18話 みんなでお引越し.2
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ルシィから、相談役と言う、何とも不名誉な役職を与えられた、次の日。
最悪の目覚めとは、この事だろう。
ぐっすり寝たよ?
なんだったら、日本に居た時より寝たよ?
でもね、昨日の事が頭から離れなくて、寝て起きても、気持ちは曇空です。
「男爵位相当って……何よ」
確か男爵は、貴族の最底辺だったよな。
上から公爵、侯爵、伯爵、子爵と来た後に、男爵だった様な気がする。
「村長は、騎士なのにっ。どうせなら俺も、騎士の方が良かったなぁ……」
だって騎士よ?
男爵位相当と、騎士を比べて見て、どっちが格好良いかと言えば、勿論騎士だろう。
魔法使えるから、魔法騎士、流っ!
「……厨二病乙っ」
そんな事を言いつつも、部屋を見渡す。
城内の、小綺麗な客室です。
ルシィの部屋?
そんなん、木屑だらけにしてたから、ブチ切れられて、追い出されたわ。
「ミルンが居ない……起きて遊んでるのか?」
時計が無いから、ハッキリした時刻は分からないが、窓からの太陽を見る限りだと、日の出からそんなに、経ってない筈だ。
コンコンッ────『流君、ヘラクレスである。入っても良いか』
朝っぱらから村長って、体に毒だな。何も言わずに、二度寝でもするか。
『そんちょう、なにしてるの?』
『むっ? ミルン君は、もう起きていたのであるか。孤児院の子供達を運ぶのに、馬車が必要なのでな。その購入に、流君を連れて行かねば、予算が下りぬらしいのだ』
『おうまさん?』
『そうであるぞ。ミルン君。流君を、呼んで来てはくれまいか』
扉の近くで話をしてるから、全部聞こえてますけども、村長狡くない?
ミルンを利用して、俺を起こす気だ。
『おとうさんは、おねむなの』
『昨日の事を、まだ引き摺っておるのか』
『そうなの。ねごとでも、はたらきたくない、はたはきたくないって、うなされてたっ』
ミルンさんや、言わないでくれぇ。
本心なんだけど、純粋なミルンに言われると、恥ずかしくなって来ます。
『それは……いつもの流君では無いかね?』
『かんがえたら、そうなの。おこすのっ!』
ミルンさんや、そこで納得しないでくれ。
俺だってしっかりと、働いただろ?
大聖堂消炭にしたじゃん。
ガチャッ────「おとうさん、おきてる?」
流さんは、寝ています。
「すんすんっ……おきてるにおいっ!」
「ミルンさんや、お顔の匂い嗅ぐの、止めて?」
「そんちょうよんでるっ。おそといくの!」
ミルンがジッと、見詰めて来る。
朝から元気な、犬耳娘は可愛いが、扉の向こうには、ゴリゴリ筋肉が居るんだろ。
「村長には、まだ寝てるって、伝えて欲しい」
「うそつきはっ、とうぞくのもとなのっ」
「泥棒じゃ無くて、盗賊なのか……」
盗賊をするのに、役立つスキルは持っているが、本業にはしたく無いからな。
仕方無いっ、起きて行こうか。
「よっと。ミルンさんや、ちょっとお耳を、ペタンっと、しておいてくれ」
「なんで?」
ベッドから起き上がり、朝日が差し込んで来る、窓へと向かい、大きく深呼吸。
目をクワっと開いて、心からの叫びを、この広い王都に向けて、言い放った。
「働きたくっ、無いんだあああああああああああああああ────っ!!」
空を飛んでいた小鳥が、ボトっと落ち、何処かで何かが割れた音がしたが、気にすまい。
「……流君っ、朝から何を言っておるのだ!?」
「よっ、村長。おはようさん」
声に釣られた村長が、入って来てしまったが、叫んだお陰かスッキリ爽快。
そのスッキリは、直ぐに消えたけどね。
そう簡単に、人の心はスッキリしない。
「……村長だけでも、買いに行けただろうに」
「仕方無かろう。何度も言ったが、相談役が同行しなければ、馬車が買えぬのだっ」
「あのルシィっ、面倒な事させやがって」
只今王都を散歩中。
だったら良いなと思いながら、馬車が買えると言うお店へ、向かってます。
ケモ耳っ子達の為だから、行くしか無いのは分かるが、効率悪過ぎるだろっ。
アレか? 強制労働させる気?
