14話 オーバリアヌの異変.3
ダブレス大臣は口をパクパクとさせ、顎下の贅肉をたぷたぷと揺らしながら、エルララルラと僕を交互に見てくる。
「ほらほら、ご自身の国の女帝様ですよ。多少関節が外れてますけど、ちゃんと生きてます」
「ぐっ……なっ、なぜ古奈月殿がっ」
「いやぁ、抑えるのは大変でしたよ」
さて、なぜエルララルラが、公に死んだ事になっているのかの理由を、聞き出さないとだ。
「レッツァマーダから出向していた、我が国所属の円堂・兎留美を、拉致、監禁、暴行、拷問と、色々やってくれましたね」
「なっ、まさかっ……あの時突然居なくなったのは、円堂殿を追って行ったのかっ」
「貴国は戦をお望みか?」
この慌てようだと、こっちの事情は知られていないかな? だとすれば、ノブストン側の落ち度を突きまくって、旨い汁だけ吸おう。
「待って下され! 我らは戦なぞ望んでおりませぬ! あのエルフが居るレッツァマーダと争うなぞっ、有り得ぬでしょうぞ!」
流石お師様、良い抑止力だよね。
「では、この女帝である筈のエルララルラが、なぜ死んだ事になっているのかの説明を、今ここで求めます」
エルララルラが生きているのに、もち様を寄越せだとか、図々しいにも程がある。
「そっ、それは……っ」
ダブレス大臣は、ゆっくりと喋り始める。
エルララルラは、城内で狂った様に暴れた。
「(それはこちらの予定通り)」
流という男と、黒姫という魔龍、ワンブルの幼子の三名が、暴れているエルララルラと対峙し、それを抑え込んだ。
「(討たれていなかったという訳だ)」
その最中、女帝エルララルラは、首の肉を抉り取り、自ら命を断とうとしたと──んっ? あのエルララルラが、自殺しようとした?
「流殿のお陰で、一命は取り留めたものの、死んだ様に眠って居られたのです」
「えっ、いやいやっ、ちょっと待って!」
「どうされたので?」
「いいからっ、ちょっとだけ待って!」
お師様は隣国の付き合いとして、幼き日のエルララルラに、会った事があるらしい。
一度目は赤子の時。
その時はまだ、普通の赤ちゃんだった。
二度目は皇帝との会談の時。
可愛らしい笑顔の、女の子だった。
三度目は皇帝崩御の時。
皇帝を縦に斬り殺したのは、"リシュエルの称号"に侵されて狂った、幼き日のエルララルラ。その称号は、人格に影響を及ぼすのだ。
だからこそ、自死なんて有り得ない。
称号がそれを、許さない筈だ。
「考えられるとしたら……っ、まさかこのエルララルラが、リシュエルの称号を打ち破った?」
「古奈月……殿? リシュエルとは?」
「っ──こっちの話だから、気にしないで」
危ないっ、口に出しちゃったよ。幸いダブレス大臣は、首を傾げているし、リシュエルなんて言われても、知っている訳がないよね?
「リシュエルが、どうかしたの?」
「えっ……」
「今さっき、リシュエルって言ったよね?」
うん、ここにもう一人、地の精霊なんていう人外が居た事を、すっかり忘れてました。そうだよね、流っていう人の仲間だから、知っていても可笑しくはないよね。
「きっ、気にしなくても良いよ?」
「それは無茶な相談なの」
「いやぁ……えっとぉ」
そういえば──流という人も、リシュエルの称号を持っていると、レッツァマーダに来た黒姫という魔龍は、言っていた。
その称号に侵される心配もない程に、人という種を超越した存在──魔神・流。どこからどう聞いても、ラスボス感が半端ない。
「くっ、黒姫さんに聞いたんだぁ……」
「黒姫に? 何で黒姫知ってるの?」
「散歩だとか言って、レッツァマーダ魔導国に来てたのさ。代表がその黒姫さんの、昔馴染みらしくて、今もまだ居ると思うよ」
「ふーん、黒姫の昔馴染み……誰だろ」
誤魔化せた? 上手く行った? 嘘を吐かずに誤魔化すのって、相当しんどいなぁ。
「それで、貴女は何を隠してるの? ミユンをずっと警戒してるのは、何で?」
誤魔化せていませんでしたあっ! これってアレかな? 人生で幾度目かになる、最大のピンチってやつなのかなぁ?
「何でってぇ、言われてもですねぇ……精霊なんて初めて見ましたしぃ、こう、直感というのが働いてぇ、怖いなぁって……」
「ミユンは怖くない精霊なのに、とても失礼な人なの。怖い精霊なんて、ファンガーデンに帰れば沢山居るの」
「……そこって地獄ですか?」
「賊にとっては地獄だけど、普通に暮らす分には楽園なの。お仕事沢山! お金も沢山!」
あっ、上手く誤魔化せた。どうやらこの精霊は、観察力は異常だけど、心を見抜けるって感じじゃあなさそうだ。
「えっと、話を戻しましょうかって、どこまで聞きましたっけ?」
「このエルララルラ様が、死んだ様に眠っておったところまでですな。と言ってもその後は、知らぬ間にいなくなっていたとしか……」
「成程ねぇ」
眠ったままだから、公には死んだという事にして、表舞台から存在を消し去った訳か。そして、いつの間にか起きて、行方を眩ませたエルララルラが、円堂さんを襲った。
「……(なんとも、複雑だなぁ)」
リシュエルの称号持ちを殺したい、お師様。
その指令を受けたのは、円堂さん。
リシュエルの称号を持つ、エルララルラ。それを暴走させて、狂わせる事には成功した。
抑え込んだのは、流、黒姫、ワンブル。
エルララルラは自死。
それを治したのは、流。
エルララルラは意識を取り戻し、円堂さんを追い駆けて襲い、アンジィが救出に向かった。んで、今に至る訳ですか。
「駄目だ……頭が爆発しそう」
「頭が爆発するの? お薬要る?」
「ふぁぁぁふ、うるちゃんはどこですかぁ」
「陛……いや、エルララルラお嬢様。ここはノブストンですので、円堂殿は居りませぬぞ」
うん、混沌とした感じになってるんだけど、僕の脳内キャパがオーバーですともっ!




