27話 嵐が過ぎての残りの約束.4
2026/06/28 改稿
さて唐突だが、お城で女王様との昼食会と聞いて、どのような料理を想像するだろうか。
高級レストラン的な、コース料理。
大皿ドーンで、取り分けての料理。
目の前で調理して、提供してくれる料理。
元社畜民としては、何度か接待で使っていた、超高級レストランのコース料理の方が、馴染みはあるが、ここは異世界だ。中世風ではあるが、所々に和も感じる、魔物蔓延るファンタジー世界なんだ。
だからこそ、少しだけ期待していた。一体どんな料理が出てくるのかと、少しだけ期待していたんだ──この違和感を、感じるまでは。
「……」
「おっきなおにぐぅっ!」
「ミルン御嬢様は、こちらへお座り下さい」
巨大な一枚の長テーブルの上には、取り分け形式なのだろう。"熱々の湯気"を出すマンガ肉がドスンッ──と鎮座しており、それ以外の料理も、出来立てほやほや感がある。
有り得ない。
タイミングが良過ぎる。
俺とミルンは"思い付き"で、この城まで来たのにも関わらず、突然メイドが現れ、普通に城を案内されてるのにも、違和感を感じていた。
そしてこの、今さっき作りましたと言わんばかりの、数々の料理……"俺達が来る"と分かっていなければ、こんな用意は出来ないだろ。
「そこの魔王──早う座らぬか。折角用意した料理が、冷めてしまうであろうが」
「……」
「旦那様は、こちらへどうぞ」
長テーブルの奥の上座に座る、胸元をワザと開けた、真っ赤なドレス姿の女王を見ながら、ゆっくりと対面して座る。
デーブルの端と端。
ミルンは丁度、その中央の椅子。
「お互いに、積もる話もあるであろうが、先ずは昼食じゃ。礼儀作法は気にせぬ故、存分に堪能すれば良い」
「頂きますっ! お肉は丸ごと齧るのおっ!」
ミルンは開口一番に、デーブルの真ん中に飛び乗り、マンガ肉を丸ごと取ると、そのまま齧り付きながら、椅子まで引き摺った。
俺はと言うと──いつの間にか給仕係が背後に居たので、驚きを堪えながら、グラスに注がれるナニカを手に取り、喉へと通す。
物凄く美味い酒。
しかしそれを、顔には出さない。
泣きたくなる程に美味い酒なのだが、今ここで顔に出すと、この場の主導権を握られる。
この女王は、俺を試していやがる。
この"酒"が証拠だ。
この異世界では見た事のない、"米から造られる清酒"と同じ味。これに反応を見せてしまえば、不味過ぎるだろう。しかし、反応がなさ過ぎるのも不味い。
「ふぅ……食前酒にしては、キツい酒だな。でも、後味はすっきりしていて、飲み易い。なんの酒なんだ?」
「美味しいであろう。この城のシェフ、オオマタという者の、先祖が残した"手記"を解読して、作った物であるとは聞いておるぞ」
「へぇ……残した手記ねぇ」
オオマタって、中々聞かない名字だな。それに、先祖の手記ときたか……どれ程前に来た、異世界人なのかねぇ。
「ほれ、飲んでばかりおらんと、料理も食べぬか。どれも中々手に入らぬ、貴重な食材で作らせたのじゃぞ」
「ああ、頂くよ」
給仕係が料理を取り分け、俺の目の前にそっと置いたのを見て、カトラリーに手を伸ばす。勿論、外側に置かれた物から使う。
「流石女王のお食事だ。城下では見た事のない料理ばかりで、見るだけでも楽しめる」
「うむうむ、そうであろう」
「おにぐぅっ! まだまだ食べるのおっ!」
叫び出すのを堪えるのに必死だ。
目の前の甘辛の肉の下には、紛うことなき米が見えており、肉を避けてでも、今直ぐそれを口に放り込みたい。その気持ちをぐっと堪え、肉と一緒に静かに食べる。
「魔王よ」
「……なんだ?」
「儂はこの国の女王じゃ。本来であれば、食事時には喋らぬのが、我が国の作法」
急に何を言い出すかと思えば、どう見ても普通に喋ってるじゃん。無礼講って事なのか。
