18話 みんなでお引越し.1
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村長との模擬戦を終えて、ルシィの私室に、戻って来ました。
模擬戦と言うか、一発で失神したけどな。
まだ少し痛い……。
「それじゃっ、ぱぱっと作りますか!」
「おてつだいするっ」
何を作るのかって?
勿論っ、拘束荷車二号君です。
「旦那様。何かお手伝いできる事が、御座いましたら、何なりと、お申し付け下さいませ」
「……うん、まだ付いて来んの?」
「それが私目の、役目に御座いますので。そちらの部品は、釘で固定した方が、宜しいかと」
「あんがとさん……役目ねぇ」
ここで、拘束荷車の構造を、説明しよう。
パッと見は、ただの荷車だが、所々に凹みを入れて、荷車どうしで合体出来る。
一号の後ろに、二号を差し込む形だな。
金具で補強もしているし、拘束部には棘も付いているから、逃げれません。
「あっと言う間に、完成っと」
「これ、なににつかうの?」
「んっ? 煮豚さんを運ぶのに、使うんだぞ」
「にぶたっ」
より正確には、一号に煮豚、二号に大臣で、その二つを合体させたら、完成だ。
「ドゥシャさん。拘束荷車が完成したって、ルシィに伝えて欲しい」
「……畏まりました」
「若干引いてね?」
「いえ、ドン引きに御座います。陛下にお伝えして参りますので、失礼致します」
ドゥシャさんに、ドン引きされる様な事、してないよなって、行くの早い。
「どぅしゃのおかお、ひくひくしてた!」
「そんなに酷い物じゃ、無いのになぁ」
こんなの、地球に数多有る、拷問道具と比べたら、単なるジョークグッツなのに。
「とげとげっ、いたそうっ」
「触っちゃ駄目だぞ。ちくちくしちゃうからな」
「にぶたのちぬきっ」
流石、山で暮らしていただけはある。
残念だけど、この荷車に乗るのは、食べられないに煮豚なんだ。
「あとは、夜を待つだけだな」
「あそぶっ」
「へいへい。ババ抜きでもするか」
「めっ! "へい"はいっかい!」
そしてその夜、城の地下に案内されて、煮豚と大臣の、裁判が始まった。
裁判と言う名の、処刑だけどね。
裁判官は、女王のルシィ。
傍聴席には、村長、リティナ、ニアノールさん、ミルン、ドゥシャさんの他に、数人の貴族達が居た。
裁判は、恙無く進行。
そしてとうとうっ、その時が来た。
「二人共、自らの罪を認めた事、儂がしかと聞きた。なれば、判決を言い渡す! 両名共に絞首刑に処す! 異論の有る者は前に出よ!!」
「その判決にっ、異議有りっ!!」
異議を唱えたのは誰かって?
勿論、俺です。
るんるん気分で刑の内容を伝えて、大臣に顔を見せ、拘束荷車を合体っ!!
ズボっと良い音を出しながら、豚野郎と大臣の処刑が、完了しました。
これは、ほんの少し前の話だな。
今は何をしてるのかって?