「道案内のドゥシャさんは、無言のまま歩いてるし……機嫌でも悪いのだろうか」
「おうまさーん、おうまさーん、まあだ?」
「まだ先だぞ。ミルンはそんなに、お馬さんが好きなのか? 村長の親戚なのに……」
「親戚に馬は居らぬっ」
「おうまさんは、おいしいのっ!」
ん──っ、ミルンは何か、勘違いしてる?
「ミルンさんや。今買いに行ってるのは、移動用のお馬さんだから、食べれないぞ」
「たべれないのっ!?」
肩の上のミルンが、ショックで震えた。
やっぱり、食べる気満々だったのか。
リティナのマッスルホースにも、涎垂らしてたから、まさかとは思ったけど……。
「たべれないなら、くるんじゃなかったっ」
「後悔は、しておくものだぞ」
「こうかいって、なあに?」
「えっと……昨日にもっと、お肉を食べておけばなぁとか思ったら、それが後悔だ」
「おふねでぷかぷかは?」
「それは……航海の事か?」
「おどりをみせるのは?」
「公開……ミルンさんや、ワザと言ってるな」
やっぱりミルンは、小さい見た目に反して、言葉を多く知っている様だ。
「おしろであつまって、だんすするのは?」
「何だそれ……社"交界"っ!」
「まえのやくそくから、いまのやくそくに、かえるのは?」
「約束……契約の事っ!? 更改っ!」
なぁ、ケモ耳母さん……ミルンこんなに小さいのに、英才教育でもしてたの。
頭良過ぎて、不思議な遊びをしているよ。
「旦那様、到着致しました。こちらが、馬車を扱っております、"ラブホース"に御座います」
「御免ドゥシャさん、もう一回言って?」
「こちらが、馬車を取り扱っております、"ラブホース"に御座います」
マッスルホースへの、愛を感じる名前だ。
店名、それで良いのかな。
馬車の店だから、それで良いのか。
「キワモノの店っぽいな」
「おにくをかうのっ!」
「ミルン。このお店でそれを言ったら、間違い無く、追い出されるだろうから、止めような」
「わかったの……なめるだけにするっ」
そしてそのまま齧り付くと。
そうなったら、本気で止めないと、丸ごとペロリと食べちゃうだろう。
「旦那様?」
「あっああ、入るよ。ミルン、準備は良いか」
「じゅんびよしっ!」
「何をしておるのだ……」
そりゃあ、ミルンへの教育だ。
お店に入る時には、必ずやらないと、失礼になったら困るからな。
扉を開けて、先ずは一声これ大事。
「馬車とマッスルホースをっ、出せぇっ!!」
「たべられないおにくをっ、だすのっ!!」
「店員は何処だぁっ! 早く来ないとっ、天使のミルンが噛み付くぞっ!」
はい、強盗風入店方法です。
「二人共止めたまえっ、なぜ強盗なのだっ!?」
「斬新な入店かと存じます」
「ドゥシャ殿は冷静であるなっ!?」
ミルンと相談した訳でも無いのに、阿吽の呼吸で、見事に合わせた。
「流石ミルン、俺の娘なだけはあるな」
「むふふっ、ほめられたの」
「この二人はっ、馬鹿なのであるか!?」
失礼な筋肉だな。
ミルンは、才能豊かなケモ耳娘だぞ?
絶対に、馬鹿じゃ無い。
「チッ、煩いなぁ。何かーっ、御用っすかぁ」
店員来たな。
物凄くっ、態度が悪い店員だけど。
しかも一瞬、俺の服装を見て、『金持ってないだろコイツ』みたいな顔を、しやがった。
「おうまさんくださいなっ」
「あんっ? 犬人の子供?」
「えっと、済まない。馬車を買いに来たんだけど、十人程ゆったり乗れて、揺れの少ない馬車ってあるかな?」
「はぁ? あっちに有りますよ?」
親指向けて、あっちに行けと。
怠そうに耳の穴を掃除してるし、コレが店員ってのは、酷過ぎ無いか?
「おうまさんくださいなっ」
「だからあっちだっての。煩い犬人だなぁ」
肩の上のミルンが、プルプルしている。
噛み付くのか?
