15話 ジアストール城内の探検.9
「はっはっは! 大丈夫だ! 軽く打ち合うだけだからな!」
村長のそんな言葉を信じながら、俺は人生で初めての木剣を握るというか持つと言うか、構えが分からない。そりゃそうだ。今までの人生で、木とは言え剣を持つ事自体有り得ない。小、中、高と剣道の授業等無かったし、大学では帰宅部だぞ。
一昔前前は修学旅行と言ったら木刀! なんて世紀末みたいな時代もあったと言うが、そんなん持って歩いてたら、お巡りさんこんにちは、はい補導ですで退学までも停学になるわ!
「村長、お手柔らかに」
そう言ってテレビで観たアニメの構えをとるけども、素人丸出しだろうな。
「ふむ…流君! 先ずは打ってきたまえ!」
先手を譲ってくれるってか?
良いだろう。俺の剣技! どたまカチ割り剣で脳天カチ割ったらぁああああああ!
「死ねぇえええ村長ぉおおおおおお!!」
俺の木剣が村長の頭を狙うよ!
ポコッ…ポコッ。
パシッ…ポコッ。
なにこの俺の攻撃音? 村長も何か申し訳無さそうに苦笑いしてるし。
そうだ、俺のSTA。
「村長…」
「なっなんだね流君…」
俺って…力弱いよな。
だって俺のステータス、力が一般平均の十五%なんだよ。村長に力負けどころかそこいらの子供にも普通に負けそうだよねーあっはっはっは。
「泣きそうだ…村長、次はアンタが打ってこいよ」
「うむ…良いのかね? 勿論加減はするが」
大丈夫だ。力は弱いが防御はそこそこの筈! 村長の筋肉が幾ら強かろうと一撃で死ぬ事は無い! と思う事にする!
「では…いくぞ流君」
動きは遅い! なら対応出来るぞ。
フハハ馬鹿目村長、俺の華麗なフットワークを見るがいいっフェイントってええ避けれっ────
「甘いぞ流君! ふんっ!」
────俺の腹目掛けて横振りだった軌道が、手前で振り上げて頭かよふっ!?
「しまった!?」
村長のやっちゃった感満載の声を聞き…幾度目かの闇落ち乙。
※
「んぎゃあああああ!?」
何!? 何がおきた!? すげぇ痛いんだけど俺何かしたかな!? あれ、リティナ?
「リティナ!? 今俺の頭に何したの!?」
リティナが手をひらひらさせてる?
「何もしてへんよ? ただ治しただけや。ほら、ちゃんとウチに感謝して、あそこの二人止めてきーや」
えっ、俺何か怪我してたの? 確か村長と打ち合いしててそれから、俺の力がミジンコ並みだってのが理解できたから泣きそうで、村長に筋肉腕力ムキムキって…ミルン!? 何してるの駄目だって!?
「マジか!? ミルンー! ストップ? 止まれ!」
あれ? リティナまたどこか行くのか。それじゃあまた後でな。
「リティナ! 助かったよ、有難うな!」
そう言って手を振ってたらミルンの声が。
ミルンが気付いて走ってくるよどこまでもって速い速いぶつかるよ止まるんだー。
「おとうさん! 大丈夫なの!?」
いつもの甘えたミルンじゃ無い!?
これは相当心配してたんだな有難う。
「大丈夫だミルン。ちょっと村長が力加減間違えて筋肉しただけだからな」
ミルンが俺の頭を撫で撫でしてくるよ。痛く無いよ大丈夫だよ。でも何か癖になるこの安心感素晴らしい。癒される。
「ふぅ。ようやく起きたかね流君。危うくミルン君に潰されるかと肝を冷やしたぞ!」
いやいや、余裕だったでしょ。ほんの少し見ただけで分かるよ手加減してくれてたんだな。有難う。ミルンも村長が手加減してくれてたの気付いていたんだろ?
「いまならパンチできるとおもったのに…」
いつもの甘えたミルンだな。
ミルン。村長の股間を狙うなら寝ている間にこっそりとだ! 闇夜に乗じてこっそりなら確実に潰せる。
「起きて早々物騒な事を言うのはやめたまえ! ミルン君も狙うでないぞ」
冗談だよ村長。そんなに睨んでもやらないって大丈夫、大丈夫。
「パンチするならおきてるとき!」
ほらな。ミルンもこう言ってるだろ。
ちゃんと起きた時に狙うって。
起きた時にな。
「寝起きも駄目だぞ…流君!」
冗談の通じない筋肉だなぁ。