14話 オーバリアヌの異変.1
大国ノブストン首都・オーバリアヌ。
川が近い事もあり、水に困る事はない。にも関わらず、荒地での耕作に幾度も失敗を繰り返し、レッツァマーダ魔導国よりも、食料難に見舞われているギリギリの国。
「……の筈だったのに、何この畑?」
オーバリアヌの北門へと到着したのだが、柵で覆われた見事な畑が広がっており、小さな芽を出している所もある。
「お芋の畑なの。種芋を持って来たから、それをしっかりと植えて、育ててます」
「芋って……」
この種芋は、何処から持ってきたのだろう。レッツァマーダで食べている芋と違い、芽の形が何となくだけど、男爵芋に似ている。
「んだぁ、ミユン様だべぇ」
「ミユンさまーっ、こんにはーっ」
「見て下さい! 芽がこんなにも出ましたよ!」
この光景も異常だ。痩せ細り、汚れた服を着た人達が、肩の上に居る緑髪の幼女に対して、笑顔で声をかけて来る。
「その調子で頑張るのーっ! 今日のお昼は"トンカツサンド"だから、楽しみにしてるのっ!」
「「「とんかつだあああああああああっ!!」」」
恐らくはこの国の、奴隷に近い人達。にも関わらず、この人達の顔には、悲壮感や諦めといったモノが見えず、精一杯畑を耕そうと働いている。希望に満ち溢れている。
「……トンカツっ!?」
「むわっ! 急に大声を出さないで!」
「いやいやいやっ、何でこの国にトンカツがあるのさっ! 豚なんて居ないでしょっ!」
異世界に来て二年も経つが、毎日毎日ツイバミの臭い肉を食べ、たまに甘味を食べれるだけで、トンカツなんて見た事がない。そもそも豚が居ないのだから、作る事も出来ない。
「パパが大量に持って来たの。セーフアースでお肉を放牧してるし、コカトリスの卵もあるから、今日のお昼はトンカツっ!」
「卵までっ……コカトリス?」
「昨日はすき焼きだったの」
「えっ……すき焼き? それって牛肉? すき焼きってタレは? えっ? どうなってるの?」
ジッと動かず頭を抱えて、冷静になろうと努力するが、「貴女も食べる?」というその一言で、もうどうでも良くなってしまった。
元々考える事は苦手なんだ。だからこそ、見たままを受け入れて、お師様に報告しよう。
「その前に、これを城に届けなきゃ」
「ゔぅるぢゃぁぁぁん、ゔるぢゃぁぁぁん」
「延々言い続けるとか、夢に出そうだ」
城壁の門に近付くと、兵士が立って居おり、肩の上のミユンをチラッと見て直ぐ、横にズレる様に動いて、そのまま通してくれた。
「フリーパスって、本当にここは首都ですか?」
「ミユンが居るからなの」
「あっ、そうなんだ……にしても、こんな怪しい荷物も無視とか、門番として良いのかなぁ」
荷物イコール、エルララルラ。顔をしっかりと布で隠しているけど、それでもシルエットから、人である事は分かるだろう。
「泥棒さんを見付けたら、似た様な感じにして連行してるから、そんな事で止められないの」
「何それ、慣れてるって事?」
「というよりも、諦めてると思います」
門番が諦める程、頻繁に泥棒を捕まえて、このエルララルラと似た状態にしていると……この幼女、絶対人じゃないだろ。
「……んっ? 人じゃない……畑泥棒を許さなくて、畑を耕していた人達に慕われてぇ──っ、もしかして地の精霊っ!?」
「そうだよ? ミユンは地の精霊なの。てっきり、気付いているものだと思ってた」
「何で僕はっ、地の精霊であらせられる人外にっ、肩車をさせられているのさっ!」
怖い怖い怖い怖い、本気で怖い。肩の上に居られると、常に頭を狙われているような、いつでも潰せます的な感じがして、落ち着かないし恐怖しかない。
「頼むから、肩から下りてくれない?」
「丁重に、お断りします」
「僕の頭を潰す気かなぁ?」
「ミルンお姉ちゃんじゃあるまいし、ミユンにそこまでの腕力はないよ? 精々が根っこで、地面に引き摺り込む程度なの」
地面に引き摺り込むって、ホラーかなぁ。精霊なんて馬鹿げた存在が言うんだから、引き摺り込むだけじゃないだろう。生き埋め、圧死、植物で串刺し等々、色々と考えられる。
「ほら早く、お城行くんでしょ」
「……」
エルララルラ以上の化物が、パパと呼ぶ流っていう異世界人は、一体どんな化物なんだろうか。絶対に、頭はおかしいだろうなぁ。
「お城は──あぁ、分かり易い大きさだ」
そうして、肩に精霊を乗せたまま首都へと入り、城に向かって大通りを歩きながら、露天を確認していると──丸茄子の様な見た目をした、甘味の主役であるプランを見付けた。
そして、値段を見て驚いた。
「さっ、三千エルマ!? レッツァマーダだと一万二千エルマなのにっ、安いでしょこれ!」
「いらっしゃい、お兄さん」
「誰がお兄さんだゴラァ! 僕は正真正銘の女の子だよっ! 胸が有るだっ……ろ……うぅっ」
自分で言うと、悲しいなぁ。
「どんまいなの」
「おや? ミユン様じゃないですか。そのお兄さ……お嬢さんは、お知り合いで?」
「お散歩してたら見付けたの」
落とし物を見付けました。みたいな言い方って、とても失礼だと思うんだけど、怖くて何も言えませんよーう。
「じゃなくてっ、なんでプランが、こんなにも安いのさ。普段ならもっと高いでしょ?」
「おや? もしかして、知らないのかい」
「……何をですか?」
この露天のお婆ちゃん、何で視線を上に──って、ミユンを見ているのかな? いやいや、何でミユンを見てるのさ。
「ミユン様。そのお嬢さん、知らないのかい?」
「畑を見たから、察しが付きそうなの」
「畑? あの芋畑が何か──そうかっ! 食料難を脱しそうだから、物価が下がった!」
「正解なの」
黒姫さんは言っていた。流なる人物が、ノブストン及びアッジスノードに対して、食料支援をしていると。それに加えて、耕作支援もしているとなれば、必然的に物価が下がる。
「いや支援の規模おかしいって!」
肉類、野菜の支援だけでなく、畑作りまで教えて、しかもそれを二国に行うとか、色々ツッコミどころが多過ぎて、頭が痛いんです。
「ふっ……パパに会えば、納得するの」
そんな化物、絶対に会いたくないです。




