15話 砂漠地帯の何かを探して.4
『いらっしゃいませ、いらっしゃいませ。当店ミリタリーフロアでは、各種兵装、オプションパーツの販売から、個性溢れるオリジナルカスタムまで、幅広く取り扱っております』
落下の感覚が収まり、ハンドルにぶつけた額を押さえながら、ゆっくりと周囲を観察する。
『大型の魔物に遭遇した事は、御座いませんか。そんな時は、超小型グラビティバレットがオススメです』
砂に呑み込まれた筈なのに、砂粒一つ落ちてはおらず、壁が薄っすらと光を灯し、この不気味な空間を照らしている。
『射程距離は短いですが、この一発だけで、半径一キロメートルの物体を消し飛ばす威力。大型の魔物を楽々駆逐出来ます』
レッツァマーダの地下空間と似てはいるが、そもそもあの場所は、シアードが岩をくり抜いて創った地下都市だ。
『この機会に是非とも、お買い求め下さい。また、キッズコーナーでは、DMー192フロートカーの展示会を行っております。旧型の試乗会も行っておりますので、参加をご希望の方は、五階フロートカー展示会場までお越し下さい』
しかし、今目の前に在るコレは──どう見ても岩ではなく、まるでコンクリートで造られたかの様な、凹凸のない建物。それも、五階建てのデパートに見える。
「所々、崩れかけてはいますが……どうして砂漠の下に、デパートがありますのよ」
ミニカーから降りると、「メイちゃ発見にゃーよおおおおおおっ!」と凄い勢いで、もちが"デパート側"から走って来る。
「絶対に、探検してましたわね」
しかし、もちを追って砂に呑み込まれた、黒姫の姿が見当たらない。
「メイちゃも来たのにゃ! 中っ! 中が凄い広いのにゃ! 面白い物ばかりなのにゃ!」
「もち、落ち着きなさい」
「メイちゃも行くのにゃあっ!」
もっ、もちの圧が凄いです。
「待ちなさい。先ずは黒姫さんを探しませんと、ゆっくり探索も出来ませんわ」
「黒姫なら中にいるのにゃ! まっさーじき? っていう物に座ってから、動かないのにゃ!」
「……はっ?」
まっさーじきって、アレしか思い浮かびませんけれど……コリをほぐしてリフレッシュする、とても素晴らしい医療機器。となると、矢張りこの施設は、総合デパートなのかしら。
「先程は物騒なアナウンスが、ここまで聞こえて来ましたけれど、何なのでしょうね……」
「早く! 早くメイちゃも入るにゃ!」
もちの行動がおかしい。無事だった事には安心しましたし、好奇心旺盛な性格ですので、普段ならば気にしませんが、この状況下でこうも私を急かすだなんて、おかしいですわね。
「もち……まさかとは思いますが、気になる物を私の修復スキルで修理して、遊ぼうだなんて──思っていませんわよね?」
「……おっ、思ってないにゃっ」
「私の目を見ても、同じ言葉が言えるかしら?」
ふぃ──と目が泳いでいますわね。地上への脱出方法も分かりませんのに、緊張感というものが足りなさ過ぎですわ。
「めっ、メイちゃの目が怖いのにゃぁぁぁっ」
「怖くもなりましてよ。こんな得体の知れない場所に、あんな建物があるのですから、もっと慎重に行動なさい」
「ふにぃぃぃっ、怒らないでにゃぁ」
これで良しですわ。子供が元気なのは良い事ですが、先程も砂に呑まれましたし、危機感は持って頂かないと。
「黒姫さんにも、お灸を据えませんと。探索はその後で、慎重に行うと致しましょう」
「メイちゃ、その目止めてにゃっ」
「もちが言い付けを守れるのなら、止めても良いですけれど、どうしましょうか?」
落ち込んでいるもちを抱いて、ニコォっと笑みを向けると、腕の中で震え始めた。
「ままっ、守れるのにゃぁ」
「……本当かしら?」
「本当にゃーよ! もちは嘘付かないのにゃ!」
これで言質を取れましたわね。
「それなら、勝手に動き回らない。物に触る時は、私か黒姫さんに相談する。この二点を、しっかりと守れますか?」
「まっ、守るのにゃ!」
「宜しい。それでは、黒姫さんの居る場所まで、案内をお願いしますわ」
そう言ってもちを下ろすと、「こっちにゃーよ」と走りそうになったが、ビクッと体を震わせて、ゆっくりと歩き始めた。
そんなに私の目が、怖かったのかしら。
「にゃっ……にゃっ……安全確認良しにゃっ」
もちが四つ足になっていますわ。あの姿勢は初めて見ますけれど、こうして見ると本当に、にゃんこにしか見えませんわね。
「落し穴もないにゃ……魔物も居ないのにゃ」
「緊張感を出すのも良いですが、張り詰め過ぎると疲れますわよ。普通に歩きなさいな」
「うにぃぃぃ、難しいのにゃぁ」
緩急を付けてだなんて、子供には無理ですわよね。可愛らしく頭を捻ってますわ。
「難しく考えなくても、もちが走って来た道でしたら、危険は少ないと思いますわよ?」
「うにゃ! だったら足跡を辿るのにゃ!」
もちの後ろに続いて歩き、建物の出入口らしき所へと近付いて行く。電灯でも付いているのか、ここよりも遥かに明るい。
「さて、何があるのかしらね」
「こっちなのにゃ」
そうして私は、建物内に足を踏み入れた。




