17話 ジアストール城内の探検.3
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メイドのドゥシャさんに、なんとか追い付いて、おめかし部屋へと御入室。
絶対俺を、置いて行こうとしたよね。
「すげぇ衣装ばっかりあんのなぁ……」
「まっかなおようふくが、いっぱいっ」
「陛下の衣装部屋に御座います」
「ルシィの衣装か、どうりで派手な訳だわ」
真っ赤なドレスに紫ドレス。
白のドレスにも、赤色の糸で刺繍されて……これは、血の痕だろうか。
「……刺繍だな。びっくりするわぁ。ミルンのサイズは無さそうだけど?」
「仕立て直しますので、御安心下さいませ」
「いやいやっ、時間足りないって」
ミルンのお腹の音が、"ゴキュキュルルルルルル"と、大音量だからね。
「おなかすいたっ」
ほら、仕立て直している間に、ミルンが暴走して、厨房に攻め行っちゃうぞ。
「っとそうだ。『空間収納』に確か……ドゥシャさん、このドレスなら大丈夫か?」
お婆ちゃんの洋服店で買った、ふわふわお姫様風の、可愛いドレスです。
「その御召し物は……"ルボルワード"の品に御座いますね。良いドレスをお持ちの様で」
「ルボ? ミルンの服を見に行ったら、何着か勧められてな。気に入ったから、買ったんだ」
「一流の品に御座います。それならば、問題無いかと存じます」
一流の品って、あのお婆ちゃん何者?
ルボルワードは、お婆ちゃんの名前か?
「それでは旦那様。大変申し訳御座いませんが、御部屋の外で、お待ち下さいませ」
「ですよねーっ」
「どれすきるの!」
衣装室から追い出され流さんです。
何だろう。あのドゥシャと言うメイドさん。俺に少し、当たりが強く無いだろうか。
喜んじゃうぞ。
変な扉を開けて、喜んじゃうぞ。
そわそわしながら、待つ事五分。
部屋の中から『旦那様、お入りになられても、宜しゅう御座います』と、ドゥシャさんに言われたので、再度入室。
見事なまでの、お姫様がそこに居た。
「ふわふわどれすーっ」
「お似合いに御座いますよ、ミルン御嬢様」
「……マジでお姫様じゃん」
ドレスを着て髪を整え、ちょっとしたアクセサリーを付けるだけで、ミルンお姫様の爆誕なんて、可愛い過ぎるっ。
「世が世なら、この国のお姫様か……」
「おとうさんっ、ミルンきれい?」
「そりゃぁ、綺麗に決まっているぞ」
ミルンはアレだ、地上に現れし女神。
もし今後、ミルンが大きくなって、彼氏連れて来たら、そいつの玉を狩るからね。
「彼氏なんてっ、許っ! さっ! ない!!」
「かれし?」
「旦那様……ミルン御嬢様の前で、下世話な話はお止め下さいますよう」
「んぐっ、すみません」
彼氏云々は、下世話な話なのか。
「んじゃ、俺も着替えて……あのぉドゥシャさん。俺の正装は無いんですか? 見ての通り、普通の服なんですけど」
「旦那様は、宜しいかと存じます」
「いや、ミルンが正装したら、俺も……」
「旦那様は、宜しいかと存じます」
「俺もいっしょにせ────」
「それで御座いましたら、コチラをお召しになって下さいませ」
言葉尻を潰しに来やがった。
なんでそんな、嫌々貸しますって顔しながら、渡して来るの?
生地は滑らかで、スーツっぽいな。
離れた位置でズボンを履き替え、シャツを着て、蝶ネクタイをしっかりと。
あとはベストを着たら、準備完了!
「って、コレ執事服じゃねぇか!?」
「お似合いかと存じます……フッ」
「ドゥシャさん今笑ったよね!?」
旦那様呼びに、意味を感じない。
確かにさっきの服装よりかは、良くなったけど、このメイドさん……俺で遊んでるだろ。
「おとうさんかっこいい!」
くっ、ミルンにそんな事言われたら、違う服を選べないじゃんっ。
「ミルン御嬢様の、仰られる通りに御座います」
「メイドさーん。口元笑ってるぞーい」
ミルンもドレスを着て御満悦だし、借りる立場だから、もうコレで良いわ。
「そんじゃ、食堂に案内よろ」
「ごはんっ! んーっ、お父さん……何でミルンを乗せてくれない?」
ミルンが俺に、よじ登ろうとして来たから、肩を押さえて全力防御です。
甘えた声じゃ無いのが……恐怖を感じる。
「そのドレスが、シワシワになっちゃうだろ。食堂には、手を繋いで行こう」
「嫌っ! んーっ! 抱っこ!」
両手を上げて、抱っこをせがむミルンだなんて、可愛い過ぎてっ、鼻血が出そうだっ!!
「……仕方無いなぁ。よっとっ」
「むふふ。おひめさまなの!」
そりゃあね、お姫様抱っこですから。
「では、こちらへどうぞ」
ミルンを抱っこしながら、ドゥシャさんの後ろに付いて行くけど、すれ違うメイド達から、チラチラと視線を感じます。
その視線は、勿論ミルンにダイレクト。
俺の娘、可愛いだろ?
