17話 動き出す者.2
感謝するだなんて言葉をまさか、あの転生神の口から聞くだなんて、驚きよね。しかも、『用件はそれだけじゃ』とか言って、逃げる様に神域に帰るだなんて……気味が悪いわ。
「……まあ良いでしょう。ルトリアに出掛けると伝えてから、さっさとヴォイド大陸へ行って、歪みから来た者の調査ですわね」
飲みかけの酒瓶を懐へ忍ばせ、羽衣の神器の力で、寝巻きから外行きの装いへと変化させ、鏡でその姿を確認する。
「こんなものでしょう」
いつもであれば、和土国風の衣装にする。が、今回はヴォイド大陸なので、違和感のないよう桃色の胸当てに、桃色の腰当て、桃色のブーツを装着して、完璧だと胸を張る。
「着いたら先に、あの魔神……流に会って、色々と手伝って貰いましょうか」
ぶつぶつと一人言を呟きながら、一階の酒場へと下りると、朝の忙しい時間帯が終わった様で、ルトリアは一人で金を数えていた。
「ひぃ、ふぅ、みぃ……このまま働いても、赤字ですねぇ。軍の俸給は有り難いですけど、それ頼みというのも……アルテラ様のお小遣いを、減らすしかないですか」
金勘定に夢中で、私に気付いていないわね。
「お小遣いを減らされたら、私泣くわよ?」
「なっ、アルテラ様いつの間にっ……」
「泣くわよ?」
あの流の屋敷の前で、女神の本気の号泣をお見舞いすれば、ルトリアだってお小遣いを減らそうとする考えを、改めるしかないもの。
「神としての自覚は、ないのですか?」
「何を言っているの。自覚もなにも私は、まごう事なき女神アルテラよ。我儘を通せるのならば、嘘泣きだって厭わないわ」
「……お小遣いを減らしますね」
「何でよ!?」
ただでさえ月のお小遣いが半金貨五枚と、高級酒二本しか買えない程度なのに、これ以上減らされたら月一本になるじゃない。
「それよりも、そのお召し物は何ですか? こんな朝早くから、何処かに行かれるので?」
「お小遣いを減らしたら、本当に泣くからね。それと、少しばかり働いて来るわ」
「そうですか、働きに……えっ?」
ルトリアの顔が、凄い事になってるわね。
「その顔は何よ?」
「いえ……アルテラ様から、働くだなんて言葉を聞く日が来るとは、思いもしませんでした」
「先に言っておくけれど、神として動くだけだから、お金は稼げないわよ?」
「チッ……どうにかして稼いで下さい」
今この子、舌打ちしたわよね? この女神に向かって、舌打ちしたわよね? 随分と太々しい態度をとる様になったじゃない。
「ねぇルトリア。あまり態度が悪いと、文字通り神罰を下すわよ? それでも良いのかしら」
「流さんに言いつけますね」
「ぐっ、それだけは止めて!」
あの魔神はどういう訳か、神への特攻を持っているから、私達のような存在からすれば、相性最悪なのよ。
「……行って来るわ。ついでに、金目の物を見付けたら、ちゃんと持って帰って来るから、お小遣いの減額だけは勘弁してよね」
「持って帰って来たなら、考えてみます」
「それって、減らす気満々って事よね?」
「「……」」
ルトリアの目をジッと見詰めるが、ここ最近のルトリアの思考が読めない。私に関わり過ぎて、変なスキルを得た弊害よね。
「行ってらっしゃいませ、アルテラ様」
暗に、さっさと行けって言ってるし。
「ふぅ……行って来ます」
神域の門を開いて、自らの空間へと移動し、そのままヴォイド大陸の空と繋げて、そのまま落ちる様に身を乗り出す。
「本当に、あの魔王の気配がないわね。さて、歪みが発生した場所は、あそこかしら」
空からヴォイド大陸を見渡すと、遥か北方の空に、属性竜の群れが見える。どうやら、魔王が死んだ事により空が開かれ、空を守る為に、竜が解き放たれた様だ。
「まぁ、人が大勢死ぬでしょうけれど、致し方なしよね。それよりも、力を解放したからか、良く見えるわぁ」
属性竜が群がっているのは、ヴォイド大陸の北にある山脈地帯。ここからだと、三千キロ以上は離れている。
「もうそろそろかしら?」
眼下には、遥か昔に起きた大戦の名残りなのか、広大な砂漠地帯が広がっている。そこへ狙いを定め──ズドンッと砂塵を巻き上げながら突っ込み、ついでに魔物の踏み潰す。
「ルトリアへのお土産は、魔石で良いわよね。ここの魔物は大型ばかりだし、魔石もそこそこ大きいから、良いお金になるわ」
潰れた魔物から拳大の魔石を抜き取り、神域へポイっと投げ入れて、周囲を観察する。
「転生神の言っていた通り、歪みは綺麗に消えているわね。魔力の残滓も感じないし、追うのは面倒そうだけど……」
南からは、あの魔神と精霊の気配がするから、流とミユンで間違いないだろう。
「あの魔龍はどこにっ、何これ?」
少し東に行った所の地下から、あの魔龍の膨大な魔力を感じる。あの魔龍の事だから、砂漠を泳いで遊んでいるのかしら。
「そこまで馬鹿じゃないか。魔龍の奴、一体砂漠の下で何を……行ってみましょうか」




