19話 神話の中の怪物達.2
「それにしても……こんな場所、よく残ってわねぇ。流石と言うか何と言うか、異世界から来た奴らのスキルって、意味不明だわ」
「苦笑。神如きでは、測れぬモノです」
「ほんっとうに口が悪いガラクタね」
T-OGの奴、煽っとるのぅ。古き大戦のおり、神とバチクソ殺りあっとる筈じゃから、分からぬでもないが。
「こうしてわざわざ、この私が来たのだから、茶の一つも出ないのかしら?」
「笑。旧式の鉛玉を、山程飲ませましょうか」
「笑えない冗談ねぇ」
嫌な空気じゃのぅ。ドールがここに居れば、T-OGを宥める事も可能じゃろうが、あやつは流と居るからのぅ。
「二人共、良い加減にせぬか。アルテラも、用がないのならば、さっさとここから失せい」
「何よ、つれないわね……黒姫貴女、私がここに居たら不味い事でも、あるのかしら」
「お主の神気が鬱陶しいだけじゃ」
此奴は神の力を解放しておる。下手な嘘を吐けば瞬く間に看破され、鬱陶しい神気を、これみよがしにぶつけて来るじゃろう。
いっその事、取り押さえるかや。いや、万が一神域に逃げられれば、我では追う事が出来ぬし、ここは穏便に済ませるしかないのじゃ。
「面倒じゃのぅ……茶ではないが、この施設の三階に、中々に美味い食べ物があるのじゃ。案内してやるから、付いて来るが良いわ」
「美味しい食べ物? こんな古びた場所に、美味しい物なんてあるのかしら?」
T-OGをチラッと見て、顎で引けと伝えてから、ガッチリとアルテラの腕を掴み、そのままズルズルと引っ張って行く。
「痛いっ、相変わらずの馬鹿力ね! 引っ張らなくても行くからっ、離して頂戴!」
「まぁまぁ、道も分からぬじゃろうて」
「いたたたたたっ、痣が出来ちゃうじゃない!」
先ずはこの二人を離して、アルテラをこの場から移動させ、凛宮司ともちの安全を確保なのじゃ。今の此奴が暴れたならば、この施設が崩壊してしまうかや。
「(それだけは、避けねばならぬのじゃ)」
そうしてそのまま、三階へ移動。
美味しい物イコール、なんかドロッとしたオレンジ色の液体を、アルテラに飲ませてみた。
「……なによ、美味しいじゃない」
「じゃろ? 甘さと酸っぱさが丁度良いのじゃ」
得体の知れない物なのじゃが、甘味だと思えば良いのじゃし、我も腹を満たせるのじゃ。
「美味しいんだけど、あの看板を見たら……これじゃあ満足出来ないわよね。あの時代の食べ物だけは、評価出来るわぁ」
「お主、よく覚えていられるのぅ。我はあの時の封印の影響か、昔の記憶が飛び飛びで、あまり思いだせぬのじゃ」
「その方が幸せでしょうに」
思い出せぬといっても、精々数千年前の事なのじゃがのぅ。此奴には知られとうないが、大戦の記憶は残っておるのじゃ。
「それで、何を隠しているのかしら?」
「っ……何の事じゃ?」
「幼女の姿ではなく、その姿で私の前に出たのは失敗よねぇ。何か隠してますって、言っているようなモノじゃない」
ぬぐっ、警戒しておる事が仇となったわ。ファンガーデンでは基本的に、幼女の姿で行動しておるから、怪しまれておるのじゃ。
「わっ、我とてこの地は不慣れでのぅ。こうして力を出しておかぬと、不安なのじゃよっ」
「くくっ、地上の最強種が、可笑しな事を言うのね。それで……アレは何かしら?」
「アレじゃと?」
アルテラの目線を追うと、あのオレンジ色の液体を出す物の端に──「もちゃもちゃ、甘々にゃーよ」と、何故かもちが座っていた。その隣りには、虎も座っている。
「小腹が空いたら甘々なのにゃ」
「グルゥゥゥ、ニャン」
それを見て頭を抱え、チラッとアルテラの顔を見ると、ニヤニヤと口角が上がっている。
「アレって、下位の精霊よね? その隣にいるのは、猫人の子供かしら? こーんな場所に居るだなんて、不思議だわぁ……」
何故彼奴らが、三階におるのじゃあっ! さっきまで地下で、凛宮司の側に居た筈であろうに、タイミングが悪過ぎるかやっ!
