18話 修復試乗古代の遺物.1
私達は一体、何をさせられているのか。
「負けないのにゃ!」
青色のミニカーに乗るもちは、エンジンをシュルルルッと吹かしながら、隣の黒色のミニカーに乗った黒姫を煽っている。
「ふふんっ、吠え面をかくが良いのぢゃ!」
黒姫は、ニヤニヤと笑みを浮かべたまま前を向き、このコースをどう走るのかを、シミュレーションしている。
「グルルッ、グワゥ」
そして何故か、黄色のミニカーに乗っているのは、あの四足歩行の虎。前足でハンドルを握り、ゆったりと運転席に座っている。
「……この衣装、レースクイーンですわよね?」
「肯定。良くお似合いです、凛宮司」
「で、これは……何をさせられてますの?」
もち、黒姫、虎の乗るミニカーが、横一列に並び、宙に浮いたままその時を待つ。
「疑問。フロートカーの試乗会ですが?」
「待って、思考が追い付きませんのっ……」
上に設置された赤い照明が点滅し、黄色から緑に変わった瞬間、プゥゥゥッ──とフロア内に、スタートの合図が鳴り響く。
「了。全車一斉にスタート致しました!」
「もちが勝つのおおおおおおっ!」
「行くのぢゃ黒姫号!」
「グルガアアアゥッ!」
ミニカーからギャルルルッと異音が聞こえて直ぐ、ズドンッ──と発射するかの様な勢いで、一斉に前へと飛び出した。
「……意味が分かりませんわ!」
今さっきまで、TーOGと名乗る顔が黒い水晶で隠された、下半身の無いロボットの様な者と、それと似た者達に囲まれて、一触即発の空気感でしたのに、どうなってますの。
「驚愕。もち選手速い速い! 独走状態で最初のカーブに差し掛かった!」
隣に居るのが、そのTーOG。ノリノリで実況しているとか、意味不明過ぎますわ。
「残念。もち選手スリップ! それを黒姫選手が上手く避けての、トップに躍り出た! もち選手をパッシングで煽っている!」
アレよね、銃口を向けられて、取り敢えず話をしようとしたら、ミニカーを前に出されて、もちがそれに飛び付いた。
「興奮。もち選手凄い! 虎が前へ出る前に、何とか立て直した! 黒姫選手を猛追!」
黒姫と虎もそれを追い、私はというと──『指示。これに着替えて下さい』と、銃口を突き付けられての、この姿。
「楽。もち選手と黒姫選手、二ヶ所目のカーブをぶつけ合いながら通過! 虎は最後尾から虎視眈々と狙っているぞ!」
「うぅっ、今の言葉は寒いですわ!?」
「不服。"今は亡き"管理者渾身のギャグです」
今サラッと重要な事を言いましたわよ。管理者が亡くなっているのに、どうしてこの様な施設が動いているのかしら。
「続。おおっと! 最後のカーブでもち選手、黒姫選手が曲がり切れず、大きく膨らんでしまった! そこを虎が──抜いたあああああ!」
というかこの方、何処から声を出しているのかしら。顔はどう見ても水晶っぽいですし、声なんて出せそうにありませんのに。
「発汗。虎を追うもち選手黒姫選手! そして三者共に並んだああああああ! 最後の直線! このレースを制するのは誰だああああああ!」
「直線ならもちが勝つのにゃあああああっ!」
「行くのぢゃ黒姫号! 負けてはならぬっ!」
「グルアアアアアアウッ!」
「確定。そして今──ゴオオオオオオル! 順位を確認しておりますので、今暫くお待ち下さい。払戻しは一階、正面出入口横に御座います、発券売場までお越し下さい」
その言い方ですと、絶対に賭け事ですわ。
「順位が確定致しました。一位、虎。二位、もち選手。三位、駄龍。一位の虎には、特性栄養ドリンクを進呈します」
「まっ、負けたのにゃああああああっ!」
「誰が駄龍ぢゃああああああっ!」
「グルゥ、グルゥ、フフンッ」
もちと黒姫は、ミニカーの運転席から降りて直ぐ、床に倒れる様にして悔しがり、虎はミニカーの中で踏ん反り返るこの状況。
「……で、これは本当に、何をさせられているのかしら。説明して下さらないの?」
「疑問。フロートカーの試乗会ですが?」
「それはさっきも聞きましたわ」
機械的に返答されている様ですが、どうにも人間臭い。というよりも、無理に機械的に喋ろうとして、言葉を吟味している感じがする。
「……了。館内放送にて、フロートカーの試乗会と伝えておりましたので、この様な催しを行いました」
「成程ね。それで、私を呼んだ理由は何かしら」
だいたいの予想は付く。もちのミニカーを直した、私の修復スキルが目当てなのでしょう。それ以外に考えられませんもの。
「了。ご想像の通りかと」
「貴方を修復しろと? その義理はなくてよ」
「理解不能。義理はなくとも、この現状からの打開策は皆無。いかに魔龍とて、このミリタリーフロアから出る事叶わず」
ミニカーで楽しませておいて、今度は脅しですか。もちと黒姫は、またミニカーに乗っていますし、人質にするおつもりかしら。
「先に言っておきますが……もちに手出しすれば、私は貴方の敵になりましてよ」
素早く銃を構えて、TーOGの頭に狙いを定め、いつでも引金を引けるように準備する。
「注意。"グラビティバレット"が装填されております。引金を引けば、この空間諸共押し潰されて、魔龍以外は破壊されます」
「あの弾がそうでしたのね。まあ、あの黒姫さんなら、もち一人くらい守りますわよ」
「疑問。貴女は死にますが」
「もちを守れるのなら、安いモノですわ」
T-OGの水晶の顔が、ジッとこちらを見て来る。目が無いにも関わらず、不思議と目が合っていると思うのは、錯覚だろうか。
「理解不能。管理者にインプットされた情報の中には、"強い者に巻かれろ"という言葉があります。巻かれないのですか」
「巻かれる訳がないでしょう。私の生き方に反する行いですし、それは捨てましたもの」
家に縛られ生きて来た人生は、この世界に迷い込んだ時に捨てた。誰にも行動を縛られず、ただ私の思うがままに生きると決めたのだ。
「この私、凛宮司名花を、舐めないで下さい」




