16話 ミリタリーフロア.3
もちの事を黒姫に任せて、慎重にショーケースの中身や、店の奥を見て回ると、明確に分かった事が一つだけある。
「銃撃戦の跡ですね」
確実にここで、戦いが起きていた。
「死体はない様ですが……」
ショーケースはガラス製ではないのか、所々凹んではいるが割れてはおらず、パッと見ただけでは、そんな模様なのかと勘違いしそうだ。
しかし、店の奥は違った。
バックヤードの壁一面には、これでもかと弾痕が刻まれ、赤黒い跡が模様のように広がっており、その床に転がっていたのは──誰の物かも分からない、一丁の小銃。
「こんな危険な物を放置だなんて、不用心ですわね。もちを店の外に出して、正解でしたわ」
小銃を拾い上げ、埃を払って確認してみると、意外にも平凡な小銃だった。引金横の突起物を押して弾倉を抜き、槓桿を手前に引いて、弾が入っていない事を確認。ゆっくりと引金を引いてみると、カチッ──と中の部品が動く感触がした。
「壊れてはいませんね……念の為、貰って行きましょうか。この口径の弾は、何ミリでしょう」
まさか異世界に来て、自身の経験が役に立つだなんて、びっくりですわね。誘拐未遂犯には、多少感謝しておくとしましょう。
「弾はどこに……これでしょうか」
バックヤードの机の引き出しの中に、弾らしき物を発見した。そう──弾らしき物。
「弾の先端に、石ですか。確かこれは、魔石ですわよね? どうして弾の先端に……試し撃ちするにも、ここだと危険ですわね」
弾倉に押し込んでみると、問題なく入り、取り敢えずと十二発分を入れて、装填する。
「弾倉のストックは、二つですか」
まだまだ弾はありますが、持ち運びも難しいですし、弾倉分だけですわね。
「……もちには絶対に、触らせない様にしませんと。安全装置は、大丈夫ですわね」
引金の左側にレバーがあり、一番上にするとロックがかかり、引金が引けない事を確認。これであれば、多少は安全でしょう。
『メイちゃっ! まだなのにゃーっ!』
もちの催促が来ましたわね。
「今行きますわーっ!」
もちは気付いていない様ですが、五階へ行ったとしても、実際にミニカーがあるかどうかなんて、分かりませんのに。
「さてっ……行きましょうか」
バックヤードから出て、念の為店内を確認してから通路に出ると、「遅いのにゃ!」ともちが頬を膨らませて、爪を出して威嚇して来た。
「お待たせしましたわ」
「早く五階に行くにゃ! ミニカー沢さっ……その棒は何なのにゃ? 変な形なのにゃ」
「ただの棍棒ですわ」
銃を知らない、典型的な勘違いですわね。
「凛宮司っ、お主それは……」
「黒姫さん、(護身の為ですわよ)」
「(頼むから、撃つでないぞ。危険なのぢゃ)」
矢張り黒姫は、銃を知っているのですね。先程ロケットランチャーの様な物を、神殺しの劣化版と言ってましたもの。
「あの透明な箱に入ってる物と、とても似てるのにゃ。もちにも触らせるのにゃ」
「駄目ですわよ」
「何でにゃ!」
「もちは力が強くて、魔法も使えるではありませんか。私は非力ですし、念の為棒でも持っておかなければ、怖いのですよ?」
もちの顔が──スンッと無表情になり、「メイちゃが嘘吐いてるのにゃ」と、とても冷たい目で私を見てくる。
「嘘ではないでしょう?」
「メイちゃが怖がるだなんて、想像出来ないのにゃーよ。ワザとらしいのにゃぁぁぁ」
「もちや、五階に行くのではないかや?」
「うにゃっ!? ミニカーにゃ!」
一瞬にして、興味がミニカーに行きましたわね。流石はにゃんこ、自由ですわぁ。
「上へ行く為の階段は、どこかしら」
「奥に行くにゃ! 階段を見付けるのにゃ!」
「それならもち、先頭は任せますわよ」
「慎重に行動するにゃーよ!」
また四つ足になりましたわね。可愛い鼻もピクピクとさせて、とても和みますわ。
「獣族の警戒の仕方は、大陸が違っても変わらぬのぅ。ミルンと似ておるのぢゃ」
「ミルンって誰にゃ?」
「前に話をしたであろう。流の養女で、犬人の小娘なのぢゃ。ミルンも本気になると、四つ足になるからのぅ」
「ふーん、もちの方が凄いのにゃ」
会った事もない子に、対抗心かしら。警戒をしていますというアピールが、強くなりましたわね。四つ足から、匍匐前進になっていますわ。
「にゃっ、にゃっ、階段どこにゃ」
お腹が床に付くだなんて、汚れますのに。
「……可愛いから良しですわね」
「お主は何を言っとるのぢゃ」
あら、黒姫が呆れ顔ですわね。
「可愛いは、正義です」
「凛宮司を見ておると……親バカの流を見ている様で、変な感じなのぢゃ。異世界から来る者らは、皆変人なのかや」
「失礼な言い方ですわ」
そうして、もちの警戒速度に合わせて、ゆっくりと通路を進み、気になるテナントを覗きつつ、階段を探して奥へ奥へと歩いて行った。




