19話 神話の中の怪物達.1
ただの暇潰しであったのに、なぜこの様な事になってるのか。あの凛宮司とかいう女子は、流と同じく巻き込まれ体質なのかのぅ。
「ふむ……アルテラの奴め、真っ直ぐこっちへ向かって来るとは、良い度胸をしておるわ」
「了。解析の結果、脅威度SSSと確定。第四防壁も突破されました」
「神の力を解放しておるのじゃ。古びた玩具程度では、どうにもならぬ相手じゃろうよ」
迅号二式の置かれた階層から、一段上の地下四階。遠い過去の異世界人が作ったであろう、無機質な壁で覆われた、灰色の空間。ここでアルテラから事情を聞く。
「のじゃが……殺風景な場所じゃのぅ」
「否。量産機を壁の中に待機させております」
「量産機如きでは、御使を相手取るのが精一杯じゃろ? あまり無茶をするでないぞ」
このT-OGとやらがドールの姉妹機ならば、普通に自爆しそうで怖いのじゃ。我は助かるが、凛宮司やもちでは耐え切れまいて。
「否。今は亡き管理者から、『何がなんでも神を消せ』と命令されております。最悪自爆してでも、アルテラ神を屠ります」
「自爆の兆候が見えたならば、我はお主を砕かねばならぬ。神と龍を同時に敵に回す気かや」
「問。神に与する気でしょうか」
「自爆を止めよと言うておるのじゃ。お主の事はどうでも良いが、下におる凛宮司ともちを、危険に晒すでないわ」
流石はドールの姉妹機。目的の為ならば手段を選ばぬ、狂気地味た思考をしておるわ。
「不服。当機の外部兵装を使えば、自爆の余波を抑える事が可能。地下五階は無傷です」
「いや、お主壊れとるじゃろ」
「……答。自爆機能をオフにします」
此奴、馬鹿なのか? それとも、浮かんでばかりいるから、自分が壊れておる事を忘れておったのかや? 下半身がないであろうに。
「緊急。第五防壁突破──来ます」
「ふむ、上かや」
天井を見上げてみると、光を放つ壁に亀裂が走り、ボコっと穴が空いた先から、桃色に発光した者──桃色一色の装備に身を包んだアルテラ神が、ゆっくりと降りて来た。
「あらっ? やっぱり居たのね」
「何が『やっぱり居たのね』じゃ。我は今、絶賛暇潰し中で忙しいのじゃ。帰れ帰れっ」
「つれないわねぇ。貴女の気配を感じたから、わざわざ来てやったのに」
此奴矢張り、我の魔力を察知しおったのか。ファンガーデンで大人しくしておった此奴が、なぜヴォイド大陸に来たのじゃ。
「貴女、その隣に居るのって……アレよね?」
「ドールの姉妹機じゃな。我が散歩をしておったら、偶然見付けてのぅ。流にも報告せねばならぬ故、手出しは無用じゃぞ」
此奴ら神からすれば、流は相性の悪い相手じゃからのぅ。こうして言えば、深追いはしてこぬ筈じゃが……どう出るか。
「相変わらず失礼な奴ね。わざわざそんな物に、手なんて出さないわよ」
「ならば何故、ファンガーデンで惰眠を貪っておったお主が、ここに来たのじゃ」
「そんなの、砂漠の下から貴女の気配がしたから、気になって見に来ただけよ。あの魔神……流にも、手伝って欲しい事があるし」
「手伝って欲しい事じゃと?」
この場所に来たのは、偶々偶然? 何事かと身構えていたのに、なんとも気の抜ける話なのじゃが。我、幼女姿になっても良いかのぅ。
「問。当施設に神が土足で踏み入るなど、あってはならぬ事。説明を求めます」
「随分と生意気な奴ね」
「苦笑。桃色尽くしの変神に言われても、ただ笑いを誘うだけです。笑笑笑笑笑笑」
「人を模して作られた分際で、女神である私を煽るだなんて……潰すわよ?」
自爆は駄目と言ったからか、T-OGの奴めが口撃し始めたのじゃけど、反応するアルテラもアルテラじゃな。沸点が低いのじゃ。
「それで、お主は流に何用で来たのじゃ。流ならば、ここから最南端に位置する国で、食料支援をしておるのじゃが」
「チッ……このガラクタを下手に刺激すると、直ぐ自爆しようとするから、苦手なのよね」
「笑。当機は外部兵装製作機。神殺しのレプリカで、今直ぐにでも滅しましょうか」
此奴ら、我の話を聞いておらんのぅ。我……魔龍ぞ? この中で一番強い存在じゃぞ? それを全無視かや? 本気で泣きそうなのじゃ。
「なによ、そんな顔をして。大人の姿で涙を浮かべても、ムカつくだけじゃない」
「驚。駄龍から泣龍への変化でしょうか?」
「うむぅ、泣きそうよりも、苛々が増してきたのぅ。昔の我であれば、即戦闘なのじゃが……」
我も丸くなったものじゃ。昔は良く怒りに任せて、龍の姿で地上を踏み潰し、苛々を発散しておったのじゃがのぅ。
「そうだ、ついでだから聞いて良いかしら」
「何を聞きたいのじゃ」
「最近この近くで、歪みが発生したんだけど、そこから異世界人が迷い込んだのよ」
歪み……空を飛んでも狙撃されなかったから、もしやとは思うておったが、根暗魔王の奴は本当に死んだのじゃな。
「それがどうかしたのかや?」
「それで、その異世界人っていうのが、神の眼を持ってしても、ステータスを覗く事が出来ないらしいのよね」
「ふむ……珍しくはあるが、ない話ではないじゃろう。神とて完璧ではないのじゃからな」
どうにも、嫌な予感がするのじゃ。
「そうなんだけど、転生神の奴が調べて欲しいって、わざわざ私の所まで来たのよ」
神の眼を持ってしても、ステータスを覗けぬ者を、我は数人知っておる。
「転生神が地上に来るとは、珍しいのぅ」
流の父親である小々波・哲也もそうじゃ。
「でしょ? 何か知っている事はないかしら」
アルテラが探しておる者は、最近になってこの世界に来た。そして、我が最近出会ってステータスが覗けなかった者は、一人だけ。
今正に、地下五階で作業をしている者。
"凛宮司・名花"という名の、異世界人。
「……我は何も知らぬのぅ」
ここは誤魔化すに限るのじゃ。
「問。泣龍の心拍数が上昇」
「T-OGっ、今は黙っておるかやっ」
このアルテラの狙いは、お主のコアを修復しておる凛宮司なのじゃぞ。どおりで嫌な予感がした訳じゃ。




