15話 砂漠地帯の何かを探して.2
寒い。とにかく寒い。この世界に来た時も味わいましたけれど、場所が違うからか、それともハッキリと意識しているからか、体の芯から凍てつく様な寒さです。
「にゃっ、にゃっ、ぬくぬくにゃぁ」
暖房まで完備しているとか、あのミニカーの快適性だけは、とても羨ましいですわね。
「地図によると、この周辺なのですが……」
見事なまでの砂漠地帯。見渡す限り、砂の大地が広がっており、草木の一本も生えてはおらず、見慣れてしまった光景。
「うぅっ、冷えますわっ」
急いでミニカーの後部から、黒姫がどこからか持って来た物を取り出し、組み立てていく。
「面倒な作りですわ」
先ずは、突起の様な物が付いた短い鉄の棒を、三本繋げて一本の長い棒にする。それと同じ物を四本作ったら、突起どうしを噛み合わせて、準備完了。
「黒姫さん。お願いしても、宜しいかしら」
「任せるのぢゃぁ」
噛み合わせた部分を、黒姫さんに持ち上げてもらい、三角の形になったなら、下側を一本の鉄の棒で繋ぎ合わせ、倒れない様にする。
「ふぅ……残るは、布ですわね」
ミニバイクの後ろに括り付けた鞄から、特別に作って貰った巨大な布を取り出し、骨組みの上に被して括り付ければ、仮設テントの完成。
「ふむふむ、良い感じぢゃのぅ。中にも布を敷けば、問題なかろうて」
「これがテントにゃ? 引っ掻いて良いにゃ?」
「もち、その爪を引っ込めなさい」
ミニカーから降りて来たもちが、物珍しそうにテントを観察していますけど、鋭い爪を隠せておりませんわ。
「駄目にゃ?」
「ミニカーに命令して、帰らせますわよ?」
「うにぃぃぃっ、分かったにゃ」
納得してくれたのも束の間、もちはミニカーから何かを取り出して、足早に戻って来た。
「もち……貴女はミニカーの中で、寝る予定だった筈ですが。なんなのですかそれは?」
「もちの寝袋にゃーよ。メイちゃと寝るのにゃ」
もちが小さいとはいえ、このサイズのテントだと、寝るとすれば二人が限界。私、黒姫、もちの三人が入れば、寝返りも出来ません。
「それでしたら、黒姫さんにはミニカーで寝て貰う必要がありますが、良いのですか?」
「ミニカーはもちのにゃ」
「それならもちは、ミニカーで寝なさい」
「嫌にゃーよ。メイちゃと寝るのにゃ」
我儘にゃんこですわね。とても可愛いですけれど、アレも嫌コレも駄目と覚えてしまったら、教育上宜しくないですわ。
「帰ったらナイーニャさんに、もちが我儘を言って困らせたと報告をして……ミニカーを没収して貰いますわ」
「ふにゃっ!?」
「もしそんな事になれば、ミニカーはバラバラに分解されて、研究されるでしょうね」
「バラバラにゃっ!?」
文明レベルを考えたら、分解イコール破壊になるでしょうから、ミニカーは失われてしまうでしょう。私の修復スキルなら直せるでしょうが、もちを教育する為なら、鬼になりますわ。
「そうなったら、二度と修復はしませんわ」
「くっ、黒姫はミニカーで寝るのにゃ!」
「のぢゃ? 使うて良いのかのぅ?」
「寝る時だけ貸すのにゃ!」
ふふっ、にゃんこに勝ちましたわ。
「それじゃあ、夕食を頂いて、今日は早めに寝ますわよ。明日は早めに起きて、この砂の大地の調査ですわ」
「夕食にゃ!」
と言っても、干し肉を齧るだけの夕食。とてもシンプルなのですが、この寒空の下ですと、温かいものが食べたいです。
「ふむぅ、持って来ておいて正解ぢゃったか。ほれっ、流からの贈り物なのぢゃ」
「突然なんですの──っ、なっ!?」
「これは何なのにゃ?」
黒姫はずっと、大きめの鞄を背負っていた。黒姫の荷物だろうと思い、中身に関しては聞いておらず、聞く必要もないと思っていた。
「小鍋とカセットコンロだなんて……っ、こんな物を一体どこで、手に入れたのかしら?」
「流の領地で作っておるのぢゃ。というか、レッツァマーダの各家庭にも、大型の物はあったぢゃろうて」
「小型の物は初見ですわよ」
魔物の体内にある、魔石という色付きの石。その魔石で火を起こし、食堂の厨房で調理を行っている事は、勿論知っている。
「流という方は、一体何者なんですの? この様な便利な物まで、作るだなんて……」
「何を言っとるかや? そのコンロのいう物を作ったのは、流ではないのぢゃ。流がやっておるのは、ただの増産ぢゃのぅ」
「そうでしたのね……大陸が違うだけで、こうも技術に差があるだなんて。どなたが作られたのか、ご存知かしら?」
「知らぬのぢゃ」
となると、流という方が住まわれている大陸では、製造業が盛んなのかしら。行けるものなら、行ってみたいですわね。
「ほれ、凛宮司。ボーッとしておらんと、この肉を焼くのぢゃ。流の奴めが絶賛しておる、ミノタウロスのステーキぢゃぞ」
「……ミノっ、えっ?」
「赤いお肉にゃ? 紫じゃないにゃ?」
黒姫が続け様に出して来たのは、どこからどう見ても、ステーキにしか見えない生肉。より正確には、牛肉にしか見えない物。
「黒姫さん」
「どうしたのぢゃ?」
見事なサシが入った、美味しそうな肉ではありますが、ただ一つ、この状況だからこそ、とても不安になる事がある。
「腐っては……いませんわよね?」
「大丈夫ぢゃろ」
「すんすんっ……臭うにゃーよ?」
炎天下の中、美味しそうな生肉を、丸一日鞄に入れていたならば、腐るに決まってますわ。
「その肉は、食べられないですわね」
「干し肉食べるのにゃゔゔゔっ」
「……我、せっかく持って来たのにのぅ」
黒姫が項垂れてしまいましたわね──って、生肉をそのまま食べていますわっ! いやっ、この方は人ではなく、魔龍という意味不明な存在ですから、大丈夫なのでしょう。
「むぐむぐ……ぶふぇっ!? くさっ、腐っておるのぢゃ! 食えたもんではないかやっ!」
前言撤回、大丈夫ではなかった様です。




