15話 砂漠地帯の何かを探して.3
ゆっくりと瞼を開けて、目を動かす。
暗がりの中、手探りで懐中時計を探して、時間を確認すると──朝五時、起きる時間だ。
「この時間ですと、寒さがマシですわね」
隣を見ると、「ふこぉぉぉ、ふみゃぅ、ゴロゴロ」と、もちが寝袋で丸まりながら、とても可愛らしい姿で寝ている。
「……」
丸まっているもちのお腹に、そっと顔を近付けての、朝の猫吸いを堪能。それに満足したら、テントから出て軽く柔軟体操。
「ふぅ……」
「もう起きたのかや?」
「あらっ? 随分とお早いお目覚めですわ……ね? 何をされていらっしゃるのかしら」
どうやったのか、黒姫がミニカーの真横で逆様になっているのですが、その状態で何事もなく話しかけて来るとか、意味不明ですわ。
「これかや? ミニカーから出ようとしたのぢゃが、引っかかって転けたのぢゃ。角が地面に刺さっておるから、上手く抜け出せぬのぢゃ」
「……それで?」
「そこで見ておらぬで、我を助けるのぢゃ」
大人の姿になれるのですから、ご自身で抜け出せるでしょうに……まさかこの状態で、夜を過ごしていたのかしら。
「なにをしておるかや、早よ助けんか」
「分かりましたわよ」
「もちが抜くのにゃーぅっ!」
突如シュバっともちが横を通り過ぎ、黒姫の足首を掴んだと思ったら「ふしゃあああっ!」と力を込めて黒姫を引っこ抜き、そのままビタンッ──っと地面に叩き付けた。
「見事な投げ技ですわ」
「朝の運動にゃーよ。おはようなのにゃ」
「ええ、おはようもち」
朝の猫吸いで、起こしてしまったのかしら。
「起きたのでしたら、朝食ですわね。太陽が出て来る前に、済ませてしまいましょう」
「うにゃ! 朝も干し肉にゃ!」
「仕方ないですわ。出来ればお野菜が欲しいですけれど、無い物ねだりですもの」
ミニカーの後部から、干し肉と水樽を取り出し、もちの分を渡そうとして──ふと、黒姫の反応がない。というか、姿が見えない。
「あらっ? さっきまで砂の上で、踠いていた筈ですが……どこに行ったのかしら」
「黒姫居ないのにゃ? 隠れたのにゃ?」
「隠れる場所なんて……」
ここは砂漠のど真ん中であり、隠れる場所なんてどこにもない。にも関わらず、周囲を見回してみても、黒姫の姿はどこにもない。
そして干し肉は、安定の不味さ。
ツイバミの肉の臭みだけは、どうにも慣れませんわね。食べられるだけでも、有り難いとは思いますけれど。
「黒姫どこにゃーっ! 出て来るのにゃーっ! でないともちが、引っ掻くにゃーよ!」
「脅しですわね……何で脅し?」
「あの鱗で爪研ぎしたいのにゃ」
「それだと出て来ない気が……」
ミニカーの周囲を確認しても、ミニバイクの周囲を確認しても、念の為空を眺めて見ても、どこにも居ない。
「どこに行ったのかしら」
ミニカーのボンネットに腰掛け、徐々に暑くなる気温に顔を顰めて、下を見たその時、ボコッと地面が凹み──「のぢゃあっ!?」と、涙目になった黒姫が飛び出して来た。
「ぺっ、ぺっ、口の中がじゃりじゃりするのぢゃ! 水を飲ませるのぢゃ!」
「黒姫居たのにゃ! 引っ掻くにゃーよ!」
「ちょっ、我の尾で爪を研ぐでないわ!」
砂塗れの私は、無視でしょうか。
「黒姫さん」
「いたたたたっ! 止めいと言うとるぢゃろ!」
「ガリガリにゃ! ガリガリするにゃ!」
黒姫の尻尾の鱗が、若干剥がれていますわ。もちは牙だけでなく、爪も特殊なのかしら。っと、今はそんな場合では御座いませんわ。
「ほらもち、止めなさい」
「うにゃっ!?」
もちを背後からそっと抱き上げて、猫吸いをしようとすると──「吸わないでにゃ!」と両手の爪を引っ込めて、私の顔を押して来る。
「ふひぃ……助かったのぢゃぁ」
「黒姫さん。突然居なくなったので、どうしたのかと思いましたよ。なぜ砂の下に?」
「我も驚いたのぢゃ。そこのもちに、地面に叩き付けられたと思うたら、あっという間に砂に呑み込まれたのぢゃ」
「砂に呑み込まれた?」
地面を踏み付けて確認しても、多少埋まる程度で、呑み込まれる程のものではない。地下に空洞でもあれば、そもそも黒姫だけでなく、私やもちも呑まれてしまう筈。
「ほれ、そこの穴を見てみるのぢゃ」
「穴? あぁ、黒姫さんが飛び出して来た──穴が、消えている? どういう事ですの」
「不思議なのにゃ。穴を掘ってみるにゃーよ」
抱いているもちを下ろして、ジッと地面を観察するが、何の変哲もない砂の大地だ。もちも穴を掘ってはいるが、周りから砂が集まって、上手く掘る事が出来ないでいる。
「掘れないのにゃ! ムカムカするにゃ!」
「黒姫さん、どういう事ですの?」
「ふむ。なんとなくなのぢゃが、この砂自体が、魔力に反応しておるような……そんな気がするのぢゃ」
「魔力に反応?」
魔力ってアレですわよね。私のステータスに『そんなものはない』と記載のあったモノ。となると、この砂は私には反応しない?
「掘れないのにゃ! バリバリするのにゃあああああああう──にゃぶっ!?」
「もちっ!?」
「不味いっ、もちの魔法に反応しおったかや!」
もちが体に静電気を発したその瞬間──砂の中へと埋まってしまい、それを追う様にして黒姫が砂へと飛び込み、私一人だけが、地上に取り残されてしまった。
「……呆けている場合では御座いませんわ!」
もちが埋まった場所を掘り起こすも、ただの砂があるだけで、穴の一つも見当たらない。
「他に何か手は……っ」
急ぎミニカーの運転席に座り、息を整えてから、自動音声に問いかけてみる。
「ミニカー、聞こえていまして」
『了。どのような御用件でしょうか』
「貴方の示した位置に、到着しましたわ。そしたら私の連れが、砂に埋まってしまいました。何かご存知かしら」
これで反応がなければ、打つ手がない。
『了……目的地確認。もっ…ももも……目的…ち…かか……ようこそ! ミリタリーフロアへ!』
「んなっ!?」
突如──砂の大地が大波の如く捲れ上がり、ミニカーやミニバイク、私を含めた辺り一面を呑み込み、強烈な揺れと落下する感覚を味わいながら、下へ下へと砂で流されて行った。




