27話 嵐が過ぎての残りの約束.1
2026/06/28 改稿
ぽかぽかと暖かい日差しの下で、ボケェーっとミルンを腹に乗せながら、寝ております。
いやね、王都に来て直ぐ牢屋に入って、あれやこれと大騒ぎして、最終的には大聖堂を消し飛ばし、一件落着なんだけど……体が重い。
「何だろうなぁ、これ。燃え尽き症候群にしては、動きたくない度百パーセント……」
「んんぅ、むにゅっ、どうしたの?」
「すまん、起こしちゃったか」
今はこうして、のんびりしているけど、大聖堂を消してからの二日間は、地味に大変だったというか、逃げ隠れる生活だった。
あの爺さん。アルテラ教の教皇派、ゼンビル司教がね、大聖堂が消失したのを見て、泡を吹いて倒れたらしいんだ。で、教徒共がブチ切れての、追い駆けっ子。
影さん達が、呆然としている大司教を持って行っちゃうし、リティナとニアノールさんは、知らん顔で行っちゃうし、村長は半裸のまま、気持ち悪いしで、ほんともう大変だった。
「あんなに大変だったのが、今や日向ぼっこ出来るまでに、平穏ですなぁ」
「むふふ、平穏が一番っ」
「ざっつらいとぉ……」
「それなあに?」
「その通りって意味だぞい」
チラッと目線を横にすると、村長と孤児院のケモ耳っ子達が、最早恒例となってしまった、筋肉育み運動をしている。んで、その近くに、ナイフを持った赤髪の女性が、鋭い目付きをしながら、"門"の前に立っている。
「"闇ギルド"なのに、平穏とか意味分からん」
「なんじゃあにいちゃん。儂んシマぁ借りといて文句言うたぁ、良い根性しちょるのう」
「禿げが来たのっ! んしょっ、ペチペチさせて下さいなっ! 良い音鳴らすのっ!」
「おうおう、いくらでも叩けぇ。嬢ちゃんになら、全然かまわんけぇのぅ」
ミルンが腹から飛び起きた。
まさか、冒険者ギルドで会った、ヤ◯ザ顔のおっさんが、闇ギルドの長をしてて、院長影さんが言っていた、安全な場所というのが、貧民街の闇ギルドだとは思わなかった。
「文句なんて言ってないぞ。寧ろ感謝しまくりだって。ケモ耳っ子達だけでなく、俺まで泊めてくれてんだしさ」
「カカッ、院長センセには昔ぃ、世話になったけぇのぅ。そん恩返しやぁ思うちゃら、安いもんじゃけぇ、気にすんなやぁ」
「昔って……あの院長影さん、本当に何歳だよ。エルフだから数百歳なのか?」
前に年齢聞いたけど、はぐらかされたし、このヤナギが、昔って言うほどだよなぁ。
「女性に歳聞くんは、御法度じゃけぇのぅ」
「あんたも知らないのかよ」
「良い音鳴るのおっ!」
話している最中でも、ミルンはお構いなしに、手首のスナップを効かせて、ヤナギの頭をバチィンッ──と叩いている。
異世界風ヤ◯ザの頭を叩く、ケモ耳幼女。
なんだろう……凄みしかない。
「そうじゃぁ、にいちゃん。お前さんがぁ、あん子供らのぉ面倒を、見るっちゃう話をなぁ、院長センセから聞いちょるんじゃがぁ……家はどうするつもりじゃぁ?」
「いやいやそれって、面倒じゃなくて、俺の魔王としての噂を利用して、子供達から悪い奴らを遠ざけようってだけの、話だぞ?」
「お前さんはぁ、噂じゃのうて魔王じゃろぉ。こん王都に居ったらぁ、子供らやのうてぇ、お前さんが直接狙われんでぇ……」
言われんでも体験しました。
アレだ、教会の奴らを怒らせたら、本当にヤバい事が分かりました。狂信者がヘルモードで襲って来る感じだな。
しかもしっかり、"俺だけ"狙う。
肩の上のミルンを狙わないとか、俺の感情を逆撫でしないように、襲って来やがるのよ。
「もうアレには、追い駆けられたくないなぁ」
家……家は必要だよなぁ。拠点なら、ラクレル村にあるにはあるけど……いっその事、ケモ耳っ子達全員を、ラクレル村に移住させるか。
「あの屋敷なら、改修すれば部屋はあるし、今は無人の村だから、迫害もなくて、変な奴らに狙われる心配は減る」
俺の現代知識を総動員して、魔物対策や、変な奴対策さえすれば、村の防備も完璧だろう。
「問題は、院長影さんの同意と、ケモ耳っ子達の意識。それに……この国の法だよなぁ」
「お父さん、考え事?」
「叩き終わったのかって、あれっ? ヤナギはどこ行ったんだ?」
「建物の中に入ったの」
どうやら、考えに夢中になっていたようだ。
「それで、何を悩んでるの?」
「皆のお家を、どうしようかなぁってな。物知りミルンでも、法は分からないよな?」
「内容なんて、知ってる訳ないでしょっ」
法って言葉は、理解してるのかよ。ミルンは本当に、英才教育を受けてたんだなぁ。この国の元王子と、母さんの転生者の子供だから、下手をすれば俺より頭が良い。
「ケモ耳幼女に敵わない、中年男性かぁ……あれっ、涙が出て来るのは、なんでだろう」
「お父さんは、腹黒いから大丈夫っ」
「心を抉らないでね?」
どっこいせと起き上がり、だらけたまんまの状態で、今後の事を考えてみる。が、矢張り法を確認しないと、先へ進めそうにない。
「貧民街の孤児院の子達だとしても、首都を勝手に出て、村に移住するとかは……不味い気がするんなだよなぁ」
「なんで?」
「なんでって……例えば、この首都から人が出るだろ。んで、違う所に住んだとする。そうすると、王都の人口が減って働き手も減る。ここまでは分かるか?」
「分かるのっ」
ここからは、どう説明したものか。さしものミルンも、税金云々は分からないだろうし。
「えっと、要は、お肉を狩れる貴重な人材が、一人減ると、王都に出回るお肉の量が減るから、勝手に出て行くなよって話だ」
「お肉が減ると大変っ!」
「そうだろ? だから、そこに住んでいる人が、勝手に他の所に住むのを、法で固く禁じていたりするんだ」
このジアストール王国に、そういった法があるのかの確認をしないと、孤児院のケモ耳っ子達を連れて行けない。
「どうにかして、女王に聞けたら……ミルンを連れて城に行ったら、会えたりして?」
「女王に会うの?」
「試しに……行ってみるか」
可愛いミルンという、姪っ子が会いにいけば、あの女王だって断らないだろう。




