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異世界とは愛すべき者達の居る世界  作者: かみのみさき
七章 異世界とは魔人達の居る世界

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14話 オーバリアヌの異変.4


 目を覚ましたエルララルラは、ダブレス大臣を見て、僕を見て、そしてミユンを見て──突如その動きを止めた。


「えっ、エルララルラお嬢様?」


「……」


「……」


 ダブレス大臣を無視しながら、エルララルラとミユン、暴力の化身と地の精霊が、お互いをジッと見詰め合っている。


「成程。初めて目を見て、ハッキリしたの」


 何がどうハッキリしたのか。


「うわぁ、怖いモノが居ますよぉーっ」


 怖いお前がそれを言うのか。


「何なのこの状況……」


 お互いが化物どうしだから、何か通じ合うモノでもあったのだろうか。正直に言うと、直ぐにでもこの場から離れたい。


「"パパの称号"が、リシュエルの称号の邪魔をしてるの。良かったね、自由になれて」


「パパって誰ですかぁーっ? あの変な場所でお会いした、男の人ですかぁーっ?」


 パパの──称号?


「えっと、ミユン……さん? 突然何? パパの称号が、リシュエルの称号の邪魔って……」


「ミユンで良いよ? 言葉の通り、この女の人には、パパの称号……加護が付いてるの」


「んんんっ? パパって、流って人ですよね? 人が称号を与える? んんんっ?」


 ただでさえ脳内キャパをオーバーしてるのに、更に疑問に難問にと、続け様に押し寄せて来るのは、勘弁なんですけーど。


「パパは人だけど、魔神なの。この女の人は、ミユンと似た様な存在だから、上位の存在であるパパの影響を、受けたんだと思うの」


「はぁ……はっ? このエルララルラが、地の精霊のミユンさんと、似た様な存在?」


「ミユンで良いのに」


 エルララルラは両親共に、人間だ。この国の人の大半は知らないけど、円堂さんの子供の一人を祖に持つ国が、この大国ノブストンだ。


「人外の血なんて、混ざり様がないのに」


「混ざる時は混ざるの。ミルンお姉ちゃんだって、人種と犬人との間に産まれたんだよ?」


「っ……もち様もそうでしたね」


 ミユンの言葉で納得した。ようは、長きに渡る血筋の中のどこかに、人外を祖に持つ者が居て、その血を色濃く受け継いだのが、ここに居るエルララルラという事ですか。

 

「うぅぅぅんっ、うん! 頭が痛い!」


「そんな時には、このお薬なの」


「ですから要りませんって」


 さっきからこのミユンという精霊、兎柄の肩掛け鞄に手を突っ込んで、薬と称した物を出して来るんだけど、どういう事? 何で鞄の中から、中身入りの湯呑みが出て来るの? 僕の目の錯覚かなぁ。


「……目薬が欲しい」


「目薬もあるよ? はいどうぞ」


「いやそれ湯呑みっ!」


「中身は違うの。紫色の液体が目薬で、泥のような見た目をした液体が、下剤なの」


 目薬が紫色って……それに、最初に渡そうとして来た物が、どうして下剤なんだろう。アレか、僕の腹を壊す気だろうか。


「なんかもう、考えるの面倒になってきた」


「疲れた時にはこれ一杯! 沢山の肥料を尻から出して、気分スッキリリフレッシュなの!」


 駄目だっ、完全に向こうのペースに持って行かれている。言葉のキャッチボールどころか、ボールすら見当たらない。こんな時は──話の矛先を変えるしかない。


「ダブレス大臣……」


「うむぅ、見事に関節が折れておりますな。痛みは御座いませぬか?」


「痛いですよぉ。そんな事よりも、うるちゃんはどこですかぁ。折角捕まえてぇ、離れないようにしたのにぃーっ」


「諦めるのです。とは申しませぬが、お願いですからこれ以上、レッツァマーダとの関係を悪くしないで下されっ」


 ダブレス大臣の奴、しれっとエルララルラの関節を嵌めようとしているけど、僕じゃないと無理だと思うし、嵌めないで欲しい。


「ダブレス大臣。そのエルララルラは、円堂さんに危害を加えた重罪人。その重罪人に対しての罰は、どうお考えか」


「何でミユンから、目を逸らすの?」


 精霊さん。お願いだから、黙ってて?


「罰とはっ……どうせよと仰るのですかな」


「気持ち的には、斬首にして欲しいけれど、円堂さんは生きていたからね。妥協して、水責めの刑にすべきだろう」


「元とは言え、女帝を水責めにせよと申すかっ」


 ダブレス大臣の顔が、一気に険しくなった。

 ぶっちゃけこの世界──いや、この大陸の水責めの刑は、死罪に等しい内容だからね。水に沈めてから、一日放置するんだもん。


「その女は、それ程の事をしたんだ」


「いやっ、しかしそれでは、あまりにもっ……」


 エルララルラには、斬撃が効かない。僕が本気で殴っても傷一つ付かず、致死毒ですら意識を失わせる程度。関節は外せたけれど、首は折れなかった化物だ。

 それでも、息はしている。

 水責めにすれば、殺せるかも知れない。


「罰を受けなければ、戦しかなくなるぞ」


「ねえ、一つ言って良い?」


 また精霊さんが、邪魔をしてくるぅ。


「今大事な話をしてるのでっ、後にして下さいませんか! お願いですから!」


「水に沈めても、その女の人は死なないよ?」


「……えっ?」


 この精霊ミユンは、突然何を言い出すんだ。エルララルラに水責めをしても、死なないだって? 僕の聞き間違いだろうか。


「さっき言ったでしょ、ミユンと似た様な存在だって。水に沈めた程度じゃあ、死なないよ」


「……」


「ミユンなら、百年は潜れるの。水の精霊のピュアなら、水が枯れるまで潜れるの」


 ばっ、化物過ぎるんですけどぉ。斬撃、殴打、絞め、水責め、これで死なないとか、打つ手がないんです。いや、待てよ……よくよく考えたら、手がない訳じゃあない。


「──っ、ミユンさんなら、殺せますか?」


 この地の精霊ミユンならば、エルララルラを簡単に、殺せるのではなかろうか。


「方法はあるの。ミユンがやるとなれば、地中奥深くまで引き摺り込んで、時間をかけてゆっくりと、干涸びるまで、栄養を吸い取るの」


「それだっ!」


「でもやらないよ?」


「なんでっ!?」


 水責めが罰にならないのなら、それこそ今言った内容を実行して、罰を与えるべきだ。それなのに、どうして断るのか。


「ミユンはこの国に、食料支援に来たの。それ以外手伝う気もないし、必要もないの」


「なっ、うっ……」

 

 至極真っ当な答えだ。わざわざ他大陸から、食料支援と農業を教えに来ただけであり、この国の司法にまで関与する必要はないし、その権限もない。


「エルララルラお嬢様への罰は、水責めであったな。直ぐに準備をする故、しばし待たれよ」


 この大臣っ、エルララルラが死なないと分かった途端に、即実行する気満々じゃん。


「これはっ……しくじったかなぁ」


「さっきから、何の話をしてるんですかぁ? うるちゃんを返して下さいよぉーっ」


「お前の話をしてるんだけどっ!」


 お師様、アンジィ、円堂さん……どうやらこの僕では、どう足掻いてもこのエルララルラを、殺せそうにありません。


「(って、報告しなきゃなぁ……)」


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