18話 修復試乗古代の遺物.2
銃を構えて啖呵を切ったのは良いものの、このTーOGという、得体の知れない者の顔色は読めず、非常にやり難い。
何を考えているのかが分からない。
行動が読めない。
銃口を向けているのはこっちなのに、見えない何かに拘束されたかの様に、体が硬直して、銃を持つ手が震えている。
「微笑。引金を引けば、あちらのもちは無事では済みません。それは、自らを拘束する行為に他なりません」
「だとしても、黒姫さんが居ますわ」
「苦笑。他力本願に御座いますね」
口がないのに微笑だとか苦笑だとか、本当は中に人が居るのでは……下半身からケーブルが伸びてますし、人ではないですか。
「非常に心苦しいのですが、私は非力な身。ですので、使える者は使いますわ」
「肯定。その非力な凛宮司だからこそ、交渉出来ると判断。DMー194やFOー122を修理したスキルを、貸して頂きたい」
「脅しで従わせると?」
「了。必要ならば」
合理的ではありますが、矢張りこの方は人工物ですのね。人の感情というものを、分かっていらっしゃらないです。
「上から目線で来られる方に、従う道理はありません。先ずは誠意を見せるべきでは?」
「不服。友好の意は示しております」
「貴方のやり口は、友好とは程遠いですわ」
恐らく、もちと黒姫と虎が遊んでいる、このミニレース的なもので、友好を示しているのでしょうが、どこかズレてますのよ。
「改善。凛宮司の求める誠意を、開示して下さい。可能な限り実行致しましょう」
「随分と、気前の良い事ですわね」
「肯定。凛宮司を"殺さない為"の処置です。現環境下では、脳を取り出して……失言」
私の脳を取り出して、一体何をする気なのかしら。想像するだけでも、恐ろしいですわ。
「ふぅ……私からの要求は、私達の安全の確保、地上への帰還、虎を含めた貴方達の情報の開示の、この三つだけです」
無理難題を押し付けて、完全な敵対関係になる事は避けたいですし、このまま地上に帰れなくなるのも不味い。
「検討中……検討中……安全の確保は承認。各機兵装解除、待機モードに移行」
その言葉で、周りに浮いていたTーOGに似た者達が動き出し、壁の中へと沈み込む様に消えて行った。
「……気持ち悪いですわね」
「不服。管理者の浪漫溢れる仕様です」
「壁に沈み込むどこに浪漫が?」
こんな物、異常の極みでしょうに。
「回答。地上へは、当機の目的達成後に送り届けます。又、管理者権限を持たない者への情報の開示は、一部制限されております」
まぁ、そうなりますわよね。先に地上へ出れたのなら、全力で逃げる気満々ですもの。
「それで構いませんわ。話せる範囲で結構ですので、この状況の説明を求めます」
「了。それを持って、誠意と致します」
「誠意と捉えるかは、聞いてからですわ」
視線を横に向けると──もちと黒姫と虎は、延々とミニカーを走らせている。耐久レースでもしているのでしょうか。
「一番を獲るのにゃーよおおおおおおっ!」
「もう負けたくはないのぢゃああああああっ!」
「グルゥ、グルゥ、ニャーゥ」
バシュウウウッ──という駆動音と共に、横を通り抜けて行く二人と一匹。
「……呑気ですわね」
その光景を見て、毒気が抜かれてしまい、ゆっくりとTーOGに視線を戻し、銃口を下に向けてセーフティを入れる。
「それじゃあこの施設について、お聞きしましょうか。もちろん、あの虎の事も……」
「了。開示出来る範囲でお伝えしますと、あの虎は、虎ではありません」
「いや、どう見ても虎でしてよ?」
猫科の立派な肉食獣ですわ。肉球もそれなりに大きそうですし、触りたいものです。
「否。管理者の世界に居たとされる、虎の姿を模した、"人工精霊"の失敗作です」
「っ……管理者は、違う世界の者なのですね。それに、人工精霊とは何ですか?」
「一部開示。別拠点から送られて来た、精霊のデータを参考に、実験にて作られた存在です」
つまりあの虎は、実験体だったのですね。どうりで、無駄に器用な訳ですわ。
「当時の実験は失敗にて、二階ペットコーナーの世話係として、ここに住まわせております」
「あの虎は、何歳になりますの?」
「疑問。精霊に歳は御座いません。あの虎は当施設の精霊ですので、当施設の機能停止まで生き続ける存在です」
「それは……凄いわね」
ここは古代の時代の遺跡。少なくとも、古代と言われる程古い場所であり、それ程の年月をあの虎は生きている。
「何故あの虎が、失敗作だと言いますの。随分と賢い、大きなにゃんこですわよ」
「是。それが答えです」
「どれが答えですか?」
「溜息。作ろうとしていた精霊は、"人型の上位精霊"です。あの虎は下位精霊に加え、この施設から出る事が出来ません」
先程言ってましたわね。この施設が機能を停止するまで、あの虎は生き続けると。逆を言えば、この施設が止まったら、あの虎は死ぬと言う事ですか。
「とんだ牢獄ですわね」
「肯定。あの虎からすれば、凛宮司達は"敵意なき来訪者"でしょう。良い遊び相手です」
「敵意があれば、どうなっていたのですか?」
「苦笑。喰い殺されていたかと。ここ数百年は何事もなかったですが、当時は侵入者が、後を絶たずに来ていましたので」
それはもしかして、一階のアレかしら。大量の薬莢が落ちていたり、壁に赤黒いシミがあったりと、戦いの跡が残っていましたもの。
「また負けたのにゃああああああ!」
「くうっ、何故勝てぬのぢゃあっ!」
「グルゥゥゥ、ニャフンッ」
あんなにも楽しそうに遊んでいる虎が、この施設を守っていたのですね……話の内容が、とても重たいですわ。




