15話 ジアストール城内の探検.6
ジアストール城内の一角にある広い部屋。
そこには長いテーブルが壁に沿う形で直角に曲がり設置されており、席が二十で木の板で区分けされ、各担当に別れて貴族の使いの者が持って来た報告書、陳情書等の受付を行っていた。
待合席は五十席と多く、そこからあぶれた者は立って列を作り、雑談する者、頭を抱える者、眉間に皺を寄せる者と様々で、ぶっちゃけおっさんの密集地帯で入りたく無い。
で、俺はどこに並べば良いんだ?
「旦那様、各席にはその者が担当する絵が描いてございます。それを目印にすれば宜しいかと存じます」
ありがとうドゥシャさん。
さすが完璧メイドさんだ。
「恐縮です」
それじゃあ農作物だからー畑? いや、土の絵かな…小麦畑みたいな絵? あれか! よし並ぼう。
「おじさんいっぱい!」
そうだねぇいっぱいだねぇ。
「はげいっぱい!」
そうだねぇいっぱいだねぇ。
「となりのひともはげてる!」
そうだねぇ隣の人もハゲてるねぇ。
「なんだその獣は! 失礼な!」
怒ってきたねぇうるさいねぇ。
「なぜ城にこんな薄汚い獣がいるのだ! おい衛兵! この獣を城から追い払え!」
何か言ってるねぇうるさいねぇ。
「くそっ、なぜ辺境伯様の使いの私が待たねばならん! おいっその獣をさっさとどうにかしろ! 別に殺してもかまわん!」
何か言ったなぁうるさいなぁ。
「どうした衛兵! なぜ目を逸らっひゃっ!?」
「お前さっきから俺の娘に何言ってるんだ?」
辺境伯の使いって事はど田舎から来たと。
確か王都から離れれば離れる程獣族の差別が酷いって前に聞いた様な…今はコイツだな。
「お前、この天使の様に愛らしいミルンを殺しても構わんって言ったよな。じゃあお前、死ぬ覚悟があるって事で良いんだよな? 自分の言葉に責任もてよおっさん」
威圧によって俺の近くにいる奴は逃げる様に離れて行き、目の前のおっさんは威圧に耐え切れず立ったまま白目をむいて失禁。
「弱!? おっさん弱く無いか? ルシィの衛兵は動けないまでも意識はしっかりあったぞ?」
使いの者だから文官か? まあ衛兵と文官とじゃあ覚悟が違うもんなぁ。
「旦那様、申し訳こざいません。ミルン御嬢様に対してこの様な無礼を働く者がいようとは。この者の処分は是非私にお任せ下さいませ」
いや、いいよ。
ドゥシャさんミルンの耳塞いでくれて有難うな。
お陰でミルンの可愛い耳が汚れずに済んだ。
「寛大な御心感謝致します。では、その者は直接陛下にご裁断頂きましょう。影、来なさい」
えっなんて…あれ? さっきのおっさんはどこ行ったんだ。
一瞬目を離したらおっさんがいない…。
ドゥシャさん今、影って言った?
「いいえ、ハゲと言いましたが?」
まあハゲばっかりだからなぁ。
俺の聞き間違いか…。
まあ良いや、前で並んでた人達居なくなったし次俺の番でいいよね?
「はい。次は旦那様の番になります」
待つ時間が短くて助かったよ。
ミルンもうちょっとまっててくれな?
「ハゲがかげにつかまれていったの!」
ん? ハゲがハゲに、摘まれて逝ったの? どう言う意味だ? 分からん。
「えっえーと…そちらの、次の方どうぞ?」
俺か、はいはい今いきますよっと。
この書類渡してくれって、貞操帯のお姉さん言われて持って来ました。
「貞操帯のお姉さん? ああこの書類ね。ラナさんか、はい確かに受領しました。有難う御座います」
あれ? 貞操帯さんてラナさんって言うの? 貞操帯って言っちゃった…御免ね貞操帯さん。
よし、頼まれた事終わったし探検再開だ!
「むぅぅ、はげがかげにつかまれていったの!」
ミルンがまた可愛く言ってるなぁ。
そうだねハゲがハゲに摘まれて逝ったんだよねぇ。