15話 ジアストール城内の探検.3
ドゥシャさんに案内されてミルンのおめかし部屋へ入る。
まさかお婆ちゃんの服屋で買ったドレスが役に立つ日が来ようとは…。
「お似合いですわミルン御嬢様」
そう、ミルンは王族の籍を抜けているとは言え元王子の娘だから間違っちゃいない。
もとから可愛らしいお顔だけど、ちょっと御化粧してドレスを着たら見目麗しいケモ耳御令嬢の爆誕に俺の脳内スパークがショートして踊り出している。
「おとうさんミルンきれい?」
そりゃあ綺麗に決まっている。
地上に現れし女神だぞミルン。
そのまま結婚せずにお父さんと居ようねー。
彼氏連れて来たらそいつの玉とるからね。
「御嬢様の前で下世話な話はおやめください旦那様」
すみませんドゥシャさん…。
因みに俺の服はないんですか? 俺、こんな普通の服なんですけど…。
「旦那様は宜しいかと」
いや、ミルンだけこんな正装したら俺も…。
「旦那様は宜しいかと」
いや、ミルンー。
「でしたら彼方をお使い下さい」
言葉潰してきやがったドゥシャさん。
あちらって何、この服? スーツ? 来てみよう。
「おい、執事服じゃねえか!?」
旦那様じゃ無いのかよ!? 確かにさっきの服装よりかは良くなったけど…絶対遊んでるだろこのメイド。
「おとうさんかっこいい!」
くっ、ミルンにそんな事言われたら違う服選べないじゃ無いか。
笑声…ドゥシャさん笑ってないか? 笑ってないよね? 俺の聞き違いか…。
「ふふっ」
いや、笑ってるじゃねぇかよ!?
「良くお似合いですよ旦那様」
執事服着た旦那様ってどうなんだ。
ミルンも御満悦だし、今回はいいけどさ。
じゃあ食堂に案内してくれ…ミルンさんや、ドレス姿だから肩車するとシワになるし手を繋ぎましょうね? 嫌? お姫様抱っこ? 仕方がないなー。
「では、こちらへ」
ドゥシャさんの後をついて行く。
さてどんな料理か楽しみだなミルン!
「いっぱいたべる」
※
なあ、これ食堂か? 食堂ってあれよ、みんなでワイワイ食べる場所の事だぞ。
ミルンは襟元にナプキンを装着して俺と対面して座り、目の前にはカトラリーが並べられているってなぜ城内にレストランあるの。
「この場所は、陛下が許された方のみがご利用頂けるVIPルームに御座います。ミルン様は今回、食事の作法を気にせず食べて頂いても問題ないとの事、陛下より承っておりますので御安心下さい」
そうなのか、じゃあ安心だな。
ミルン! じゃんじゃん食べよう!
「ごはんーおにく!」
でもミルン、ナイフとフォークを握り締めたまま手を上げちゃ駄目です! 配膳係の人に刺さっちゃうかもしれないからね。
「わかりました…まだこなぃ」
手を下げても尻尾がぶんぶん忙しないな。
誰か来たな…誰?
「本日の御利用誠にありがとう御座います。私、給仕係を担当しておりますムラトと申します。まずはこちらを」
あぁー食前酒ねー…面倒臭いから料理できしだいもってきてよ。
「…どいぞ」
グラスにそそがれた透き通る程透明な液体。
なんか無愛想な人だなと思いながら、先ずはグラスをゆっくりと回して香りを楽しむ。
酒精は強いが爽やかでほんのり甘い香り。
懐かしいと感じた。
ゆっくりと口へ含み、喉を通す…。
喉にくる強い衝撃、だが後からスッと甘い香りがそれを和らげ、心地よい余韻に浸れる。
「おとうさんないてる?」
ミルンが言うまで気づかなかった。
俺は目元を触ると、涙が出ていた。
「なあムラトさん」
俺は聞きたい。
この酒は何なのか。
「はい。お客様、なんで御座いましょう。」
俺の思っている物と一緒なのか。
「この酒、米が原材料の日本酒って言わないか?」
ムラトさんは眼を見開き、俺を凝視する。
そして少し考えている様な、値踏みしているような、嫌な目線だな。
「お客様はこちらのお酒をご存知で?」
逆に聞いて来やがったぞ。
「ああ、知っている。故郷の酒だ」
言ってやった。
早く俺の疑問に応えろや。
「私は、こちらのお酒の原材料までは知りませんが…確かにニホンシュと言うお酒で間違いはございません」
なぜ知っているって顔してるな。
だから故郷の酒だよ。
仕事終わりの一献。
一人寂しく呑んでいたお酒。
両親が亡くなってからも大変お世話になった有難いお水様だよ。
「誰が作ったんだこの日本酒?」
ムラトは眼を細め、睨んできた。
無言の時間が数秒か、数分かと言うときに、個室の扉が勢いよく開けられて、
「コラァっムラト! いつまでくっちゃべっとる! 料理が冷めてしまうだろぉが!」
と鉢巻巻いて包丁片手におっさんが現れた。
鼻が低く眉毛が濃い、角張った顔に頭には立派な鉢巻…。
「えっ…日本人?」
「あぁ!? 誰だおめぇさん?」