ルシィの執務室で、仕事終わりの一服です。
「ミルンみれなかったのっ」
「流君に頼まれたのでな。すまぬのである」
「おとうさんっ!」
ミルンのプチ怒、可愛いですよね。
傍聴席にはミルンも居たけど、あんなモノを見せたく無くて、村長にお願いして、目隠しして貰いました。
耳は、ドゥシャさんが、ガードしてたな。
爺と煮豚の尻キッスからの、断末魔。
ドゥシャさんがドン引きした理由、ようやく分かった気がするよ。
「むぅぅぅっ、はなしをきくのっ!」
「御免なミルン。あんな醜いモノを、ミルンに見せたく無かったんだ。明日のご飯を、肉三昧にするから、許して欲しいな」
「にくざんまいっ!?」
「そうだ。肉三昧だから、幾らでも、好きなだけ、お肉を焼くぞ?」
「じゅるっ……こんかいは、ゆるしますっ」
ミルンの怒りは、お肉で鎮める。
常識ですね。
「あないなもん見た後に、肉の話とか……ウチあれ見て、吐きそうやってんで」
「気持ち悪かったですぅ」
「ニアノールさんは兎も角、リティナは大丈夫だろ? 神経図太いし」
「喧嘩売っとるんか!? 流にーちゃん程っ、ウチの神経図太う無いわ!」
俺の神経は、ごん太ですからね。
毎日毎日仕事をクビになり、それでも村長宅で、優雅な朝御飯を食べてたからな。
「それで、いつ迄ここで、待てば良いの?」
「申し訳御座いません。もう間も無く、陛下がお越しになられますので」
「はいよ。紅茶が旨いから、良いけどさ」
後処理でもしているのか、ルシィが来ないから、帰るに帰れないこの状況。
「くわぁぁぁっ、むにゅむにゅ」
「ミルンは寝とくか? 疲れただろ?」
「このままでっ、いいのぉ」
もう良い子は寝るお時間です。
ミルンは良い子だから、俺に肩車をされたままでも、頭を枕に寝てしまいそうだ。
「ベッドにお運び致しましょう」
「いんや、大丈夫。このミルンを、下手に動かそうとすると、俺の頭にしがみ付いて、首ごと持って行かれそうになるから」
「……面白そうに御座います」
「ドゥシャさんは、俺を殺す気かな?」
「冗談に御座います」
冗談じゃ済まなくなるから、止めてね?
首無し流さんには、なりたく無い。
「むにゃ、はなれないのぉっ」
ほらねっ。ドゥシャさんが、余計な事を言っちゃったから、ミルンの万力パワーで、俺の頭がロックされました。
「頭がっ、割れたらっ、ドゥシャさんの所為だからねっ。ミルンっ! 力を緩めてくれっ!」
頭蓋骨が、ミシミシ悲鳴を上げてます。
普通に痛てぇっ!!
ガチャッ────「まったく御主らは……儂の部屋で、何を騒いでおるのじゃ」
今現在進行形で、頭がカチ割れそうになってるのだが、それよりも大事な事が出来た。
「ルシィ……部屋に入る時ぐらい、ノックしろよな。ミルンの教育に、悪いだろ」
「ここ、儂の部屋なのじゃが?」
「陛下。ミルン御嬢様の教育に、悪いかと存じます。再度、御入室下さいませ」
「ドゥシャまで、一体何を言うとるか!?」
「ルシィ」
「陛下」
俺とドゥシャさんの、ガチ詰めです。
例え女王と言えどもだ、姪っ子の教育に悪い事をしたら、改めて貰わんとな。
「おっ、御主らっ、ええぃっ! 分かったわ!」
大股で部屋から出て行き、バンっと扉を閉める女王って、印象悪過ぎだろ。
コンコンッ────『儂じゃ、入るぞ』
「儂って誰だよ。名前言わないと駄目だろ」
「陛下。ミルン御嬢様の、御手本となる様、お願い申し上げます」
ゴンゴンッ────『ルルシアヌ・ジィル・ジアストールじゃっ。入るぞっ!』
「えっ、誰それ?」
「陛下のフルネームに御座います」
そういや、ルシィルシィばっかり言ってたから、フルネーム忘れてたわ。
貴族って、長い名前だよなぁ。
「むにゅ、うるさいのっ」
ミルンのお目目が、パッチリしちゃった。
「だれかきたの?」
「誰も来てないぞ?」
ドンドンッ────『そろそろ、怒るぞ』
「陛下、お入り下さいませ」
今のルシィの声、本気だったな。
怒ったら泣き出すの?
それとも、やけに多い便所に籠って、大人の隠れんぼを実行するとか?
