぇ、案内せぃ」
「っ、分かりましたっ!」
ヤナギには、素直に従うのか。
母親代わりが、院長影さんなら、父親代わりがヤナギ……何か違うな。
「流さん。あの子が失礼致しました。後でもう一度、言い聞かせますので」
「別に良いんじゃね? 院長影さんを、心配しての態度だろうし、気にしないぞ」
俺の事を、変態呼びは意味不明だけど、中身が子供と思えば、楽なモノだ。
そうして、建物の中を御拝見。
はいはいっ! 全力で逃げても良いですか!
居るわ居るわ、外の連中とは比較にならない程の、殺気を放つ奴等が、沢山。
「おとうさんっ、いまのみた?」
「んっ? 何の事だ?」
「おくびが、ぐるんって、まわってたの!」
ここは、ホラー屋敷か何かだろうか。
首はぐるんって、回りません。
「あれ、なあに?」
「ミルンっ。あれは、見ちゃ駄目なモノだ」
「面白い目の動きに、御座います」
やっぱり、ホラー屋敷だわここ。
ギョロ目を通り越して、もうそれ飛び出してるよねって男が、こっち見て笑ってんのよ。
「流石闇ギルドってか。スキルを使ってるんだろうけど、キワモノばっかりじゃん」
「情報収集には、役立つスキルかと存じます。人材の宝庫に御座いますね」
「この場所、大悪党の巣だろうに……」
「その様な大悪党達に、今一番恐れられて居られる存在が、旦那様に御座います」
大悪党に恐れられる存在って、何?
はいっ、魔王ですよね、知ってます。
さっきも、院長影さんに、危険人物云々って言われたけども、勘弁して下さい。
「俺に視線を、向けるなよなぁ」
この異世界で、知らない誰かの顔を知る、唯一の方法は、人相書きだ。
犯罪者の人相書きは、冒険者ギルドや、城等、重要な場所に貼られており、賞金が懸けられていたりする。
手配書ってヤツだな。
何が言いたいのかって?
ほんの少しの期間、俺も貼られてました。
その情報が、広まったのだろう。
「にしても、俺の人相書き……酷かったよな」
「ラクレル村の、元村民達からすれば、あの様な姿に、見えたので御座いましょう」
あれじゃあただの、化物です。
詳細? 言いたく無いわっ。
「実際の所、今の俺に賞金が懸かったら、幾らぐらいになるの? 銀貨一枚ぐらい?」
「そうで御座いますね。この屋敷に居る、全ての者達の賞金を合わせても、足りないかと……」
大悪党の巣でも、足りない額になる。
少し思い返してみよう。
俺が悪かった事って……無いな。
「ミルンさんや、冤罪には気を付けような?」
「えんざいって、なあに?」
「その言葉は知らないのか」
雑談をしながら、広い屋敷をぐるぐると、ヤナギとレネアの後を進み、ようやく目的の部屋に、着いたみたいだ。
「すっげえ襖じゃん。初めて見たわ」
ようやく、ケモ耳っ子達と、再会出来る。
心踊る瞬間とはっ、正にこの事だろう。
「ミウのこえがするのっ」
「遊んでるっぽいな」
襖の向こうからは、ケモ耳っ子達の、楽しげな声が聞こえてくる。
どうやら、俺の杞憂だった様だ。
筋肉に影響されたからと言っても、任侠に影響される訳では無い。
案内役のレネアが、スッと静かに襖を開け、ヤナギが一歩、前へと進む。
俺は、油断していた。
ケモ耳っ子達の吸収力を、舐めていた。
「「「ボスっ! お帰りなさいませっ!!」」」
遊んで居た筈のケモ耳っ子達が、襖が開いた瞬間に左右に分かれ、ヤナギに向けて、九十度の御辞儀を披露する。
「いっ、一糸乱れず両手を膝にっ、角度の狂い無く御辞儀って、それ極道一家だからっ!?」
「みんなっ、くるったの!?」
ミルンもドン引きの光景です。
「おいコラヤナギっ! 純粋無垢なケモ耳っ子達をっ、何洗脳してやがるっ!!」
あんなに可愛かった、ケモ耳っ子達の顔が、ゴ◯ゴや◯ジョの様な、濃い顔になってる。
眉毛の太さって、環境に左右されるの?
可愛いお目々はどこ行った?
「これは……酷いのである」
「皆様、良い目付きを、されております」
ドゥシャさんは、何基準なんだろうか。
「おとうさん。みんなが、みてくるの」
ミルンのその言葉で、俺は気付いた。
ケモ耳っ子達が俺を、凝視している事に。
「まさか……っ、おいっ、止めっ!?」
「「「流の兄貴っ! 御勤めっ、ご苦労様ですっ!!」」」
「顔が濃いの止めてええええええ──っ!!」
御勤めなんて、していない。
と言うか、この異世界でも、牢屋から出て来た人に対して、それ……言うんだ。
「頼む皆んなっ! 戻って来てっ! 任侠から筋肉にっ、戻って来てくれぇっ!!」
「おとうさんが、こんらんしてるっ!?」
ミルンさんや、混乱しない、訳が無い。
このままだと、怒りと悲しみの混ざった気持ちで、ヤナギに魔法を打ち込みます。
「カカッ、院長先生。余りやり過ぎるとぉ、儂がやられるけぇのぉ」
「そうですね。皆さん、そこまでです。余りやり過ぎると、ヤナギさんが困りますよ」
「「「は──いっ!」」」
えっ、何この状況。
濃い顔をしていた筈の、ケモ耳っ子達が、一瞬で可愛いお顔に、大変身。
「「「ドッキリ大成功──っ!!」」」
声を上げながら、皆んなが走って来る。
ドッキリだって。
精神が崩壊するかと、思ったよ。
俺は、ンバっと両手を広げて、ケモ耳っ子達を受け止める準備、完了しました。
「ミルンあそぼーっ!」
「そんちょっ、きんにくしてーっ!」
「メイドさんだーっ!」
ミウ、メオ、ラナス、コルル、モスク、ノリス、ラカス、ノーイン、そしてモンゴリ君。
見事っ、全員にスルーされました。
「うんうん。俺っ、一番前に居たよねえええええええええ────っ!?」
そのまま畳っぽい床に、五体投地します。
チラッと後ろを見ると、ミルンは楽しそうに、コルルとお話をしている。
ミウは村長の肩だし、メオは村長の太腿にしがみ付いて、遊んでます。
「他のケモ耳っ子達は、院長影さんの周りか」
「兄ちゃん、大丈夫なんかぁ? 目ぇから血ぃ出す者、儂ぁ、初めて見たでぇ。」
「大丈夫大丈夫……寂しくなんか無いぞ?」
ケモ耳っ子達が笑顔なら、それで良い。
俺は、それだけで良いんだ。
後でミルンに、癒して貰おう。
「んじゃ皆んなに、ラクレル村移住計画のお話を、するとしますかね」
「そん話は、血ぃ止めてからじゃのぅ」
「なあヤナギ……コレ、どうやったら止まんの?」
「儂が知っちょると思うか?」
そうですよねっ!
頑張って、止めてみようと思います。