「しっ、シアードの所に居た猫人を、我が預かっておるのじゃ。お主は彼奴を知っておろう」
「シアード? 直接は会った事ないけど、アレよね? 貴女を封印した化物エルフよね?」
「左様じゃ。この近くの国で会ってのぅ……そこでもちの面倒を、頼まれたのじゃ」
これならば辻褄は合うじゃろう。我はただの暇潰しで来ただけじゃけど、凛宮司やもちの護衛には違いないし、誤魔化せる筈じゃ。
「貴女が子供の面倒をねぇ。そこの猫び……この大陸だと、ニャンブルって呼び方だったわよね。そこのニャンブル、少し良いかしら?」
「甘々にゃぁ、うにゃ?」
「ニャゴゥ、ウニャ?」
「一人と一匹が同じ反応で返してくるとか、地味に可愛いわね。こっちに来て頂戴」
アルテラの奴、もちに何をする気じゃ。もちは警戒心が薄いから、少し不安なのじゃが。
「にゃっ、にゃっ……お前誰にゃ?」
「近付いて来て直ぐ、開口一番に失礼ね」
「グルゥゥゥ、スンスンッ」
虎の奴めが、アルテラの匂いを嗅ぎながら、そっと背後にまわりおったな。流石はこの施設の精霊、アルテラを警戒しておるわ。
「貴女お名前は?」
「もちにゃーよ。お前は誰にゃ? 気持ち悪い格好をしてるのにゃ。引っ掻いて良いにゃ?」
「……ねぇ黒姫」
アルテラの笑顔が、引き攣っておるわ。猫人の中でも、もちは相当な自由猫で、犬人のミルン以上に好戦的じゃからのぅ。
「自己紹介をすれば、そのもちは大人しくなるのじゃ。知らぬ者には牙を剥くでのぅ」
「そうなのね……私はこの世界の神の一柱、女神アルテラよ。もっと畏まりなさい」
「嫌にゃーよ。可笑しな色の服を着た、自称神様なんかに、もちは畏まらないのにゃ」
あっ、またアルテラがこっちを見てきたのじゃ。どことなく、悲しそうな顔をしておるわ。
「このニャンブル、性格が流に似てるわね……神を敬わないところとか、そっくりだわ」
「ニャンブルは種族名! もちと呼ぶのにゃ!」
「猫人で大人しいのは、ファンガーデンに居るニアノールくらいじゃろうてのぅ」
もちは少しばかり自由過ぎるのじゃが、母親も自由猫じゃったし、父親はもちに甘そうじゃったからのぅ。
「まぁ良いわ。それじゃあもち、一つだけ聞いても良いかしら?」
「嫌にゃーよ」
「っ……地下に"もう一人"、誰か居るわよね。そのもう一人は、もちの知り合いかしら?」
此奴っ、気付いておったかのか。
「待つのじゃもち──『地下にゃ? メイちゃが居るのにゃ』っ、T-OG動くのじゃ!」
「了。コア修復率五十二パーセントにて、各外部兵装本格稼働。統括機の兵装を模倣……対神兵装、黒の剣を使用致します」
「虎! もちを避難させよ!」
アルテラの背後に回っていた虎が、その背中に突撃を敢行し、「痛っ!?」──とアルテラを転けさせ、もちを拾ってその場から離脱。
「痛いわねぇ……やっぱり貴女、何か隠しているじゃない。メイが誰かは知らないけど、人の気配は感じていたもの」
「アルテラや、大人しく帰るのじゃ」
「嫌よ。転生神に頼まれたお仕事だし、怪しいモノは"調査"しないと、怒られるじゃない」
これは、面倒な事になったのじゃ。いかに転生神の頼みとはいえ、こうも仕事熱心な奴ではなかろうに、どういう事なのかや。
「不満。その神を消せば問題は解消」
「馬鹿を言うでないわ。お主では神に勝てまいて──って、何じゃその……剣?」
「了。対神兵装黒の剣。統括機と当機しか持ち得ない、今は亡き管理者の最高傑作です」
T-OGが握るそれは、黒い渦が波打ちながらも剣の形をしている、とても奇妙な物。龍の瞳でも見通せぬ、不気味な黒い剣。
「厄介な物を出して来たわねぇ」
「苦笑。いかな信仰神といえど、この兵装を幾度も受ければ、消滅は必至」
あ──これは駄目じゃ。このままじゃと此奴ら、本気でバチクソ戦う気じゃぞ。下に凛宮司が居るというのに、不味過ぎるのじゃ。




