16話 ミリタリーフロア.7
お腹も多少は満たされたので、そのまま四階への階段を上がり、ミニカー展示会場まであと少しという所まで来た──のは良いものの、この階は異常の極みだった。
「……言葉に出来ませんわね」
「ほぁぁぁっ、おっきな鉄塊にゃぁ」
「グルゥゥゥ」
天井までの高さが、軽く十メートル超え。
奥に見える五階へ通じる階段も、非常階段の様な作りになっており、そしてなによりも、目の前にずらっと並ぶ"乗り物"らしき物体。
「戦闘機に見えなくもありませんが、推進力を出す為の、噴出口が見当たりませんし……奇妙ですわね」
「せんとうきって、何なのにゃ?」
「……お空を飛んで、魔物を倒せる道具ですわ」
「うにゃ? 黒姫みたいに飛ぶのにゃ?」
大量殺戮兵器を搭載出来る物だなんて、口が裂けても言えませんわ。こんな物があるのなら、持っている小銃はただの玩具ですわよ。
「ふむふむ、懐かしいのぅ。昔この大陸に来た時に走っておった、移動用の物なのぢゃ」
「これをご存知なのですね」
「うむ。と言っても、此奴らには乗った事はないのぢゃ。当時の我は、此奴らが快適ぢゃとは知らなかったのぢゃよ」
その言い方、少し引っ掛かりますわね。"当時"快適だとは知らなかった? その言い方ですと、直近で乗った事が有ると言っている様なモノですわ。
「……流という方が、関係しているのかしら」
「そうぢゃの。迅号という乗り物なのぢゃが、機内のマッサージ付きの椅子が堪らぬでのぅ。癖になる気持ち良さ……なの……ぢゃ?」
私はそっと、虎から黒姫を床へと下ろして、私、もち、虎の二人と一匹で、もっと話せとジッと黒姫を見続ける。
「えっとぉ、あのぢゃな。これ以上話すとぉ、流に叱られると言うかぁ、ミルンに齧られてしまうと言うかぁ……勘弁して欲しいのぢゃ!」
「黒姫泣きそうなのにゃ」
「グルアゥ」
「他国に属する方なので、これ以上追求はしませんが、口が軽過ぎるのはどうかと思います」
「我はどこにも、属しておらぬのぢゃ。流やミルンの側ぢゃと、何かと退屈せずに済むし、居心地が良いから居着いておるだけなのぢゃ」
要約すると、自由人ならぬ自由龍と言ったところなのでしょうか。シアードの昔馴染みの様ですし、追い詰めずにおきましょう。
「あれは乗り物という認識で、間違いはないのですね? どうやれば動くのかしら」
「ぬぐっ……乗り物である事には、相違ない。しかし、それ以上の事は言えぬのぢゃ」
「それも、流という方が関係していると?」
「言えぬのぢゃ!」
この反応を見るに──確定ですわね。少なくとも流という方は、迅号なる古代の乗り物を、この時代で活用されている。
「どうやってあの塊を、動かせるのにゃ。吐かないと引っ掻くにゃーよ、黒姫」
「もちの爪は痛いのぢゃ! 言ったところでお主らには動かせぬわ!」
「グルゥゥゥ、ガウッ!」
「このっ、魔物の分際で、我に喧嘩を売る気かや……今直ぐにでも、腑を喰ろうてやろうか」
おっとこれは、不味い感じがしますわ。
「もち、虎さん、そこまでにしておきなさい。黒姫さんも、大人気ないですわよ」
「むっ……少しイラッとしたのでのぅ。凛宮司の言った通り、大人気なかったのぢゃ」
「にゃぅぅぅ、御免なさいにゃ」
「グルゥゥゥ、ニャアゥゥゥ」
私も少し、反省ですわね。今ここに居る誰よりも恐ろしい存在を、危うく怒らせるところでしたわ。気を付けませんとね。
「しかし、動かす事が出来ないとなると、ここに居ても、時間が勿体ないですわね」
「上でミニカーが待ってるのにゃ!」
「グルァウッ、グルゥッ」
「……猫人は本当に、気分屋ぢゃのぅ」
両隣の兵器もとい乗り物を眺めながら、奥の階段へ向かい、そのまま目的の場所である五階へと、上がって行った。
そこで私は──後悔する。
「ここは……何?」
疑問に思うべきだった。
あれだけ煩かった、館内放送がない事に。
「ふしゃあああああっ! 敵意満々にゃ!」
行動を誘導されていた。
もっと慎重に、行動すべきだった。
「此奴らっ、ドールの量産機かやっ!」
この建物──いや、この施設は生きている。
照明が付き、食料もあったのだから。
しかし、目の前に居る存在が、食事を必要とするようには、どうしても見えない。
『ミリタリーフロアへようこそ、お越し下さいました、黒髪の方。いえ、凛宮司とお呼びした方が、宜しいでしょうか』
「監視していたのは、貴方達ですか……」
階段を上がった先にあったのは、機械類で埋め尽くされた、四階よりも巨大な空間。そこに居たのは──宙に浮かびながら、銃らしき物をこちらに向ける、奇妙な者達。
「もちや、下手に動くでないぞ」
「ふしゃああああああっ!」
「グルゥ、グワゥッ」
その者達の中央から一人、下半身がなく、そこから"ケーブルの様な物"を垂れ下げた者が、ゆっくりと前へ出て来た。
「了。初めまして、凛宮司。当機は外部兵装製作機、TーOGと申します。大人しく武器を捨てて下さい」
これはあれね、逃げ切れないやつですわ。




