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異世界とは愛すべき者達の居る世界  作者: かみのみさき
七章 異世界とは魔人達の居る世界

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13話 古奈月ささらとエルララルラ.3


 関節を折る方法は、幾つかある。

 肘関節なら、腕ひしぎ十字固めをキメて、テコの原理でえいやっとするだけで、逆に伸びた関節をペキッと外せる。

 膝関節も同じ方法だ。

 問題は、化物級の馬鹿力を持つ相手には、その持ち前の力で防がれてしまい、そもそも関節技をキメれない事だろう。

 それなら、どうするのか。

 相手に意識がない場合、そのまま仰向けに転がして、手首を捻り、そのまま相手の肘に全体重をかけて──無理矢理圧し折る。

 アンジィに習った、人体破壊方法だ。


 意識のないエルララルラに試す事、百二回。そこまでやってようやく、四肢の関節を外す事に成功した僕は今、ノブストンの首都・オーバリアヌへと向かっている。


「という事ですお師様。いくらやっても首だけは、折れませんでした。本物の化物ですよ」


『殺せないか……それで、その助けて貰ったエルフは、本当に"影"と言ってたんだよね?』


「気にするところはそこですか。ええ、確かに影って言ってましたよ。エルフでしたし、お師様の知り合いですか?」


『どうだろうね。この大陸に居るエルフは、僕だけだし、考えられるとしたら、魔龍や流と一緒に、他大陸から来たんじゃないかな』


 それは、考えられる。二年もの間、この異世界で過ごして来たけど、お師様の言う通り、エルフなんてお師様以外に、見た事がない。

 

「アンジィからの連絡は?」


『有ったよ。円堂君、アンジィともに無事だ。古奈月ちゃんが帰って来たら、甘味をご馳走するって言ってたよ』


「それは楽しみです。さっさとこの荷物をノブストンに渡して、全力で帰りますよ」


 エルララルラの服を使って、腕や脚を逆二つ折りにした状態で固定し、ズリズリと引き摺っているこの状況。側から見たら、どう思われるのだろうか。とても心配だ。

 それと、気になる事が一つだけ。

 

「お師様……」


『どうしたんだい?』


「何と言うか……ノブストンに近付くにつれて、緑生い茂る草原になっていくんです。砂漠地帯より南って、荒地でしたよね?」


 レッツァマーダ魔導国の、直ぐ北にある砂漠を越えてた先にある、商業連合国ならば、緑豊かな地が広がっており、逆に南側は、不毛の大地が広がっている──筈なんです。それなのにどういう訳か、辺り一面草だらけ。


『送りの儀の時に、魔龍が言ってただろ。流と地の精霊が、大地を作り変えてるのさ』


「いやいやいやっ、サラッと言ってますけど、どれだけの広さだと思ってるんですかっ」


『精霊なら簡単だろうね。と言っても彼らは、人の怠惰を良しとしないから、生えているのって雑草だけじゃないかな?』


「雑草だけ?」


 足を止めて生えている草を見ると、どこからどう見ても、ただの雑草。その雑草が大地を埋め尽くさんと言わんばかりに、遥か先まで続いている。


「食べられない草だらけって……」


『それでも大地は潤うからねっと、そろそろ通信を切るよ。何かあれば、また連絡してくれ』


「分かりました。帰る時にでも連絡しますんで、ちゃんと起きてて下さいよ」


 通信を切って、一息吐く。

 エルララルラを確認してみると、毒に侵されながらも、「うるぢゃぁん、うるぢゃぁん」と子供の様に呟いており、物凄く怖い。


「円堂さんへの執着が、半端ないなぁ」


「ゔるぢゃんどこぉぉぉっ、ひぐっ、わだじのゔるぢゃんがぇじでぇぇぇっ」


 両手脚ひん曲げて、毒まで盛っているのに、この女はただ円堂さんを、独占したい訳か。冷静になって考えてみたら、円堂さんの任務は成功してるっぽいんだよなぁ。


「執着させて暴走させて、自滅させる。筈だったのに、暴走している風には見えないとか」


 何かイレギュラーが起きたのか。


「……考えても分かんないや」


「とても痛そうなの。ここで何してる?」


「っ──」


 突然の声に驚き──声が出なかった。

 辺り一面雑草だらけで、魔物の姿すら見えなかったのに、歩こうとした瞬間に突然、背後から誰かに声をかけられた。

 

「つんつん、うるちゃんってだあれ?」


 刺激しない様に、ゆっくりと振り返る。


「貴女はここで、なにしてるの?」


 おかしい。確かに目の前に居る筈なのに、見ているのにも関わらず、気配を全く感じない。この存在は不味い。非常に不味い。


「えっと、オーバリアヌまで、その女を返しに行く途中なんです。少し、事情がありまして」


「ふーん、畑泥棒さんじゃない?」


「違いますよ……泥棒なんて真似、した事もないですし、今後する予定もありません」


 緑色の髪に、緑色の瞳を持つ幼女。その可愛らしい見た目とは裏腹に、発する言葉に乗って襲い来る、得体の知れない圧のようなモノ。この子は、エルララルラ以上の化物だ。

 返答をしくじれば、死ぬ。

 敵対しようとすれば、死ぬ。

 下手な動きを見せれば、死ぬ。

 息はして良いのか、返答を続けても良いのか、笑ってても良いのか、真面目な顔をしても良いのか、一つでも間違えば──死ぬ。


「凄い胆力の人なの。普通なら、今のミユンの圧を受ければ、即逃げるか襲って来るかの二択なのに、驚きです!」


「はっ、ははっ……それって褒めてる?」


「勿論ベタ褒め!」


 本音を言えば、エルララルラを放置してでも、今直ぐこの場から離脱したい。しかしこの幼女が、それを許すだろうか。


「ぐずっ、ゔるぢゃぁぁぁん」


「ふむふむ。この女の人に使ってる毒って、貴女が作ったの? 見覚えがあるんだけど」


 アレスとマロンの事を言うべきか、誤魔化して説明すべきかだけど、どうにもこの幼女、もち様と似た雰囲気を感じるんだよなぁ。嘘を見破りそうな雰囲気ってやつ。


「……知り合いに、貰いました」


 嘘は吐いていない。知り合ってはいるし、毒薬を貰った事も事実だから、問題ない筈だ。


「ふーん、知り合いなの」


 その顔は一体、何を考えている。


「まあ良いの。パパはアッジスノード王国に居るし、黒姫は飛んでっちゃったから、丁度暇してたの。オーバリアヌまで同行してあげます」


「──んっ? 黒姫?」


 今この幼女、黒姫って言いましたか? 確かお師様の知り合いの魔龍が、黒姫って名乗っていましたよね?


「黒姫を知っているの?」


 まさかこの緑髪の幼女って、別大陸から来たっていう人達の、仲間? いやいや、それでも何で、こんな所に居るのさ。


「知っているというか、僕の国の代表と、昔馴染みらしくてさ……今はこっちの国で、仲間と行動してるよ」


「あの黒姫と昔馴染み?」


「そうそう、昔馴染み」


 駄目だっ、この子の顔をいくら見ても、可愛い以外に表情を読めない。魔龍の仲間だとすれば、敵にはならない筈だけど……胃が痛いっ。


「まあ良いの。それじゃあ、動かないでね」


「えっ?」


 緑髪の幼女は、僕の背後へ回り込むと、「んしょっ、んしょっ」と突然背中をよじ登り、有無を言わさず肩車をさせられました。


「……何これ?」


「それじゃあ行くの!」


 状況がっ、僕の脳内キャパを超えるんですけど……本当にこの幼女、何者なんですか。


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