ガチャッ────「儂、御主ら嫌いじゃ」
あっ、ミルン起きてるのに、言っちゃった。
「きらいっていわれたの……」
「まっ、待つのじゃミルンやっ。別にミルンを嫌っとる訳じゃ無くてのっ、他の者に対して言ったのじゃっ」
「きらいっていわれたのっ」
「嫌っとらぬっ、嫌っとらぬぞっ」
必死になって、ミルンに弁明するのは良いんだけど、あまり近付かれると、位置的に御山が揺れておりますよ、女王様。
「なぁニア。女王って、こんなんやったっけ?」
「どうでしたでしょうかぁ」
「朱に染まれば、赤くなるって奴やろか……」
ルシィの弁明タイム、終了しました。
ルシィに嫌いと言われたミルンは、心を癒す為に、結構な量のお肉を要求し、ルシィはそれを、快く了承した。
椅子にダラっと座り、疲れてますアピールなんて、女王のする事じゃ無いよな。
「ふぅ……何やら疲れたのぅ。それでじゃ、魔王流。御主の案を、実行するに当たっての準備が、整うたわ」
「やっとかよ。結構時間かかったな」
「たわけっ。今回は、王命でなんとかしたが、普通であれば、一月以上はかかるのじゃぞ」
「そりゃあんがとさん。で、状況が整ったのは良いとして、勿論無料って訳じゃ、無いんだろ」
無料より怖いモノは無い。
見返りの無い、善意なんてモノを信じる程、俺は若く無いからな。
「何か条件が有るなら、隠さず言ってくれ」
こちとら日本で、社畜だった男だぞ。
腹芸が苦手と言っても、年相応に対応は出来るから、無理難題はお断りしてやる。
「そうそう、条件であったな」
「やっぱりあんのかよ。アレだ、俺に出来そうな範囲で、且つ体力を使わず、且つのんびり出来そうな条件で、頼むっ」
「御主……相当駄目人間じゃのぅ。まぁ、条件と言うたが、簡単なモノじゃ。御主のやろうとしとる事を、"相談役"として、やり遂げよ。それが条件じゃな」
「……それだけ?」
「それだけじゃ」
何それ、超楽出来るじゃん。
初めてルシィが、格好良く見えるぞ。
「後から、アレしろコレしろは、無しだぞ?」
「疑り深い奴じゃの。御主のやろうとしとる事は、本来ならば、国が成さねばならぬ事。ならばこその、その条件なのじゃ」
「ルシィ……仕事しろよな」
「痛い言葉じゃ……流。ミルンを、儂の姪を救ってくれた事、感謝する。儂に出来る事が有れば、幾らでも言うが良い」
そう言ってルシィは、頭を下げた。
これを見たリティナが、『ぶほっ』と盛大に、茶を口から吹き出す程、有り得ない事だ。
「陛下……」
ドゥシャさんも、流石に驚いたのか。
「御礼を述べるので御座いましたら、座ったままでは失礼に当たります。立って下さいませ」
あっ、違ったわ。
主人と言えども、容赦無く指導してるよ。
怖いなぁ、このメイドさん。
「もう良いよ、ドゥシャさん。感謝の言葉が聞けたのなら、問題無しだ」
「旦那様。これは、ミルン御嬢様の為に御座います。旦那様の為では、御座いません」
「なぁルシィ……このメイドさん」
「流よ、何も言うで無いぞっ」
このメイドさん、ルシィの部下だよね。
何でこんなに、怖いのかな?
