14話 オーバリアヌの異変.2
そんなこんなで、こうしてお城の一室で、まったりお茶を飲みなら、この国の大臣が来るのを待っています。
「……いや警備ざる過ぎだって」
城に到着しました。
地の精霊ミユンが、『ちょっとお邪魔するの』と言うだけで、門番が通してくれました。
貴賓室に案内されました。
「この国、精霊に乗っ取られてないよね?」
そのミユンはと言うと、大臣を呼んでくるからと言ってそのまま、肩から飛び降りて走って行った。この国の大臣は数名居る筈だけど、誰を呼んで来るのだろうか。
「僕の力じゃ殺せないし、かと言ってレッツァマーダには連れて行けないから、こうして届けに来た訳だけど……大臣はどう反応するのか」
事情が事情だけに、結構面倒だ。
当初円堂さんは、任務に成功したとの連絡を寄越して来た。イコール、エルララルラを暴走させる事に、成功したという事だ。
しかし実際には、暴走しているどころか、逆に円堂さんを捕らえてしまう程の、思考する化物となっていて、アンジィすら敵わなかった。
近接特化の僕でも、殺せない存在だ。
「そんな存在が居るのに、どうしてこの国の人達は、あんなにも穏やかだったのか……」
それが一番の問題だ。
「すぅ……すぅ……うるちゃぁ……」
この布切れを被って、すやすやと寝息を立てている女は、この国の"女帝"であり、民達からも恐れられる、暴力の化身。
そう、これでもこの国のトップ。
そんな存在が不在にも関わらず、この国は流という異世界人の支援を受け、着々と食料問題の解決に向かっている。
「訳が分からないなぁ……頭が痛いよぅ」
お茶をズズッ──とぉっ!?
「何このお茶っ! 本物の緑茶なんですけど!」
これはアレかな、他大陸からの支援物資。こんなお茶が飲めるなんて……もう二度と、飲めないと思っていた味だぁ。
「なんか、泣けてきちゃう」
そんな感じでしみじみと、お茶を飲んでいたら、コンコンッ──『入るの』と、こちらがどうぞと言う前に、ミユンが部屋に入って来た。
「なんで涙目なの?」
「いやぁ、お茶が美味し過ぎてさ」
「ふーん。ダブレス大臣を呼んだから、少し待ってれば来るの。その間にお昼をどうぞ」
そう言ってテーブルの上に置かれたのは、まごう事なきカツサンド。どこからどう見てもカツサンド。異世界初のカツサンド。
ゴクッ──と唾を飲み込む。
「ほっ、本当に食べて良いの?」
「良いよ? その為に持って来たの」
「それじゃあ……えっ、遠慮なく」
僕の顔の半分程もある、大きなカツサンドを手に取り、恐る恐る口に入れると──サクッとしたカツから、ジュワァっと脂が溢れ出し、若干癖のあるソースと混ざり合って、旨味が濁流の如く押し寄せて来る。
「……ハッ! もうなくなった!?」
「むふふっ、凄い食べっぷり! 頑張って作った甲斐があるの……お皿は舐めちゃ駄目だよ?」
「舐めませんよ?」
「それなら、お皿から手を放すの」
お皿を取られてしまいました。まだソースが付いているから、舐めようとしてたのに……良いなぁ、こんな美味しい物があるなんて。
「ご馳走様でした」
「お粗末さま。トンカツサンドでそこまで喜ぶなんて、お米を前にしたパパみたいなの」
「……米もあるのっ!?」
「パパの領地で育ててるよ。まだ外に出せる程の量はないから、持って来てないの」
領地で育てている? その流っていう異世界人は、自分の領地を持っているって事? 他大陸の権力者? 魔神で領主で精霊のパパって、暴力と権力のダブルコンボだよね。
「円堂さんやアンジィ、カリアゲや凛宮司さんが知ったら、発狂するだろうなぁ……米」
コンコンッ──『ミユン様、儂だ』
「あっ、ダブレス大臣が来た。入って良いの」
ダブレス大臣って確か、大国ノブストンの古参の大臣で、相当な権力者だって話だよね。
「失礼する……儂に用があるとの事だが、なんですかな? こう見えて忙しい身なのだが」
「ミユンは呼んだだけっ。用があるのは、そっちの女の子だよ?」
ダブレス大臣のギョロっとした目が、僕の方を向いて来た。デカい蛙みたいなキモさだ。
「お初にお目にかかります。レッツァマーダ魔導国にて、代表補佐をしております、古奈月ささらと申します」
「ほぅ、レッツァマーダの者であったか。使いの者を出そうと思っておったのだが、まさかそちらから来てくれるとはな」
「使いの者を? 一体何の話ですか?」
ノブストンがレッツァマーダに使いを出す? そんな事は今までなかったし、面倒事の臭いがするんだけど。
「少し前にはなるが、女帝、エルララルラ・ポーノグリトス・ノブストンが、崩御なされた。その為、貴国にて保護されておるあのお方に、戻って来て頂きたい」
「……んっ?」
チラッと背後を振り返り、顔を布で覆われたエルララルラが、すやすやと寝ているのを確認して、再度ダブレス大臣の顔を見る。
「崩御って、死んだって事ですよね?」
「うむ。正確には、そこに居られるミユン様の主人、流殿に討たれたのだ。あのまま放置しておったら、国が滅んでいたやも知れん」
「んんっ?」
地の精霊であるミユンを見ると、『ミユンは関係ないの』と言って来たので、どうやらこの件には関与していないようだ。
女帝エルララルラは、死んだ。
しかし実際には、生きている。
円堂さんの任務は、成功していた。エルララルラは暴走して、あとは時間の問題だった。それを止めたのが──流という異世界人。
結果として、生きていたエルララルラに、円堂さんが襲われて、こんな事態になった訳だ。
「っ……(元凶発見しちゃったよぉっ)」
要は、公には死んだ事になっている。どうりでこの国の人達が、穏やかに暮らしている訳だよ。これが理由の一つだったのか。
「どうされたのですかな? そういえば、なぜ貴女は、ノブストンに来られたのか?」
「えっとですねぇ……むぅぅぅっ」
この大臣は気付いていない。今大臣が発した言葉によって、レッツァマーダ魔導国が敵になる可能性に、気付いていないのだ。
同盟国への不義理を、口にしたのだから。
女帝が死んだと、偽ったのだから。
"もち様を寄越せ"と、言って来たのだから。
「古奈月殿?」
「どうしたの?」
ゆっくりと席を立ち、後ろに寝かせていた荷物の布を外して、ドンッとテーブルの上に置くと、「んなっ!?」とダブレス大臣の口から、驚きの声が上がった。
「こちらっ、ただのエルララルラになります。顔をしっかりと確認して貰ったら、もう一度最初から、お話しましょうか?」