噛み付くのなら、俺は止めないぞ。
「店長のバルノ様は、どちらに居られますか?」
「店長? さぁーっ、知らないっすねぇ?」
ミルンに続いて、ドゥシャさんの目が……店員さんの命は、残り僅かかな。
「むぅっ、おうまさんをっ! くださいなっ!」
「ちょっ、静かにしろってーのっ」
肩の上のミルンと、店員の睨み合い。
店員が目を逸らした瞬間に、ミルンの脚を押さえている手を、離します。
そう思っていたら、奥から誰かが来た。
二人目の店員だろうか。
「おいおい、さっきから何を騒いで……っ、これはこれはっ、ドゥシャ様では御座いませぬか」
「うぇっ、店長の知り合いっ!?」
「バルノ様、ご無沙汰しております」
「お久しゅう御座います。御連絡を頂ければ、こちらから参りましたものを」
どうやらこの爺さんが、店長の様だ。
しかも、物凄く低姿勢。
そこの店員との落差、あり過ぎでしょ。
「なぁミルン。あの爺さんに、さっきの言葉を、もう一度言ってみてくれ」
「おじいさんっ! おうまさんくださいなっ!」
「そうそう。ちゃんと言えて偉いっ」
さてさて、爺さんの反応はどうだ?
「おやおや、可愛らしいお嬢ちゃ……その瞳の色、顔立ちっ……ドゥシャ様、本日はどの様な御用件で?」
爺さんの反応が、予想外なんだけど。
ミルンの顔を見た瞬間、背筋をピンッと伸ばして、顔付きが変わった。
「先ずは、ご紹介致しましょう。こちらは、ヘラクレス様。騎士の位を陛下より賜り、任務の為、馬車を御所望されております」
チラッと店員の方を見てみると、何やら冷汗を流しており、状況を理解した様だ。
「こちらのお方が、陛下の相談役の、流様」
俺の紹介は、それだけなの?
店長さんも、何それって顔してるぞ?
「最後に。こちらに座すお方が、今の私の主である、ミルン御嬢様に御座います」
「ドゥシャ様の主っ、矢張り……」
店長の口から、矢張りって何?
どうやらこの店長、ドゥシャさんの事を色々と、知ってそうだな。
普通のメイドに、"様"付けはしないだろ。
「先程から、そこの者が、我が主たるミルン御嬢様に対して、不遜な態度で接して来るのですが、バルノ様……」
「ダブっ! 貴様っ、何をしおったっ!?」
「えっ、あっ、あのっ、えっ?」
失礼な店員さんや。さっきまでの態度は、一体何処に行ったんだい。
「おうまさん、あっちっていったの!」
肩の上に、視線が集まる。
ミルンの可愛い親指が、ピコって出てて、向こうに行けと言っている。
それを見た店長は、店員の首根っこを掴み、そのままズルズルと、外に出て行った。
『貴様はクビだっ! この愚か者がっ! 命が有るだけっ、有難いと思えっ!』
外からの声だけは聞こえるけど、即解雇とか、異世界は厳しいねぇ。
労基なんて、ある訳無いもんな。
「おとうさん。くびってなあに?」
「クビってのはな、お仕事を辞めされられて、無職になるって事だぞ」
「おとうさんと、いっしょっ」
今は違うからな。
今の俺は、相談役って言う仕事があるから、無職じゃ無くなってるんだ。
「店長戻って来たな……」
「御見苦しいモノをお見せして、申し訳御座いません。ミルン御嬢様御要望の馬車を、今一度っ、お聞きしても、宜しいでしょうか」
「旦那様。御要望を、お伝え下さいませ」
「はいよ……どうした店長?」
相談役って紹介された時は、何だそれって顔してたのに、今は何故か、震えている。
「どっ、ドゥシャ様のっ、旦那様で?」
「なんか、そう呼ばれているな」
「主様にっ、旦那様っ、先程の不敬っ! 平に御容赦下さいませえええ──っ!!」
急に床に全力土下座は、一種の暴力だぞ。
しかも、額を床にゴリゴリと擦り付け、泣きそうな顔で、懇願して来ます。
「おとうさん。おじいどうしたの?」
「俺にも良く、分からんの」
「ふぇ……おと、お父様? おと────」
あっ、コレ駄目なヤツだ。
時空の彼方へ、意識を飛ばしやがった。
「ドゥシャさん、どうしようか……」
「では、僭越ながら、私目が御案内致します」
「うん……最初から、そうしてくれ」
んで、そこの村長。
空気のフリしても、無駄だっての。




