15話 砂漠地帯の何かを探して.1
砂漠とは──昼は灼熱の太陽の光で、砂の大地が熱され、汗すらも蒸発し、夜は零度を下回る極寒の為、準備がなければ凍死する。そんな場所であると、私は実感しております。
「にゃっ、にゃっ、にゃーぅ」
五月三日の、丁度昼過ぎ。
「砂だらけというのに、楽しそうぢゃのぅ」
早朝にレッツァマーダを出発して、もちはミニカー、私は黒姫を後ろに乗せて、ミニバイクを走らせているのですが、暑いですわぁ。
「ミニカーは快適にゃ、褒めてあげるのにゃ」
『車内温度を、二十五度に設定済み』
「流石ミニカーにゃっ」
もちのミニカーは、冷房を完備しているようで、とても羨ましく思います。
「ふむぅ、昔はこんなんぢゃったかや?」
この黒姫も、暑さと熱さが合わさった砂漠ですのに、平然としていますわ。龍と仰られておりましたけど、熱に強いのかしら。
「ぼんどぅに……っ、あづいでずわぁ」
「背中がびちゃびちゃなのぢゃ。凛宮司とやら、汗を掻きすぎではないかや?」
「ねっぶうで、あづいんですのよぉ」
ミニバイクを運転しているのは、私。ですので、真正面から熱風を浴びて、体中から汗という汗が吹き出して、もう大変ですのよ。
一度バイクを停めて──水分補給。
「んぐっ、んぐっ、ぶはぁっ! ヌルい水ですけれどっ、生き返りますわぁ」
「メイちゃ、大丈夫にゃ? もちのミニカーの中で、少しだけ冷んやりするのにゃ」
「助かりますけれど、大丈夫ですわ。もちは、ミニカーから出ては駄目ですよ」
遮ぎる物のない砂の大地。この炎天下の中、もちに倒れられでもしたら、大変ですもの。
「それにしても……」
周囲を確認するが、魔物が寄って来ない。
レッツァマーダを出発して、砂漠に入ってからというもの、巨大蠍や巨大ミミズといった、恐ろしい魔物に遭遇しないのだ。
「どうしたのぢゃ?」
「いえ……どうして魔物が、襲って来ないのかと思いまして。私達は、良い獲物でしょうに」
ミニカーやミニバイクがあるので、襲って来ても逃げれますし、竜を一撃で屠る黒姫さんも居ますので、安全なのですけれど。
「我がここに居るからなのぢゃ」
「黒姫さんが、何かしてますの?」
「やっておらぬぞ? 魔物なぞ、我からしたらただの肉ぢゃし、そこそこの知能を持つ魔物ならば、近付いて来ぬのぢゃ」
生きた魔物避けとは、有り難いですわね。
「ふぅ……」
ミニバイクに映し出された地図によると、目的の赤いマーカーの位置まで、半日もバイクを走らせれば着くだろう。
「着いたとしても、そこからが問題ですわね」
「場所的には砂しかないって、エルちゃは言ってたのにゃ。本当かにゃ?」
「行ってみませんと、分かりませんわよ」
それに、ミニカーの自動音声から聞こえて来た、あの声──『どうぞ、皆様のご来店を心より、お待ち申し上げております。特に──そこの"黒髪"の方。ピピッ……目的地を確認』などと、まるで私を観察していたかの様な、得体の知れない者の声。
「……何者なのでしょう」
自動音声曰く、ミリタリーフロアといった、巫山戯た名前の施設らしいですけれど、どうして砂漠地帯にあるのか。
「くわぁぁぁふっ。メイちゃ、行かにないのにゃ? もちは眠たくなってきたにゃ」
「そうですわね、そろそろ行きましょうか」
ミニバイクに跨り、黒姫が後ろに座った事を確認すると、ゆっくりとアルセルを回す。
「……」
「また背中の汗が凄いのぢゃ」
「この暑さですと、焼け石に水でしたわね」
魔物が寄って来ないのは良いですが、砂埃塗れの汗塗れ。貴重な水は温存したいですし、我慢するしかないですけれど、辛いですわぁ。
「砂にゃ、砂にゃ、つまらないのにゃーぅ」
「我慢なさいな。それとも、今からもちだけ帰って、私達が戻るのを待ちますか?」
「嫌にゃーよ。もちも行くのにゃ!」
よくもまあ円堂とナイーニャは、許可を出したものですわ。危ないとは思わないのかしら。
「べたべたするのぢゃぁ。お主はあれかや、汗っかきなのかや? 背中が塩味なのぢゃ」
「お願いですから、舐めないで下さいまし」
「舐めとらぬのぢゃ、吸っとるだけなのぢゃ」
この黒姫という魔龍は、一体何なのでしょうか。竜を簡単に殺せる力を持っていますのに、行動が幼いですわ。
「黒姫貴女、シアードさんの昔馴染みですのよね? となると、相当なお歳でしょうに……歳相応の落ち着きは、ないのかしら」
「本来の我の姿なら、一度見たであろう? あの姿でおると、ミルンが嫌がるのぢゃ」
「本来の……大人の姿ですわよね? それと落ち着きと、何か関係は御座いまして?」
「幼い姿の時は、幼い行動をするのぢゃよ」
意味が分かりませんわね。
見た目が幼いから、見た目相応の行動をするだなんて、恥ずかしくないのかしら。
「うにゃ? 黒姫は大っきくなれるのにゃ?」
「なれるぞぇ。見てみたいかや?」
「うーんと、あまり興味ないにゃ」
「ならば何故聞いて来たのぢゃ!?」
もちと黒姫の可笑しな話を聞きながら、延々と砂漠を走り続け、目的場所まで着いたのは、それから十時間後の事だった。




