16話 ミリタリーフロア.4
歩いた感じだこの建物は、東西南北の出入口から網目状に通路が作られており、相当な数のテナントが入っていた様だ。
「にゃっ、にゃっ、お洋服が落ちてるにゃ」
「なんぞ、奇抜な服ぢゃのぅ」
「これって下着にゃ? ぺらぺらにゃ」
もちが拾ったのは、水着でしょうか。水色の下地に、ツイバミの刺繍がなされているのは、古代人の趣味なのかしらね。
「テナントの配置が雑ですわ」
「にゃっ、にゃっ、階段ないのにゃぁ」
「一周してもうたのぅ」
そう、家電武器洋服雑貨等々、様々な物を発見出来たのは良いものの、肝心の階段は見当たらず、家電の店へと戻って来てしまった。
「……見落としたのかしら」
「もちはちゃんと見てたのにゃ」
「見落としはなかろう。我も見ておったし、上に行く為の階段はなかったのぢゃ」
「となると、厄介ですわね」
上の階へ行く為の方法が、分からない。エレベーターでもあるのだろうかと、探しても見たが、それらしき物もない。
「ミニカー乗れないのにゃ?」
「分かりませんわ。館内放送を聴く限り、上に行く為の手段はある筈なのですが……」
「我が天井を砕こうかや?」
「黒姫さん……生き埋めにする気ですか?」
「ちょっとした冗談なのぢゃ」
嘘ですわね。腕をぐるんぐるんと回して、壊す気満々でしたでしょうに。万が一生き埋めにでもなれば、私ともちは助かりませんわ。
「うにゃぁぁぁ、階段はどこにゃーよ」
もちは床をガリガリと引っ掻いて、削り取っていますわね。このままですと、床に穴を開けてしまいそうです。
「どうしたものでしょうね……」
この場所に、あまり長居は出来ない。
ミニカーと一緒に落ちて来たお陰で、干し肉や水などは有るものの、それも持って数日。建物を出て、地上への出口を探す事も考えれば、悠長に立ち止まっている場合じゃない。
「にゃっ、にゃっ……うにゃ?」
「どうしたのですか、もち?」
何もない天井を、見上げていますわ。魔物なんていう生物が居るのですから、幽霊的なモノでもいるのかしらね。
「あそこの天井だけ、何か変にゃーよ」
もちが指を差したのは、十字路の丁度中央に位置する真っ白い天井。私が見る限りだと、何もおかしな所はない。
「何が変なのですか?」
「なんとなーくなのにゃ」
「何もないのですけれど……天井ですか」
黒姫に視線を向けるが、肩をすくめている。
「黒姫さん、お願い致します」
「面倒ぢゃのぅ」
「マッサージ機で寛いでいた罰ですわ」
黒姫は渋々、背中の小さな翼を動かして、五メートル程上の天井へと張り付いた。黒い見た目の所為か、ゴ◯ブリに見えなくもない。
「黒姫飛んでるのにゃ! 凄いのにゃ!」
「二本の角が、触角に見えますわね」
「触角にゃ?」
「黒姫さん、何か見つけましたか?」
天井に張り付いたまま、前後左右と気持ち悪い動きを見せている黒姫なのだが、何か様子がおかしい。
「黒姫さん?」
「っ……離れぬ」
「どうかされましたか?」
「天井からっ、手足が離れぬのぢゃ!」
顔だけこちらに向けておりますが、突然の事に相当焦っておりますわね。竜も簡単にあしらう方なのに、ギャップが凄いですわぁ。
「面白そうな事をしてるのにゃ」
「面白くないかやあっ!」
「手足に吸盤でも、付いているのですか?」
「付いている訳ないのぢゃあっ!」
天井に何か、仕掛けでもあるのかしら。
「もちも張り付きたいのにゃ!」
もちが私を踏み台にして、高らかに飛び上がり、黒姫の垂れている尻尾に爪を引っ掛けて、そのまま天井へと張り付いた。
「……離れないのにゃ。メイちゃが逆さまなのにゃ。変な感じにゃーよ」
「何をしておるかやもち!」
「黒姫だけ狡いのにゃ!」
二人だけ天井に張り付き、私は放置ですか。
「黒姫さん、もち。天井に仕掛けはないのですか? 何でも良いので、探して下さいまし」
「バリバリするにゃ?」
「やらんでよいのぢゃ!」
これは、上の階へ上がる為の仕掛け? 天井に張り付いて、どうやって上の階へ行くのか。
「にゃっ、にゃっ、天井を歩けるのにゃ」
「これもちや、あまり動くでな────」
「うにゃ────」
突然の事で、呆気に取られてしまった。
天井の一部、もちと黒姫が張り付いていた天井が、突如ガコンッ──と音を鳴らして回転し、二人の姿が見えなくなってしまった。
「……えっ」
再度ガコンッ──と音が鳴り、「回転したのにゃ!」と天井にもちが現れて、また直ぐに回転して見えなくなる。
「……」
何と言って良いモノか、迷いますわぁ。
何故天井に張り付けるのかは、今は良いでしょう。そんな事よりも、どうして階段を作らずに、わざわざこんな仕掛けにしてますのよ。
「もちの様な身体能力も、黒姫さんの様な翼も、私にはありませんのにっ」
上を見上げると、もちが天井を回転させながら、「回るのにゃ!」と遊んでいる。
「足場に使えそうな物を、探して行くしかないですわね……あのショーケース、動くかしら」
銃器の入ったショーケースの下を見ると、キャスターが付いており、試しに力を込めて押してみると──ギギギっと錆びた音は出すものの、問題なく動いてくれた。
「ふっ! ふっ! それでもっ、重いですわ!」
それをなんとか、もちが回転している真下まで移動させ、その上に乗ってみる。
「……」
天井までの高さ、凡そ五メートル。ショーケースの高さ、一メートル三十センチ。私の身長が、百六十九センチメートル。
「届く訳ないですわよね!」
「凛宮司や……何しとるのぢゃ?」
回転した天井から黒姫さんが現れて、変な者を見るような目で、見詰めて来ますわね。
「私では、天井に行けませんのよ」
「……お主、身体能力低いんぢゃなぁ」
「貴女と比べないで下さい」
「ほれ、我の尻尾に掴まるのぢゃ」
黒姫はそう言うと、器用に尻尾だけを巨大化させて、それを私の所まで下ろしてくれた。
何でも有りですわね、この方。
「と言うか、その様な事をせずとも、私を担いで飛んで頂ければ、済んだのではなくて?」
「逆さまの状態ぢゃと、手足が天井から離れぬのぢゃ。壊して良いならイケるがのぅ」
「……壊さないで下さい」
黒姫の尻尾を掴んで、ゆっくりと上げてもらい、そっと天井に触れてみると、まるで天井にも重力があるかの様に、天井から手が離れなくなった。
「何でしょうね……逆さまの筈ですのに、頭に血が上る感じもしませんし──ぐっ!」
天井を触っていたら、突如ガコンッ──と勢い良くその天井が回転し、瞬間的に体全体に遠心力がかかり、そのまま二階へと到着。
「……人に優しくない仕掛けですわねっ」
隣を見ると、ガコンッ──「回るのにゃ!」と、もちがとても楽しそうに回転しており、遊具か何かと勘違いしているのかしら。
「もち、行きますわよ」
「五階を目指すのにゃ! ミニカー乗るにゃ!」
「どっこいしょ、中々面白い造りなのぢゃ」