「ゴホンっ、話が逸れたの。では、ヘラクレス・ヴァントとやら、ここに座るのじゃ」
「ぬっ!? へっ陛下? 何故私にお声を……」
「良いから、さっさと来ぬか」
「ははっ!」
急に名前呼ばれたから、驚いてるな。
大丈夫だ村長、予定通りだから。
ルシィの前に、村長が跪くと、ドゥシャさんが動き出し、何かをルシィに渡した。
「ラクレル村の村長、ヘラクレス・ヴァント。今回の族の討伐、見事であった。その功績を讃え、貴殿には今より、騎士の位と、報奨金を授ける」
「ははっ……はっ?」
呆けている村長に、ルシィはそのまま、ドゥシャさんから渡された物を被せた。
その物とは、マント。
王直属の、臣下の証である。
「ルルシアヌ・ジィル・ジアストールが騎士っ、ヘラクレス・ヴァントに命ず!!」
村長が呆けたままだけど、構わず進めようとするルシィは、やっぱり女王だわ。
「御主のラクレル村を、人種のみならず、多種族が豊かに暮らせる様、環境を整えよ。これは王命であるっ!」
「ボソッ(ミルンさんや、起きてるかーっ)」
「ボソッ(おきてるっ。うるさくて、ねむれないのっ。なにしてる?)」
「ボソッ(物凄く、面白い事だぞ)」
とても簡単な話だ。
人の居ないラクレル村を使って、ケモ耳達の住まう場所を、確保する。
「勿論、王都に避難して来た者達は、真心の水晶が無色、又は緑の者ならば、こちらで新たに、住居を用意させよう」
それ以外の人達は、スラム行きだけどな。
孤児院の皆んなを、ラクレル村に移動させるから、空いた土地に住まわせる。
殆ど焼けてるけど、大丈夫だろう。
「騎士ヘラクレスよ。未だ、王都でも成し得ていない事ではあるが、其方に任せる」
うんうん、村長固まってるわ。
こう言うのって、不敬罪になるのかな。
仕方無い、助けてやるか。
「村長。言葉返さなきゃ、駄目だぞーい」
「はっ!? ははっ! この命に代えましてもっ、必ずや、成し遂げる事を誓いますっ!」
「言い切ったなぁ。んっ? なあリティナ、口押さえて何して……」
リティナの奴、笑いを必死に堪えてるぞ。
まぁ、その気持ちは、分からんでも無い。
俺も必死にっ、堪えてますからっ!
「おとうさん、どういうこと?」
「えっとな、孤児院の皆んなとで、ラクレル村に住みましょうって事だ」
「ミウたちと、くらす……っ、ほんと?」
「本当だぞ。他のケモ耳達も集まるし、友達いっぱい作ろうな!」
「ともだちっ! ひゃくにんっ!」
そうっ! ケモ耳パラダイスだっ!
村の管理は村長に任せて、俺は自由気ままに働いて、ケモ耳達と戯れる。
「頑張れよ村長! いや……騎士さぷふっ!」
いかんいかん、村長が睨んで来るわ。
「流や。村の管理は、怠らぬ様にの」
「村の管理? それは村長の仕事だろ?」
急にルシィが、何かを言い出した。
ラクレル村の村長は、騎士ヘラクレスだろうに、何で俺が管理せにゃならん。
「御主、"相談役"を、断らなかったであろう。男爵位と同等の権限を持つ故、ラクレル村の管理は、御主の仕事じゃぞ」
「相談役? そんなの俺は、聞いてないぞ?」
「儂は言うたぞ。"相談役"として、やり遂げよとな。ミルンも聞いておったであろう?」
「いってたのっ!」
ミルン、ちゃんとお話し、聞いてたんだね。
でも、俺は聞いていないっ!
男爵位相当って何!?
相談役って、何の相談役なんだ!?
「嫌だっ! そんなの俺は聞いていないぞ! リティナは聞いてないよな? なっ? 聞いてないと言って下さいっ!」
「ウチに来おったっ。流にーちゃん、諦めーや。女王はちゃんと、言っとったで」
「嘘だっ! リティナは嘘を吐いている!」
「嘘ちゃうわ!」
クソッ、俺はただっ、ケモ耳パラダイスを作れれば良かったのにっ。
「ミルンや。知らない貴族か、流。村の管理者に相応しいのは、どっちじゃと思う?」
「おとうさん!」
肩の上のミルンに、裏切られたっ!?
「なぁミルン……良く考えてくれよ? 働きたく無いお父さんだと、管理者は無理だって」
「だいじょうぶっ。ミルンがてつだうの!」
はいっ! 逃げ道無いです!
「くくっ、宜しくなのであるっ。相談役殿っ」
「村長……随分と、楽しそうだなっ!!」




