14話 オーバリアヌの異変.5
エルララルラをダブレス大臣に預け、城下町をぶらぶら散策している風を装いならが、お師様への連絡を行う。
「ふんふんふーん、う◯ち発見!」
その筈だったのに、何でこの地の精霊は、僕にくっ付いているのだろうか。邪魔だから、どこかに行って欲しいなぁ。
「あのぉ、ミユンさん。僕は一人で、この首都を散策したいんだけど……」
「まあまあ、気にしないで良いの」
「気にしますって」
そして何故っ、素手で汚物を掴み取り、袋詰めしているのだろうか。絶対に汚い筈なのに、なんの躊躇もなく掴んでんの。
「その汚物……どうする気なんですか?」
「汚物じゃなくて、立派な肥料だよ?」
「人糞が肥料とか……」
「魔物のう◯ちだろうと、人のう◯ちだろうと、ミユンからしたら同じなの。みんなお尻から出て来る、立派な肥料っ」
汚物を掴んで、踏ん反り返ってるよ。
とてもシュールな光景です。
周りを良く見たら、トングの様な物を持ち、汚物拾いをしている人達も居るし、美化にも力を入れ始めたのだろうか。
「食べ物に困らないから、余裕が生まれた?」
「のんのん。う◯ち拾いは、パパがこの国の人達にお願いした、立派なお仕事なの」
「汚物拾いが……仕事?」
「そうなの。パパ曰く、『石の都風で綺麗な建物なのに、何で掃除しないんだよ』って、プチ怒になりながら、人を集めてたの」
せいそういんって──清掃員かな? 流って異世界人……現代の知識を余す所なく、実用的に使ってるなぁ。
「そのパパって人は今、南のアッジスノードに居るんだっけ? ミユンさんは行かないのか」
「ミユンは別働隊! このウサ鞄を持ってるから、二手に別れて食料支援をしてるの」
「二手にねぇ……っとそうだ、それ、その鞄。湯呑みとか入れてたけど、何なのそれ?」
湯呑みとか何個も出してたけど、どう見ても入りそうにないサイズだし、物凄く気になっていた。その兎の模様も、とても可愛いしね。
「これ? ミユンの鞄なの」
「それは分かってますって。そうじゃなくて、湯呑みを何個も出してたじゃないですか。その大きさだと、入らないですよね?」
「入るよ? "マジックバック"だもん」
「マジックバック? ……はっ?」
この異世界に来て二年。何処に行くにも水、食料、布等々、巨大リュックを背負いながらの移動が当たり前なのに、ここに来て突然の、チートアイテム発見。
「それって、物が沢山入るやつだよね!」
「そうだけど……あげないよ?」
「なっ、ぐっ、どこで見付けたの!」
「ミユンの住んでる大陸の、北の迷宮なの。貴女が行っても、力不足で死んじゃうよ?」
地の精霊なんていう化物からの、突然の死の宣告。僕の力を見透かされている様で、とても気持ちが悪い。
「そっ、そんなに危ない迷宮なのかな?」
「ミユン一人だと、踏破は難しいの」
「精霊でも無理とか……」
わざわざ他大陸に死にに行かなくても、もしかしたら、このヴォイド大陸の迷宮にもあるかも知れないし、探してみようかなぁ。
「あっ、ドールが来たの」
「ドール?」
大通りの先から、変な人が歩いて来る。
黒子の様な頭巾を被り、顔が見えない。
足首まで隠れた、本物のメイド服。
そしてなにより、この精霊のミユンと同じく、一切の気配を発さずに歩くその異常さに、背筋がゾクっとした。
「あの人も……ミユンさんの仲間?」
「そうなの」
「(流って人の仲間って、化物だらけだぁっ)」
お師様の昔馴染みである、魔龍の黒姫。地の精霊ミユンに、歩いて来る不気味メイド。ワンブルも居るんだっけ? なーんかワンブルだけ、浮いた存在だなぁ。
「えっ、エルララルラを抑えた時に居たっていう、ワンブルは居ないのかな?」
「わんぶる? ミルンお姉ちゃんの事?」
「そういえば、何で精霊のミユンさんが、ワンブルをお姉ちゃん呼びなのさ。そのミルンって人も、もしかして精霊なのかな?」
「違うの。ミルンお姉ちゃんは、犬人族だよ? パパの娘だから、ミユンのお姉ちゃんなの」
余計に分からなくなりました。ミユンのパパは、流っていう異世界人で、その娘がワンブルのミルンって人……頭が混乱するんですけど。
「ミユン御嬢様、お待たせ致しました」
「待ってたのドール。燃料は大丈夫?」
「肯定。充填率九十二パーセントにて、問題御座いません。そちらの方はどなたでしょうか」
黒子頭巾のメイドさんから、視線を感じる。顔が見えない筈なのに、見られている感が凄いんですけど、冷汗が出て来るよぉ。
「はっ、初めまして。レッツァマーダ魔導国から来た、古奈月と言います」
「了。ドールと申します。計測……脅威度判定A。敵対の意思なしと判断致します」
「……えっ?」
この人何言ってんの? 計測? 脅威度判定って何? 精霊とはまた違う意味で怖いんですけど、どう反応すれば良いのさ。
「駄目なのドール。勝手にそんな事をしたら、パパに言い付けるよ? 一日ご飯抜きなの」
「不服。"当機"が動かなければ、移動手段が制限されますが、宜しいのでしょうか」
「黒姫が居るの。お空でビュンが出来るから、ドールの居る意味がなくなるよ?」
このドールっていう人の声、何処かで聞いた事があるような……どこだったかなぁ。どことなく機械音声に聞こえるし、気持ち悪い。
「了。古奈月様」
「うぇっ!? はっ、はい……なんですか?」
「本人の了承もなく計測しました事、心より謝罪させて頂きます。申し訳御座いません」
「はぁ……?」
理由も分からないままに、謝られたんですけど? 僕はどう答えれば良いのかな? 誰か教えて下さーいと言うか、助けて下さい。
「謝罪完了」
「それで良いの。それじゃあ一度、アッジスノードまで戻るとするの。貴女も来る?」
「えっ? ぼっ、僕は行かないですよ。国に戻って色々としなきゃだし……」
この異常な存在を纏めている、流っていう人が今居る国に、わざわざ行く訳がない。それこそ、死にに行くようなモノだろう。
「残念なの。まあ、ここの支援が進んだら、そっちの国にも遊びに行くから、その時は宜しくお願いします」
「……分かりました」
それはアレかな? 攻めに来るのかな?
「それじゃあ、ミユンは行くの。ばいばい!」
「失礼致します」
「あっ、はい、さようならぁ」
ミユンという精霊が、ようやく側から居なくなり、やっとの事で緊張から解放され、ゆっくりと地面に座り込んだ。
「これ……お師様になんて報告すればっ」
お師様。お師様の昔馴染みである、魔龍の仲間ってね、皆んなが皆んな、化物なんです。もうね、疲れちゃいました。
「さっさとエルララルラの件を片付けて、もう今日は寝よ……報告は、明日で良いや」
次回は凛宮司、もち、黒姫回です!




