18話 修復試乗古代の遺物.3
虎の話は理解出来た。要は実験動物の被害者側であり、もう亡くなっているらしい管理者とやらは、碌でもない者という事ですね。
「それで、この施設は何なのかしら? ミリタリーフロアと銘打つ割には、日用品や洋服などのテナントもありましたけれど」
名前の通り銃器類もありましたが、どうにもテナントの配置が、素人臭いのです。お客を呼び込むのなら、一階は食料品店でしょう。
「了。当時の商業施設の一画が、ここ、ミリタリーフロアになります。本来の大きさは、当施設の十倍になります」
「じゅっ十倍って、元は複合施設とかですか? なぜ砂漠の下にわざわざ……」
「不満。古の大戦の折に、砂に覆われました。当施設稼働率十パーセントにて、どうにか維持している状況です」
また物騒な話ですわ。古の大戦だなんて、意味深過ぎて聞きたくないです。それに、このTーOGが求めている内容も、厄介そうですわ。
「私の持っているスキル、修復を使って、この施設を直せと仰るつもりかしら」
「否。以前凛宮司が直した、フロートカーの情報を精査。凛宮司のスキルでは、当施設全域を直す事は不可と判断」
「私にどうしろと?」
やっぱり、あのミニカーの何処かに、隠しカメラが付いているのね。迂闊だったわ。
「答。凛宮司には、当施設のコアの修復をお願いします。燃料は、再稼働した統括機から横取りしておりますので、残るはコアのみです」
「統括機って、貴方達のリーダーかしら?」
「肯定。邪魔な干渉が消失した為、統括機の反応を検知。効率的に、燃料の充填が可能となりました。まさに行幸」
「行幸ねぇ……」
これのリーダーとやらが、どこかで動いているだなんて、聞きたくなかったですわ。絶対に碌でもない者でしょう。
「コアを修復し終えた後に、私達が無事であるという保証はあるのかしら?」
「回答不可。保証というモノはなく、当機を信じて貰う他御座いません」
信じるだなんて、難しい"要求"ですわね。口では簡単に言えますが、得体の知れない人ではない存在を、そう簡単には信じれません。
「なんぢゃお主ら、まだ話とるのかや」
「一回も勝てなかったのにゃ」
「グルゥゥゥ、ニャン」
ミニカーのレースに満足したのか、虎に乗ったもちと黒姫が近付いて来ていた。
「お主、TーOGと言うたのぅ。ドール……T-OPとT-GAは、お主の姉妹機ぢゃろう」
「肯定。統括機及び、砲撃特化型量産機の名称になります。二機をご存じで?」
黒姫がチラッと私を見てきた。
「どうせこの国に流が来おったら、遅かれ早かれバレるからのぅ。その二体は、ドールとドーツという名で、流の側に居よるわ」
「疑問。南にて、統括機の反応は御座いますが、砲撃特化型量産機の反応は無し」
「ドーツならば、この大陸に来てはおらぬ」
頭が痛くなって来ましたわ。流という異世界人の話は、断片的に聞いてはおりましたが、まさか目の前のコレと似た様な存在を、二体も従えているだなんて。
「ぢゃからこそ、お主らの弱点は把握しておる」
黒姫は、弱点をご存知でしたのね。TーOGがほんの一瞬、動揺した様に震えましたわ。
「この状況ですし……知っている事を全て、包み隠さず話しては頂けませんか?」
「ふむ、我の知る範囲で良ければのぅ。此奴らは古き時代、当時の転移者によって作られた、物騒な兵器らしいのぢゃ」
「それは、見れば分かりますわ」
銃の様な物を腕に取り付けておりますし、物騒な物が四階にありますもの。それにTーOGご自身で、外部兵装製作機と仰られておりましたし、兵器以外の何者でもないでしょう。
「基本的に、管理者の指示が優先らしいのぅ。魔力を燃料として消費し、それが尽きると動けなくなる、欠陥持ちぢゃな」
「不服。当機は欠陥機では御座いません」
「いや、どう考えても欠陥ぢゃろうて」
「答。当機及び当施設は、周囲の魔物から魔石を抽出し、少ないながらも魔力の充填を可能としております。欠陥機では御座いません」
黒姫が煽ってますわね。この煽りに反応したという事は、このT-OGという方の思考は、人間寄りなのでしょう。
「さっきから、何の話をしてるのにゃ?」
「グルゥ、グアゥ?」
「大人の話ですわね。それと、どうやらその虎は、精霊という存在らしいですわ」
「精霊にゃ?」
もちは良いとしても、どうして虎までもが首を傾げて、不思議そうな顔をしているのかしら。貴方の事でしょうに。
「お前は精霊なのにゃ?」
「グルゥゥゥ……ニャゴゥ」
「眉間にシワが寄ってるにゃーよ」
虎の眉間を揉み揉みするだなんて、もちは優しいですわね。私も虎を触りたいですが……触ろうとしたら、睨まれますわぁ。
「お主らはポンコツぢゃろ! ドールの奴も時折、勝手に我の魔力を吸っておるしっ、本当にいい迷惑なのぢゃ!」
「苦笑。駄龍の魔力では、燃料充填の効率が悪いと断定。不純物混じりの粗悪品かと」
「誰が粗悪品ぢゃあっ!」
いつの間にか、二人が言い争ってますわ。二人共が相当な歳を取っている筈ですのに、子供の喧嘩でしょうか。
「溜息。駄龍と話をしていても、何の益も御座いません。凛宮司、コアの修復の件、御了承頂けますでしょうか」
「ゴラァッ! 喧嘩を売っておいて逃げる気かや! お主らなぞ我の小指一本でっ、粉々に粉砕出来るのぢゃぞ!」
「はいはい黒姫さん。涙目になっている時点で貴女の負けなのですから、落ち着いて下さい」
「泣いておらぬのぢゃあ!」
おっきな瞳から、ポロポロと涙が溢れていますわよ。鼻水まで出すだなんて、竜を簡単に倒せる方ですのに、面白い方ですわ。
「えっと、T-OGさんで良いのかしら?」
「否。さん付けは不要」
「それなら、T-OG。貴方の要望通り、コアの修復はさせて頂きます。ですので、必ず約束を守って下さい」
「了。ご安心下さい。凛宮司の要望通り、コアの修復が完了次第、地上に送り届けます」
このT-OGを信用した訳ではないですが、黒姫とのやり取りを見ていると、警戒し過ぎるのも馬鹿らしくなってきました。
「でしたら、コアのある場所へ────」
案内をと言おうとした矢先に突如、この施設全体が倒れるかと思う程の揺れが起き、床に尻もちを付いてしまった。
「ゆっ、揺れてるのにゃ!」
「突然なんぢゃ!?」
「くっ、お尻が痛いですわね!」
ゆっくりとその揺れが収まっていき、ただの地震かと思ったのも束の間──「緊急事態。当施設に侵入者です」とTーOGが宙に浮き、壁の中に沈んでいた者達も動き出す。
「一体何事ですのよっ」
「緊急事態。解析っ、これは……神の反応有り」
「はっ? ……神?」




