25話 他が為にではなく
2026/06/28 改稿
只今、アルテラ教の敷地内にある、小さな砦の上部から、絶景を眺めております。と言っても、そこまで絶景じゃないか。
「お父さんっ! 意識をしっかりと保つのっ!」
さっきからミルンが、肩の上から延々と、俺の頭を叩いて来ますが、至って正常ですとも。
「うんうん、いい感じに避難が進んでるなぁ」
「聞いてないっ!?」
「ちゃんと聞いてるぞ?」
何をしてるのかって? そんなの……ちょっとした準備というか、避難誘導? 俺がしている訳ではなく、筋肉村長がムキっとして、アルテラ教の人達を、退避させています。
「んで、リティナさんやい。気は済んだのか?」
「まだやっ! まだっ! 殴っとる最中やっ!」
効果音を入れるとしたら、バキィッ、ボグッ、ドゴスッ、的な感じだろうか。大司教にマウントを取りながら、延々と顔面目掛けて、拳を振り下ろしている真っ最中。俺が埋め立てた三人は、再度空間収納で掘り返し、武器を取り上げ縛り上げ、そのままポイっと放置プレイ。
「リティナ様、次は私ですよぅ。丁度膝にぃ、穴が開いていますのでぇ、グリグリっと出来ますねぇ。楽しみですよぅ」
ニアノールさんが、一番怖い。その手に持つナイフで、グリグリっとする気なんだろうけど、殺す気じゃないよね?
因みに大司教は──声も出せない程に、既にボロボロではあるが、まだ息はある。というより、リティナが死なない程度に、回復させながら殴っている。
「……回復させて殴るって、拷問だよな」
「ミルンも殴ってきて良い?」
「止めときなさいな。ミルンの可愛い手が、脂まみれになっちゃうだろ」
「むふふっ。それなら止めとくのっ」
ミルンの尻尾の感触を、背中で楽しみながら、下を見てみると──これまたボロボロの男達が、砦の中を行ったり来たりと動き回り、とある人達を、運び出している。
モノとは言いたくないからな。
砦の地下に居た、物言わぬ人達。
それを指揮しているのは、黒外套。名前を聞いても、『全員影です』としか言われなかった、この国の暗部達だ。
「あの子達にも、今から俺のやる事を、しっかりと見てもらわなきゃな……」
天国があるならば、そこに行って欲しい。
恨むより、呪うより、苦しみのない、笑顔溢れる所へと、行って欲しいと願う。
「ふうっ、ふうっ……ウチからは、こんなもんやろ。ほな次は、ニアの番やな」
「頑張りますよぅ」
「ニアノールさん。殺さないようにな」
念の為、注意はしておこう。
大司教を引っ張りながら、外に向かっている時にも、ニアノールさんは何回か、「サクッとやりましょうよぉ」って言ってきたからな。
目が本気だったのよ。
外に出たら、大司教の私兵の半分以上が、お亡くなりになっていて、残りの奴らは、影さん達に拘束されていたし。
んで、村長はまた半裸。
意味が分からなかったわ。
それから、俺のやろうとしている事を、サラッと説明してからの──避難誘導開始です。
「いぎいいいいいいいいいっ!?」
「ほらぁ、暴れても無駄ですよぅ。もっとぉ、グリグリしましょうねぇ」
「やめっ、ああああああああああっ!!」
死に体だった大司教が、急に叫ぶとか、アレって完璧に拷問じゃん。ニアノールさんも相当、キレてるなぁ。
「流様。砦内の遺体全てを、運び終えました」
「うひっ!? ちょっ、影さん……急に現れんの止めてね。本気でビクってなるからさ」
「失礼致しました。それで、次は何を致しましょうか。何なりと、お申し付け下さい」
本当にこの暗部さん達は、何なのか。俺達に加勢してくれただけでなく、こうしてお手伝いまでしてくれるのって……意味が分からん。
「なあ影さん」
「何で御座いましょう」
「もしかして、女王の命令か?」
「半分は……命令に御座います」
