16話 ミリタリーフロア.2
今回砂漠に来た目的は、三つある。
一つ目、ミニバイクに映し出された地図。その地図に示された赤いマーカーの位置に、何があるのかの調査。
「これ何にゃ? お鍋に見えるのにゃ」
「ふむぅ、変わった形の鍋ぢゃのぅ」
二つ目、ミニカーの自動音声に割り込んで来た、得体の知れない者の声の調査。
「包丁があるのにゃ……埃だらけにゃ」
「ふむぅ、随分と汚れておるのぢゃ」
三つ目、古代遺跡又は迷宮を発見した場合、そこにある物を可能な限り、持ち帰る事。持ち帰れば、換金してくれるらしい。
「変な形の物があるのにゃ!」
「なんぢゃそれは? 我にも分からぬかや」
「その形ですと、ミキサーではないかしら」
近付いて確認してみると、回転する刃が付いており、日本で見た物と酷似している。違うとすれば、電源プラグがなく、電池を入れる部分もない事だろう。
「どうやって動かすのかしら? それに、そもそもここにある物は、古代の時代の物でしょうに……保存状態が良過ぎますわ」
ミニカーやミニバイクは、私の修復スキルを使い復元出来ただけであり、元々は錆びれた円盤だけだった。しかしここにある物は、埃を被って汚いものの、形を保っている。
「オーバーテクノロジーですか……そういえば、黒姫さんはどの様にして、あのマッサージ機を動かしたのですか?」
「のぢゃ? 魔力を流しただけなのぢゃ。あの"ドール"と同じ時代の物ならば、動くかと思うてのぅ。そうしたらバッチリ……あっ」
「魔力ですか……ドールと同じ時代の物とは、どういう事でしょうか? 何かご存知で?」
そう尋ねてみると、黒姫の顔に焦りが見え、目が泳いでいる。ドールという人なのか物なのかは知りませんが、どうやらここにある物と、関係が深そうな感じですわね。
「しっ、知らぬのぢゃぁ。ほれ、ここは見尽くしたであろうから、違う所を見に行くのぢゃ」
「黒姫どこ行くにゃ! 勝手に動いたら駄目にゃーよ! 三人で慎重に行動するのにゃ!」
「ぬぐっ、分かっておるかや」
ここで黒姫を問い詰めるべきか、このまま探索を続けて、忘れた頃に聞いてみるべきか。この黒姫は、多少抜けている所があるので、後者にすべきですわね。
「でしたら次は、向かいのテナントに行きましょうか。違う物があるかもしれませんし」
「行くにゃ……てなんとって何にゃ?」
「貸し出す前提の建物の一画を、テナントと呼びますの。もちには難しいでしょうね」
「お城の食堂にゃ?」
あらっ、惜しいですわ。
「お城の食堂は、国が運営しているでしょう。そうではなく、露店商が国に賃料を支払い、食堂に自前の店を出す事です」
国が食堂の一画を、テナントとして貸し出す前提ですけれど、もちは頭が良いですわ。まさか食堂に、焦点を当てるだなんて。
「ぬぅぅぅ、頭がこんがらがるのにゃ」
「何をしておるのぢゃ? 行かぬのかや」
「行くにゃーよ! 黒姫待つのにゃ!」
もちと黒姫の後を歩き、通路を挟んで前の店に入ってみると──目を疑う物が並んでいた。
近代兵器のオンパレード。
手の平サイズの物から、固定して使う様な物まで、数多くの殺傷兵器がショーケースに収められており、正直に言って言葉が出ない。
「へんな形なのにゃ? これって何にゃ?」
「ほぅ、神殺しのレプリカかや? いや……劣化版であろうのぅ。流が見たら怒りそうぢゃ」
矢張り黒姫は、こちらが質問するよりも放置している方が、ポロポロと情報を吐きますわ。神殺しとか、不穏な発言でしてよ。
「どうして流という人が、怒るのですか?」
「むっ? 彼奴が言うには、『魔法なんて素敵チートがあるのに、兵器なんか要らんだろ』との事らしいのぢゃ」
「……浪漫主義なのかしら」
「彼奴……流は、気分屋で面倒臭がりぢゃが、彼奴なりのルールで動いておるからのぅ」
気分屋で面倒臭がりの時点で、駄目人間の様な気がするのですが、黒姫の表情を見る限りですと、相当信頼されておりますのね。
「メイちゃ、これ何なのにゃ?」
「っ……」
「何で黙るのにゃ? 黒姫は知ってるにゃ?」
「はて? 我には分からぬのぅ」
もちには言えない。と言うよりもこの銃火器の存在は、レッツァマーダの誰にも、知られてはいけない気がする。
「(流という人も、同じ考えやも知れませんわね。こんな物っ……世界が変わりますわよ)」
「何で黙るのにゃ?」
それに、ここにある物騒な物は、子供に教える物ではない。どうにかしてこの場から、意識を逸らしませんと。
『いらっしゃいませ、いらっしゃいませ。当店ミリタリーフロアでは、各種兵装、オプションパーツの販売から、個性溢れるオリジナルカスタムまで、幅広く取り扱っております』
「っ、びっくりしましたわ……館内放送ですか」
『大型の魔物に遭遇した事は、御座いませんか。そんな時は、超小型グラビティバレットがオススメです』
「さっきと同じ内容ぢゃのぅ」
『射程距離は短いですが、この一発だけで、半径一キロメートルの物体を消し飛ばす威力。大型の魔物を楽々駆逐出来ます』
まさか、この店で売っているのかしら。そんな物騒な物、触りたくもないですわ。
『この機会に是非とも、お買い求め下さい。また、キッズコーナーでは、DMー192フロートカーの展示会を行っております。旧型の試乗会も行っておりますので、参加をご希望の方は、五階フロートカー展示会場までお越し下さい』
「フロートカーって、何にゃ?」
フロートカーですか……もちの大好きなミニカーは確か、DMー193だとか言ってましたわね。これなら、もちを誘導出来そうですわ。
「ミニカーの展示場が、五階にあるようですわ」
「展示場って何にゃ?」
「沢山のミニカーが置かれている、触り放題乗り放題の、楽しい場所ですわ」
「ミニカーがっ……沢山にゃ!?」
もちの目がかつてない程に、輝きを放っていますわね。興奮で鼻息も荒く、尻尾も忙しなく動かして、物凄く可愛らしいです。
「行きたいですか?」
「五階っ! 五階に行きたいのにゃ!」
「でしたら……黒姫さん」
「何ぢゃ?」
「もちと二人で、店の外で待っていて下さいまし。私は少しだけ、ここを調べますわ」
黒姫の目をジッと見て、"もちをこの店から出して"と暗に伝えると、「もち、こっちに来るのぢゃ」と、私の意図を理解してくれた。
「ミニカーにゃ! ミニカーにゃ!」
早く調べませんと、もちが焦れそうです。




