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異世界とは愛すべき者達の居る世界  作者: かみのみさき
七章 異世界とは魔人達の居る世界

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12話 化物と化物と化物と.5


 エルララルラは動かない。

 アレスとマロン。あの二人の姿は見えず、どうやら遠視の範囲外まで下がったようだ。


「ぐっ……ははっ、こうも私が無力だとはな」


 ポケットから通信機を取り出し、耳に嵌め込み、側面のボタンを押して口を開く。


「こちらトリアヌ。お師匠様、古奈月、応答を求む。繰り返す、こちらトリアヌ」


『──こちらシアード、無事かいアンジィ』


「お師匠様か。逃げろと言われていたが、残念ながら、足が限界で無理そうだ」


 エルララルラはその場でしゃがみ、何かを探しているようだが、アレは何をしている。遺跡の瓦礫を、持っているようにも見えるが。


『まったく君は、無茶をし過ぎだ。それで、連絡をして来たという事は、無事に円堂君を見付けたのかな』


「私の後ろで寝ているさ。目も当てられない程に、酷い有様ではあったが……お師匠様」


『なんだい』


「エルララルラという者は、殺しを何とも思わない、リシュエルに惑わされた者だったな」


 それは、ちょっとした違和感。

 本来の予定では、兎留美がエルララルラを惑わし、暴走させた上で、ノブスノンという国を使って押し潰す。その予定だった。


『そうだね。だからこそ、円堂君を送ったんだ』


 兎留美がエルララルラに捕まったと知ったあの時、暴走状態のエルララルラに捕まったのだと、勝手に思っていた。

 実際にこの目で見て、違和感を覚えた。

 暴走状態の者が、アレスとマロンのあの猛攻を受け流し、避け、応戦するなど可能なのだろうかと、違和感を覚えたのだ。


「エルララルラは、あの化物は……暴走していない。自らの意思で考え、戦っていた」


『──なんだって?』


「兎留美に執着はしているが、どう見ても、自らの意思で行動する化物だ。暴走状態の方が、幾分マシに思えるぞ」


 遠くに見えるエルララルラは、瓦礫を足下に大量に集めて、何か準備をしているようにも見えるが、暴走状態でない事は確かだ。


『リシュエルの称号に打ち勝った? いや、精神が幼いエルララルラには、無理な筈なんだけどね……一体何が起きている』


「お師匠様。考える前に先ずは、兎留美と私を助けてはくれないか。エルララルラの様子が────っ!?」


 エルララルラから目を離し、右耳に付けた通信機側へと首を傾けたその時──何かが私の左耳を掠め、通り過ぎて行った。

 左耳を触ると、肉が若干抉れており、そこから血がゆっくりと、垂れているのが分かる。


「なにが……っ」


 得体の知れない危険を感じ、素早く地面に張り付くように伏せると、チュンッ──という音と共に、頭上を何かが飛んで行く。


「くっ、突然どこからっ」


 その何かは見えないが、まともに当たったならば、無事では済まないであろう事は、背後の地面を見れば分かる。絨毯爆撃を受けているかのように、地面が捲れ上がっているのだ。


『どうしたんだいアンジィ』


 正直言って、答えている余裕がない。

 私の火の矢で作ったクレーターなぞ、ただの凹みと言わんばかりに、次々と何かが頭上を通り抜け、遥か後方の地面を破壊している。


「まさかっ、この攻撃は──あの化物本気か!」


 遠視のクールタイムが終わり、エルララルラの方へと顔を向けると、身の丈程もある巨大な瓦礫を軽々と持ち上げ、こっちに向かって投げている姿が見えた。

 

「チッ! 体力も限界だと言うのにっ」


 位置は把握されているが、見えてはいないようだ。でなければ今頃、投げ方を調整されて地面の染みになっている。


『アンジィ、どうしたんだ。おいアンジィっ、アルジェリーヌ! 応答しなさい!』


「煩いぞお師匠様! こっちは今っ、エルララルラの投擲に襲われているんだ! 兎留美だけでも良いから、さっさと助けろ!」


『っ……分かった。今直ぐそっちに、古奈月ちゃんを送るから、機を見て逃げなさい』


 古奈月を送る? このお師匠様は何を言ってるんだ。足の速い私ですらここまで来るのに、相当な無茶をしたのだぞ。


『あの空を守る魔王が居ないのなら、この大陸に障害はないさ。ほら古奈月ちゃん、準備してって……そんな嫌な顔しなくても』


 どうやらお師匠様の側に、古奈月も居る様だ。私から連絡が来るのを、待っていてくれたのだろうか。だとしたら有り難い。


『未だ、世界の壁を突破する事は叶わないけれど、アンジィを起点にすれば、この程度の距離なら送れるのさ』


「お師匠様……何をする気だ」


『円堂君を元の世界に送り返す為に、研究してるんだけどね。行くよ──"送還転移"!』


 転移という言葉は、日の本に住んでいた現代人ならば、大半の人間が知っている。その名の通り、空間を移動する架空のナニカ。それをこのお師匠様は、使えると言うのか。


「……っ、古奈月はどこだ」


 瓦礫が徐々に下がって来ており、風圧に体が持って行かれそうになるが、匍匐前進でなんとか、兎留美の近くまで移動した。

 辺りを確認するが、古奈月の姿はない。

 転移とやらが、失敗したのだろうか。


『どうだい、古奈月ちゃんは行けたかな?』


「どこにも居ないぞ!」


『えっ? 姿が消えたから、ちゃんと発動したんだけど……場所の指定しくじったかなぁ』


 この緊急時に、それは不味いだろう。


「どこに送ったんだお師匠さっ……」


 どこからか──古奈月の声が聞こえた。顔を動かして確認するが、『お師様の馬鹿ああああああああああああっ!』としか聞こえず、その姿はどこにもない。


「──っ、上から!」


 遠視を使い星空を見渡すと、馬鹿みたいな声量で叫ぶ古奈月の姿が見えた。その真下には、瓦礫を掴むエルララルラが居り──爆音を響かせての激突。


「……お師匠様」


『なんだい?』


「古奈月を殺す気なのか!?」


『彼女なら大丈夫さ。足は遅いけど、頑丈さと近接戦だけなら、国一番なんだからさ』


 それは知っている。だが、知ってはいても今のアレは、私であれば即死確定だぞ。


『ほら、古奈月ちゃんが戦っている間に、さっさとその場から離れなさい』


「くっ、分かっている!」


 鉛の様に重い体を動かして、ゆっくりと兎留美を背負い上げ、足を引き摺りながらも、その場から移動を開始する。


「古奈月……頼んだぞ」


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