半分は命令で、残り半分はなんなのか。というか暗部なのに、こんなに大胆に表に出て、不味くはないのだろうか。
「すんすんっ……貴女は、あの時の影?」
「何だミルン、あの時って?」
「孤児院で会った影なのっ」
孤児院でって──俺達の話を盗み聞きしていたあの影さんが、この影さんって事か? 全員黒外套羽織ってるから、分からんて。
「流石、ミルン様……ミルン御嬢様に御座いますね。左様に御座います」
「むふふ。ミルンの鼻は誤魔化せないのっ」
「次からは匂いに、気を付けねばなりませんね」
この影さん、ミルンに気に入られてるな。尻尾が楽しく揺れているし、早くこれを終わらせて、しっかりお手入れしなくちゃだ。
「おっ……ようやく避難完了か」
村長が凄い勢いで、走って来るのが見える。
「それじゃあ、リティナ」
「なんや?」
「下に降りたら、あの大司教の怪我を、意識がハッキリする程度まで治してやってくれ。しっかりと見せてやりたいらからな」
「……分かった。ちゃんと治したるわ」
という事で、砦から出て、沢山の遺体が横たわった隣で、大司教の傷をそこそこ癒し、意識をハッキリとさせて、座らせます。
「ひっ、もうっ、もう止めてくれぇぇぇっ!」
ニアノールさんの所為で、若干壊れたか。
その場で土下座のような姿勢をとり、頭を抱えて丸くなる姿は、何というか──苛々する。
「流君っ! 大聖堂に居た全ての者の避難を、終わらせたのであるっ!」
「村長、あんがとさん」
首をコキっと鳴らし、無駄に軽く柔軟運動をして、「ふぅぅぅっ」と息を整える。
「よしミルンっ、俺の頭に手を置いてくれ」
「分かったのっ。尻尾も置きます」
「……モフッとした感触が、堪らないなぁ」
今から俺が、やろうとしている事は、誰かの為ではなく、俺の為にする事だ。俺の行いを、誰かの所為には決してしない。
目の前には──城と見紛う程の大きな建物、アルテラ神を信仰する為の、大聖堂がある。
大司教の行ってきた事を、罰さず、放置し、何もしなかった、アルテラ神に祈る場所だ。
「……そんな場所、要らんだろ」
大司教だけじゃあない。
この首都全ての者へ、これを見せ付ける。
二度と間違いを犯さぬように。
同じ過ちを、繰り返さぬように。
思い描くは──浄化の炎。過去に一度発動した、あの時の魔法。大聖堂に意識を向け──俺の感情そのままにぶちまける。
「俺を怒らせやがってっ、この糞共がああああああああああああああああああ──っ!!」
酸欠で若干ふらつきながらも、意識をしっかりと保ち、体からフッ──と熱が抜けていくのを感じ、"発動"したと確信した。
「ふぅ……さて、村長。大司教の顔を、大聖堂に向けてくれ。しっかりと見せなきゃな」
「分かったのである……が、何も起こらぬぞ?」
「まあまあ、もう直ぐだからさ」
大聖堂の遥か上空に、小さな火の玉が現れ、俺は空を見上げて、ゆっくりとソレを取るように手を伸ばし、握り締めた。
それは、範囲指定された場所へ、浄化の光を降らせ、対象を尽く殲滅する、神級魔法──《ファイヤオブジャッジメント》──火の玉に集束された光が、徐々に強烈な光を放ち、その光が大聖堂へと一直線に──落ちた。
「ミルンのおいええええええ──っ!?」
そしてミルンの虎馬も、蘇った。
「こっ、これは、魔法なのかねっ!?」
「流にーちゃんっ! あんた馬鹿やろおっ!」
「うわぁ……砂埃が来ますよぅ」
この日──ジアストール王国首都、アストールに存在した、城と見紛う程の巨大な大聖堂が、その姿を消した。たった一人の男、小々波流の手によって。
「あっはっはっはっ! 見てみろよっ! 城が一つになって、空が見渡せるぞっ!」
なあ、ちゃんと見れたか。やられた分のほんの少しだとは思うけどさ……どうかこれで、安らかに眠ってくれよ。