「お城の料理、楽しみだな」
「いっぱいたべるっ」
「……お腹まん丸には、ならないでね?」
ドゥシャさんに、案内された食堂。
食堂?
食堂ってアレよ? 皆んなでワイワイ話をしながら、美味しくご飯を食べる場所よ?
「……これ、高級レストランじゃね?」
「れすとらん? それなあに?」
対面して座っている、ミルンの襟元には、ナプキンが付けられており、目の前には、銀製のカトラリーが並べられている。
城内レストランって、何なのこの場所。
「この場所は、陛下に許された方のみがご利用頂ける、御食事処に御座います」
「御食事処? 洋風なのに……カトラリーの使い方なんて、ミルンは知らないぞ?」
「御安心下さいませ。作法を気にせず、食べて頂いても問題ないとの事。陛下よりの御言葉を、承っております」
ルシィの奴、少しずつミルンに擦り寄って、一緒に暮らす気じゃあるまいな。
「作法気にせんで良いのは、楽だけどな。良しミルン! たらふく食おうぜ!」
「ごはんーっ! おにぐぅっ!」
ミルンの手には、凶器ですか?
キィンッキィンッと音を鳴らして、今からでも魔物退治に行けるよね。
「うん。作法は良いとしても、ナイフとフォークは振り回しちゃ駄目だぞ」
「びーふおあふぃっしゅ! びーふおあふぃっしゅ! おなかいっぱいたべるの!」
ミルンさんや、何でその言葉しってんの。
そんなにナイフを振り回すと、配膳係の人に刺さっちゃって、危ないだろ。
「ミルンっ、お野菜だけにするぞ」
「っ!? ふりまわさないっ」
手をを下げても、尻尾がぶんぶんしてるから、埃が凄い舞ってるなぁ。
コンコンッ────『失礼致します』
ゆっくりとした動きで、誰か入って来た。
誰だこの人……配膳係?
「当店に起こし頂きまして、誠にありがとう御座います。私、給仕係を担当しております、ムラトと申します。先ずは、こちらをどうぞ」
「あぁ、食前酒か……」
「おさけ?」
「みたいだな。酒より料理の気分なのに」
ワインだろうなと思いながら、グラスにそそがれたソレを見ると、本気で驚いた。
透き通る程透明な、液体。
ワインでは無い。
震える手を、なんとか抑え込み、グラスを手に取り、ゆっくりと回して香りを楽しむ。
「おとうさん? どうしたの?」
酒精は強く、されど爽やか。
奥からは、ほんのり甘い香りが感じられる。
懐かしいと感じた。
ゆっくりと口へと運び、喉を通す。
ガツンと、強い衝撃。
だが、後から来るスッとした甘い香りが、それを和らげ、心地良い余韻に浸れる。
「おとうさんが、ないてるの!?」
ミルンが言うまで、気が付かなかった。
俺は、目元を触ると、涙が出ていた。
「なあ、ムラトさん」
俺は聞きたい。
この酒は何なのかを、聞かねばならない。
「はい、なんで御座いましょう」
俺の思っている物と一緒なのか。
「この酒、米が原材料だろ。んで名前は、日本酒って言わないか?」
「っ……」
ムラトさんは眼を見開き、俺を凝視した。
そして少し考えている様な、値踏みしているような、嫌な目線だな。
「お客様は、こちらのお酒をご存知で?」
逆に聞いて来やがったぞ。
「ああ、知っている。故郷の酒だ」
ここは、正直に答える。
ドゥシャさんが居るけど、ここで下手に嘘を吐けば、後が不味い気がするからな。
「お答え致します。仰られました通り、"ニホンシュ"と言う、お酒に御座います」
何故知っているって、顔してるな。
だから故郷の酒だよ。
仕事終わりの一献。
一人寂しく呑んでいたお酒。
両親が亡くなってからも、大変お世話になった、有難いお酒様だよ。
「誰が作ったんだ、この日本酒」
「申し訳御座いませんが、お答え致しかねます」
「製法を知りたい訳じゃ、無いんだがな」
「口では何とでも、申せますので」
産業スパイと、疑われてないか。
何故だろう、睨み合う事数分です。
ミルンのお腹から、"グゴゴゴゴゴゴギュルルルルルル"と、魔物の声の如き音が聞こえたと思ったら、個室の扉がスパァンッと開いた。
「何してやがるムラトっ! オメェが料理を運ぶんだろぉがっ! 冷めちまうだろっ!!」
包丁片手に握り締め、おっさんの登場。
えっ、カチコミですか?
そんな事を思ったが、そのおっさんの容姿を見て、日本酒以上に、衝撃を受けた。
妙に鼻が低く、太くて濃い眉毛。
角ばった顔付きに、深い皺が彫り込まれ、頭にはハチマキを巻く、昭和臭漂う姿。
「えっ……日本人!?」
「あぁん? 誰だおめぇさん?」




