27話 嵐が過ぎての残りの約束.6
2026/06/28 改稿
女王との昼食会が終わり、現在思考が停止中──という訳でもないんだけど、只今お城の中にある広場で、ボーッとしています。
「はっ、はっ、はっ、広いのおおおおおおっ!」
「ミルン御嬢様は、足が速う御座いますね」
「引き離せないのはなんでええええええっ!」
本当にあのメイドさんは、何だろうか。全力のミルンの足に、余裕で並走するとか、異世界のメイドさんは全員あんなのか?
「ふひぃ……でもこれで、院長影さんとの約束の一つは、なんとかなりそうだな」
相談役という、よく分からない役職に就けられたけど、給金も出るみたいだし、ケモ耳っ子達の居場所を作れるのなら、悪くはない。余計な仕事は、名誉騎士の村長に任せれば良いだけだし、俺はケモ耳に集中するだけだ。
「問題は、もう一つの約束か……煽りアナウンスを垂れ流す、糞リシュエルをぶん殴る」
暴漢に襲われて死んだ、俺の母さんに干渉し、『リシュエルの悪戯』という称号を与え、この異世界に転生させたであろう、存在。
俺のステータスにも、『リシュエルのサプライズ』として干渉し、煽りアナウンスで、度々苛々させてくる、不気味な存在。
あの時──ミルンが死にそうだった時には、俺の願いに応じて、その命を救ってくれた。それなのになぜか、"悪意"しか感じない。
「母さんを守ろうとして、父さんは死んだ……それなら、父さんもこの世界に……」
院長影さんは言っていた──"御使"だと。その言葉の意味するところは、神の使い。この異世界には、神が存在するという事。
「長寿のエルフが言うんだから、可能性は高いけど……リシュエルの目的が分からん」
そもそもが、アナウンスは聞くけども、リシュエルの顔すら見た事がなく、そんな存在を、どう探せば良いのやら。
「まぁ、家族を弄んだんだ……タコ殴りにするのは確定だけど、どうしたもんかねぇ」
日本に居た俺を、わざわざ異世界に連れて来たのも、リシュエルである可能性が濃厚。その理由も知りたいけど、難しいだろう。
「ふんっ! ふんふんっ! 当たらないのっ」
「動きは良いですが、直線的に御座います。もっと動きに緩急を付けた方が、宜しいかと存じます。この様に──」
「ぬわっ!? 捕まえられたっ!」
俺にも見える程度の速さで、難なくミルンの背後に回って、抱き上げるメイドさん……ミルンに修行をつけてないか?
「王都に旅行気分で来たのに、気が付けば、お城に居るよってね。なあリシュエル……お前俺を見てんだろ。顔ぐらい見せろや」
なんて言っても、出てくる訳ないか。
「ぷぷぷっ、隣に居ますよぉ?」
「────っ」
唐突な真横からの声に、体が反応して飛び退き、その声を主に顔を向けようとして──この場所に、この広場に違和感を覚えた。
メイドさんとミルンの声が──聞こえない。
ミルンを見てみると、まるで時が止まったかのように、"宙返りのまま"固まっており、この場で動いているのは、俺だけだ。
「あらぁ? ご要望にお応えしてぇ、わざわざ来たんですよぉ。ビックリしましたかぁ?」
ゆっくりと、その声の主に顔を向け、俺は一瞬──その真っ白な羽根を見て、孤児院のコルルと同じ、羽人かと思った。
「あんなのとぉ、一緒にしないでくださあい」
一緒に出来る訳がない。
思ったのは一瞬だけ。直ぐに別者の──例えようのない、存在感とでも言うのだろうか。感じた事のない怖気が、俺を襲ってきた。
「おま……っ、お前がリシュエルか?」
「ぷぷぷっ、そんなに怖がらなくてもぉ。私がぁ、リシュエルですよぉ」
肩まで伸びた、ふわっとした金髪。ボーッとした眼差しには、金色の瞳。真っ白なローブからは、すらりと伸びた足が見え、背中からは、白金と見紛う程の、白き翼が生えた者。
地球で言うところの──天使の如き存在。
聞きたい事は山程有る。にも関わらず、喉が急激に渇き、心臓の鼓動が速くなり、足が震えて前に踏み出せない。
「あらぁ? どうされましたかぁ? 私にぃ、質問があるんじゃぁ、ないんですかぁ?」
見た目は天使でも、その顔は違う。
裂けた笑みを浮かべながら、まるで、『聞けるものなら聞いてみろ』と言わんばかりの、悪意に満ちた形相で、俺を見てくる。
存在としての、格が違う。
俺の足が一歩、後退りを──『がうっ!』しようとして、踏ん張った。この止まった空間に、ミルンの声が聞こえてきたような、そんな気がしたからこそ、俺は歯を食い縛り、前へと飛び出した。
こんな時ミルンなら──必ず前へ出る。
リシュエルが──目を見開いた。
今なら、この瞬間ならば──殴れる。
「顔面凹めや糞がああああああああ──っ!!」
リシュエルは動かない。
驚いた顔を見せたにも関わらず、俺の拳が迫っているにも関わらず、動こうとしない。ただ一言──「危ないですよぉ」とだけ言うと、そのまま俺の拳が──すり抜けた。
「なっ!?」
「ぷぷぷっ、惜しかったですねぇ。私は怖くなったのでぇ、もう帰りますねぇ」
「くそっ、待てやゴラァっ!?」
たった一回の瞬き。その瞬きの合間に、リシュエルの姿は忽然と、消えていた。そして、止まっていたミルン達も、動いている。
「くるっと回避なのっ」
「お見事に御座います。それではもう一度」
その声を聞いて直ぐ──緊張の糸が解け、地面にそのまま尻餅をついて、汗を拭い、深い呼吸を繰り返した。
「あれが……リシュエルか。あんなのっ、どうやって殴れば良いんだ。クソっ……」
ピンポンパンポーン(上がり調)
レベルが上がりませんでした(ぷぷぷっ)
ピンポンパンポーン(下がり調)
「……次ぎ遭ったら絶対殴るからなあっ!?」