「であるからこそ、今のうちに言うておく。"我が姪"であるミルンを、見付けてくれて、保護をしてくれて……感謝する」
「っ……ああ、成程ね」
今の言葉を、俺は素直には受け取らない。なぜなら、この女王の思惑の一つが、ハッキリと分かってしまったからだ。
俺をこの王都に呼んだのは、孤児院の院長影さんであり、その目的は、魔王として噂される俺を利用しての、孤児院のケモ耳達の保護。
唯一の例外は、俺の側にミルンが居た事。
元王太子と、母さんが転生したケモ耳の間に産まれた、二人がその命を賭して守った、ケモ耳幼女のミルンが居た事だ。だからこそこの女王は、直接口には出さず、暗に"ミルンを王家に返せ"と言ってやがる。
「ミルンの生い立ちは、聞いてるよな?」
「影から報告を受けておるわ。あの魔龍の川で二年も過ごすなぞ……獣族の血が流れておらなんだら、死んでおったであろう」
「がうううっ! おにぐぅっ!」
このミルンなら、例えケモ耳がなかったとしても、生き残っていたように思えるのは、俺だけだろうか……野生味が凄い。
「俺も言っておくが、ミルン本人が望まない限り、この"国"にミルンは渡さない。もしミルンを、政治の道具にしようものなら……」
少しばかりの"圧"を放つ。大司教に放った、あの時の圧とは違い、抑えめにだ。一応、ミルンの叔母にあたる奴だしな。
「くっ、ふふっ。女王であるこの儂に、殺意を向けてくる者なぞ、久方ぶりじゃのう。しかし魔王よ……ミルンは紛う事なき、王家の者。その意味が、分からぬ訳ではあるまいて」
「女王こそ、ミルンの自由意識を奪う事が、俺の怒りを買うって事を、理解してるよなぁ?」
「ふんふん、ご馳走様でしたっ! んしょっ」
俺と女王が睨み合う中、肉を食べ切ったミルンは椅子から立ち上がり、そのまま俺の背後にぐるっと回って──肩の上に収まりました。
「……」
「……」
「お父さん、何のお話してるの?」
ミルンの親権を、真剣に争っているです。なーんて言っても、ミルンは『ふーん』だけで終わらせそうな気がする。
「陛下、ここまでかと」
「待つのじゃドゥシャっ……のうミルン、儂と一緒に暮らさぬか? 美味しい物も、綺麗な服も用意するし、贅沢な暮らしが出来るぞ?」
この女王っ、ミルンに直でアプローチとか、さっきまでの腹の探り合いはどこ行ったっ!?
「うーんとねっ……」
肩の上のミルンが、その可愛い手で、俺の頭をポンポン叩きながら考えている。尻尾もペシペシと、俺の背中を叩いてくるし、そんなに悩んだら、お父さんが不安になるだろっ。
「どうじゃミルン?」
俺の喉の音なのか、それとも女王の喉の音なのか、ゴクリッ──と唾を飲む音だけが、この部屋に響いた。それ程に緊張している。
どっちだミルン……焦らさないでっ!
「えっとね……丁重に、お断りします」
「よっしゃ! よく言ったミルンっ!」
「むふふっ。お父さんに褒められたの」
ミルンを肩から下ろして、俺の膝に乗せ、勝ち誇ったドヤ顔を女王に披露すると──女王がすんごい目で睨んできた。いや、違うな。化けの皮が剥がれたのか。
「私がっ……先にっ……」
「小声で言っても聞こえんて。なあミルン、あの女王はなんて言ってるんだ?」
「えっとね、ミルンと先に会ってたら、私が親にって言ってるの。お断りしますっ」
「そのように、ハッキリとっ」
うん、なんかごめんね。ミルンは本当に、思った事を口に出すケモ耳だから、今の言葉は間違いなく本音だと思います。
「陛下、本題を」
「お主っ……少しは儂を慰めんかっ!」
「ミルン御嬢様の御意志は、確認出来ましたので。潔く諦めて下さいませ」
ミルンの親権の話は、女王としてではなく叔母として、求めてきたって感じか……ここからが、本題。俺も聞かなきゃならん事があるし、気を引き締め直さないとな。




