27話 嵐が過ぎての残りの約束.5
2026/06/28 改稿
給仕係の人達が、お皿を回収して行くのを横目に眺め、女王の本題とやらを想定してみる。
一、大聖堂を消し飛ばした、賠償請求。
二、大量の砂埃を撒き散らした、賠償請求。
三、砦内で回収した金品の、返還請求。
どれもこれも、本題としてはありそうではあるが、さっきの親権争いを考えれば、この三つではなさそうな気がする。
「お父さんの眉毛が、ギュッてなってるの」
考えられるとすれば──俺の意味不明な魔法を、国の為に使えだのなんだのとか、有りそうな話だよな。話を進められる前に、俺の用事も済ませておくか。
「なあ、女王陛下」
「なんじゃ?」
「孤児院のケモ耳っ子達を、ラクレル村に連れて行きたいんだけど、そこんとこの法がどうなってるのかを、教えて欲しいんだ」
「ラクレル村にじゃと? ふむ……」
その胸元が開いたドレスで、腕なんて組んじゃうと、ついつい目が行ってしまうのは──もふっとミルンの尻尾が、視界を塞いできた。
「えっと、ミルン? 前が見えないんだけど」
「尻尾を見てて下さいなっ」
「……これはこれで、癒されるなぁ」
女王側から見たら、ミルンの尻尾で顔を隠された、変な中年に見えるだろうけど。
「よいか魔王よ。ジアストールの法は、王国基本法を基礎として、各貴族の領地それぞれに、独自の法を敷いておる」
俺の今の状態を、無視する気満々か。女王からすれば、姪っ子と楽しく、遊んでいる姿を見せられて、面白くないだろうに。
「ラクレル村は、この王都の直轄地。であるからこそ、王国基本法そのものが適用される。ここまでは理解できるかの?」
「馬鹿にすんなっての」
「王国基本法によれば、その地を治める者の許可無く、住居を変えてはならぬと、定められておる。この地を治めておるのは誰じゃ?」
この女王、俺を揶揄ってやがる……が、ここは孤児院のケモ耳っ子達の為にも、少しばかり我慢するしかないか。
「ラクレル村が、王都直轄地って言うのなら、ルルシアヌ・ジィル・ジアストール女王陛下御身が許可を下されば、良い訳で御座いますね」
「……」
「急に黙るなよ女王……何だよその目は」
気持ち悪いモノを見る目なんです。見るような目じゃなくて、見る目なんです。
「いやっ、お主にそう畏まって言われると、普通に気持ち悪いのじゃが」
「口に出して言うなってのっ」
「お主はミルンの養父なのじゃろう。それならば特別に、儂をルシィと呼ぶ事を許可するのじゃ。光栄に思うがよいぞ」
ルルシアヌだから、ルシィか。女王を愛称で呼ぶのって、物凄く躊躇うんだけど。
「で、許可はくれるのか、ルシィちゃん」
「ちゃん付けは止めいっ! 儂は成人しておる立派な淑女じゃぞっ! 十八にもなって、ちゃん付けで呼ばれてたまるかっ!」
「えっ……十八歳?」
見た目が派手だし、立派な御胸様だから、てっきり二十後半かと思ってたわ。十八って、まだまだ子供じゃん。
「なんじゃ、儂の歳に文句でもあるのかっ」
「ないない。んで、許可は?」
「くっ……条件がある」
今のタイミングで条件をって事は、ルシィちゃんの言っていた本題ってのに、関係してそうだな……碌でもない条件だったら、ルシィちゃんと連呼してやろう。
「何だよ条件って」
「お主……流であったのう。お主がラクレル村付きの"相談役"として、雇われる事が条件じゃ」
「相談役?」
「左様。元国境騎士団副団長である、ラクレル村の村長、ヘラクレス。その者を名誉騎士に任命する故、"補佐"をお願いしたい」
ん──っ、爆速で話を整理しろ俺の頭。
村長が名誉騎士って事は、貴族の一個下、一般の人の最上位になるって話の筈。んで、俺がその相談役になれば、孤児院のケモ耳っ子達を連れて行けるって事。
「相談役って、何かしなきゃいけないのか?」
「そこに住まう"獣族達"の世話を、してもらう"だけ"じゃのぅ。勿論、以前住んでおった者達は、王都に住まわせるのじゃ」
「て事は、ケモ耳嫌いな奴らは、ラクレル村に戻っては来れないって事で、合ってるか?」
「そうじゃの。今言った内容が、儂からの本題であり、お主の願いと合致しておろう」
確かに、俺の求めていた事と合致する。合致するんだけど、"合致し過ぎ"ている。これじゃあまるで、俺達の行動を監視して、落とし所を最初から、決めていたかのような動きだ。
「……俺達を、監視してたな」
「さて、知らぬのう」
「惚けやがって……相談役ってのは本当に、"ケモ耳っ子達"の世話をしていれば、良いんだよな? それ以外の仕事はないんだな?」
「疑り深いのぅ、ないと言っておろうが。"獣族達"の世話だけで良いのじゃ」
孤児院のケモ耳っ子達の世話なんて、俺からしたら天国だし、たった"九人"しかいないんだから、毎日遊び放題じゃん。そんなの、断る理由なんてないよね。
「……分かった。相談役を受けるよ」
「懸命な判断じゃ。ドゥシャよ、アレを」
「畏まりました」
まるで俺が、断らない事を分かっていたかのように、メイドさんがスッ──と一枚の羊皮紙を、俺の前に置いた。
その羊皮紙には、ミミズのような模様がびっしりと描かれており、意味が分からない。
「旦那様。こちらの羽ペンで、この空欄に、お名前を頂けますでしょうか?」
「はいはい名前ね、小々波流っと。これって何で書いて……んっ? サイン?」
勢いに押されて、名前を書いたけど、こういう時って大体罠っ……女王が笑ってやがるぞ。
「お父さん。これから頑張ってっ」
「待てミルン……っ、どういう事だ?」
「女王はね、"獣族達"って言ってたの。孤児院の子達って、限定してないよ?」
「────あっ」
思い返してみれば、確かに。女王は獣族達としか言っておらず、でも俺の認識では、孤児院のケモ耳っ子達だけと思って……っ、認識の違いを罠にしやがったっ!?
「陛下、誓約書をどうぞ」
「うむ? 汚い文字じゃのう……ギルドの報告書の字を、見せてやりたいわ」
「汚い字で悪かったな。よくも俺をハメやがって……完全にしてやられたわっ」
元社畜にあるまじき、痛恨のミス。しかも女王は、全く嘘を付いていないという、憎たらしい程の負けっぷりだ。
「くくっ、儂はこれでも、十年も女王をやっておるのじゃぞ。それに、お主の願いも叶って、儂の願いも叶う。対等な取り引きじゃろ」
「っ……ぐぅの音しか出ないっ」
「獣族達の移住者を募る故、今直ぐとまではいかぬが、ラクレル村での受け入れ準備を、しかと頼むぞ──相談役殿」
「ミルンも手伝うのっ!」
九人のケモ耳っ子達の筈が、どれほどの数のケモ耳になるのか……ラクレル村に空家があるだけ、マシと思うしかないかぁ。




