28話 皆で出発ラクレル村へ.3
2026/06/28 改稿
出発の朝の最終確認。
ラクレル村から、この王都まで来た時は、コンテナ馬車を引っ張れる程の、強力なマッスルホース二頭がいた。だからこそ、魔物の群れを一蹴し、安全に来る事が出来た。
しかし、帰りはそれが使えない。
あの馬車は、聖女であるリティナ専用馬車であり、だからこそ帰りは、普通の馬車となる。
要は、護衛が必要って話だ。
「という事で、護衛を宜しくな」
「任せて下さい、流さん」
「ちゃんと護衛するから、安心しろや」
孤児院を出て冒険者をしている、リスタとアジュが、ラクレル村へ戻るまでの護衛だな。村長もいる事だし、これなら魔物の群れが来たとしても、ケモ耳っ子達を守れるだろう。
「んで、あんたは?」
「ボスに命令されて来た。私はレネア……そこのリスタとアジュの、姉みたいなモノだ」
「姉みたいな……あんたも孤児院の出か」
闇ギルドの門番の人だよな。闇ギルドと院長影さんの繋がりが、中々濃い訳だよ。家族ぐるみのお付き合いじゃん。
そんな事を考えていたら、黒外套を目深に被った院長影さんが、ゆっくりと歩いて来た。
「レネア、リスタ、アジュ。手伝って頂いて、悪いですね。私だけですと、子供達全員に目が届きませんので、助かります」
「この程度は問題ないですよ、院長」
「餓鬼共の為だし、金も貰えるからな」
「お母っ……院長には、お世話になったんだ。恩を返すのにも、丁度良いだろう」
レネアさん今一瞬、院長影さんの事を、お母さんって言おうとしたな……そりゃそうか。孤児院の子供達からしたら、院長影さんは母親だし、当たり前の事だ。
「荷物は空間収納の中だし、問題なさそうだな」
足りない物は、昨日粗方買い漁ったし、あとは村長が、ケモ耳っ子達を連れて来たら、この王都ともおさらばだ。
「なあ、院長影さん」
「なんでしょうか?」
「本当に、この王都から離れても、良かったのか? いや、あの貧民街に残るよりかは、良いとは思うけどさ」
ケモ耳っ子達の移住の許可を、女王から貰ったと院長影さんに伝えたら、なんの躊躇もなく了承したから、少しだけ驚いた。
「孤児院が焼けてしまいましたので、この王都に残る意味は御座いませんし、ラクレル村の近くには、殿下が眠られておりますので……」
「どこに埋葬したのかをミルンに聞いて、ちゃんとしたお墓を、作らなきゃな」
「そうですね」
ミルンの両親が、眠る場所か。多分だけど、ミルンが住んでいた小屋の近くにでも、埋めているんだろうな。
「小屋……」
ミルンの小屋は誤って、魔法で消し炭にしちゃったけど、あの小屋はミルンのママ──俺の母さんの転生者が、丹精込めて作った小屋だったんだよなぁ。ミルンが怒った訳だよ。
「お父さああああああんっ!」
「噂をすれば……さあ来いミルンっ!」
「行くのおおおおおおっ!」
凄い勢いで駆けて来たミルンを、その勢いのまま抱き上げてからの──肩車セットイン。いつもの位置へ、ミルンが収まりました。
「おはようミルン。ちゃんと歯を磨いて、顔を洗ってきたか?」
「ぴかぴかの歯なのっ。い──っ」
「犬歯が可愛いなぁ」
肩の上から覗き込むようにして、歯を見せてくるとか、朝から心が癒される思いです。
「待たせたであるな、流君」
「おはよ、村長。そんなに待ってないし……」
村長の肩には、犬耳のミウが乗り、村長の腕には、ハム耳のメオが乗るとか、ケモ耳に慕われる筋肉が、羨ましい。
「何かね?」
「村長も随分と、変わったなぁ」
「むっ……仕方無かろう。ミウとメオが離れぬのでな。こうして連れて来ぬと、二人が暴れるのであるぞ」
「そんちょのかたは、ミウのばしょっ」
「このきんにくにっ、いつかなるのっ」
ミウは良いとしても、メオちゃんや……女の子なのにその筋肉を目指すとか、夢が凄いというか、想像するだけで怖いからね?
「流さん、お待たせしました」
「ノーインが引率係か。待ってないから、安心しなさいな。ラカス、コルル、ラナス、モスク、ノリス……モンゴリ君の奴、元気がないように見えるけど、どうした?」
「えっと、ニア姉さんが一緒ではないので、少しばかり落ち込んでいるようで……放っておいてもらえば、勝手に元気になりますので」
狐耳のノーインが、辛辣だ。力なく項垂れながら、「ふまれたいなぁ」とボヤいているモンゴリ君っ……あの子は何を呟いてんの。
「……まあ良いや。村長とノーインは、ケモ耳っ子達を馬車に乗せてくれ」
「分かりました」
「うむ、任せたまえ」
院長影さんもそれに加わり、全員が乗車次第、出発なんだけども、見送りが来ないな。
「リティナの奴……顔ぐらい見せろっての」
ニアノールさんも来ないし、それだけ信用されてると、思っても良いのかねぇ。
「ドゥシャは来ないの?」
「どうしたミルン。ドゥシャさん? そういえば今日はまだ、姿を見せてないな。流石にラクレル村までは、付いて来ないだろ」
「お供させて頂きますが?」
本気で息が──詰まりそうになった。
「ドゥシャっ! 待ってたのっ」
「お待たせ致しまして、申し訳御座いません。引き継ぎに手間取りました」
「なあドゥシャさん……頼むから、毎回俺の背後を取るの、止めてくれませんかっ。砂利の上なのに足音しないとか、心臓に悪いんだよっ」
ミルン付きのメイドらしいけど、それ以外の情報は吐かないし、不思議メイド過ぎるだろ。
「それではミルン御嬢様、参りましょう」
「行くのっ!」
俺の言葉は無視ですね。ミルンを"抱っこ"したまま、馬車に乗っちゃったんですけど。
「……あれっ? ちょっ、しれっと肩からミルンを奪わないで? 聞いてますか? おーい、メイドさんやーい」
そうして、ドゥシャさんを追いかけて、中には入らずに、そのまま馬車の御者席へと座る。今回手綱を握るのは、俺だからだ。
そうして、マッスルホースの手綱を握ると、ゆっくりとした動きで、馬車が進み始めた。
「締まらない出発だなぁ」
闇ギルドの門、貧民街、一般街へと進み、王都へ来た時とは真逆の、南門を潜り──こうして俺達は、ラクレル村へと出発したのである。
帰路に就くと言った方が、正確かもな。




