22話 進撃乱戦あいつはどこに.4
2026/06/28 改稿
色々と予想外の事が起きたが、何はともあれ砦の中に侵入成功。五感に優れたミルンを先頭に、薄暗い通路を進んでいる。
「すんすんっ……」
「誰もぉ、居ませんねぇ?」
「せやな。兵一人も居らんなんて、変な話やで」
そう、砦に侵入してからというもの、誰にも遭遇する事がなく、先頭を歩くミルンの尻尾が、つまらなさそうに垂れているんだ。
「なあミルン。知らない匂いのする場所って、分かったりはしないのか?」
「難しいの。ここまで臭いと、近くまでしか嗅げないし、鼻が捥げちゃうっ」
「そんなに臭いか?」
ニアノールさんを見てみるが、首を横に振っており、どうやら嗅覚は、ミルンの方が優れているっぽい。犬耳だからかねぇ。
「どこから臭ってるんだ?」
「分かんないっ」
ミルンが臭いと言う程の臭いか。
「気になるな……おっ、初扉発見だ」
「調べますねぇ」
ニアノールさんは扉へと近付き、その扉に猫耳を当てて、中の音を聞いているようだ。ミルンは嗅覚で、ニアノールさんは聴覚か。
「素晴らしきかな、ケモ特性っ……」
「流にーちゃん。緊張すんの、誤魔化したいのは分かるけど、気ぃ抜けるから止めや」
「っ……リティナに言われるなんてなぁっ」
俺は基本的に、小心者だからな。争いとは無縁の国で産まれて、育ってきた身としては、緊張するなってのには無理があるだろう。
「開きましたよぉ」
「ニアノールさんって、鍵開けも出来るのか」
「色々とぉ、仕込まれましたのでぇ」
そこは敢えて聞かぬが吉だな。誰に何を仕込まれただなんて、知らない方が良い。
「さてっ、中には何が──って、金庫かここ? 金製品のオンパレードじゃん」
「ぴかぴかっ!」
「流石教会ですぅ、儲けてますねぇ」
「どう見ても、大司教の物やろ。迷惑料代わりに、根刮ぎ貰ったろーや」
そういうとリティナは、端に置いてあった小箱を漁り始め、ニアノールさんは棚の上、ミルンは金の皿目掛けて動き始めた。
「……ほい"空間収納"っと」
三人が触っている物以外の、金製品を根刮ぎ有り難く、頂戴致しました。細かい確認は追々するとしよう。
「狡いですよぅ、それぇ」
「ほんまそのスキル、泥棒向きやなぁ」
「泥棒向きとか言うなっての。んな事とっくに自覚しるって。ほれ、さっさと行くぞ」
取れる物は取ったし、さっさと大司教を見付けて、証拠やらも探さなきゃだし。
「お父さん、これなあに?」
「どうしたミルン。何拾って──木の枝? 結構太いから、香木ってやつか」
「こうぼく? それってなあに」
金製品だらけの部屋に、異様に目立つな。香木とかって確か、凄い値打ち物の筈……この異世界ではどうか知らんけど。
「香木って言うのは、香料……じゃあ分からないな。熱してその香りを、楽しむ物だ」
「ふーん。余り興味が湧かないの」
「そうだろうな。一応回収しておくか」
空間収納に入れておいて、後々金製品と一緒に、どんな物なのかを確認してみよう。ステータスの備考欄を見れば、何の枝なのかは判明するだろうしな。
そうして部屋から出て、ぐるぐると砦内を散策するが、書斎、食堂、厨房、寝室らしき部屋はあれど、大司教の姿が見当たらない。
「この部屋にも居ないか……」
「そうみたいですねぇ」
「チッ、流にーちゃん、これ見てみい」
暖炉らしき所を見ているリティナが、俺を呼んだので、行ってみると──大司教の奴が、やってくれちゃったようだ。
「まだ温かいな。何かの書類を燃やしたのか」
「なに燃やしたかは知らへんけど。ウチらに見られたら、ヤバいもんとかやろな」
「証拠隠滅か……結構部屋を回ったのに、姿が見えないのはなんなんだ? 隠し部屋でもあるのか……既に逃げたあとか」
手掛かりはないかと部屋を見回すと、ミルンがジッと床を睨んで、手で鼻を押さえている。そんなにもあの床が、臭いのだろうか。
「おいミルン、どうした?」
「……ゔゔゔっ」
尻尾が膨らんだり、縮んだりを繰り返し、呻き声を出しているという事は、ミルンの嫌がるナニカが、あの床にありそうだな。
「ほれミルン、こっち来なさいな」
「むぅぅぅ、あの床臭いっ」
「あの床だな。分かった」
ミルンを抱っこして、ニアノールさんに目線を送ると、頷いて直ぐ、この部屋の床に耳を当てて調べ始めた。
「えっとぉ、床下に空間がありますねぇ。それにこの臭いは──"駄目"なモノですよぅ」
「ニア、そこん床に凹みがあるわ」
「ここですねぇ、よいしょっとぉ」
本来ならば、何某らの仕掛けで、開くモノなのだろうが、ニアノールさんの意味不明な腕力で、床の一部がベコっと剥がされ──地下に続く階段を発見した。
「うっ……これって、何の臭いだ」
床が臭いを堰き止めていたのか、吐き気を催す臭いに、思わず顔を顰めてしまう。
「鼻が曲るのっ! 臭いっ!」
「ちょい待ちミルンっ……えっと、布をこうして千切ってと。ミルンの鼻に突っ込めばっ!」
「ふがっ……ぐるぢいのっ」
布の切れ端を、簡易的な鼻栓にして、ミルンの可愛いお鼻に栓をしました。
「この下からぁ、声が聞こえますよぅ……四名程でしょうかぁ。隠し通路のようですねぇ」
「ニア、こん臭いって……」
「そうですよぉ、リティナ様。貧民街でぇ、よく嗅ぐ臭いですねぇ……」
リティナのニアノールさんは、この臭いに一切動じず、よく分からない事を言って、そのまま階段を下りて行く。
「ちょっ、二人とも待てっての。ミルン、臭いは我慢出来そうか?」
「大丈夫っ。んしょっ、ミルンも行くの!」
二人の後を追いかけるように、斧を持つミルンが先に下り、俺は注意深く、背後を警戒しながら下りて行く。
「ゔゔゔぅ……ふんっ! ふんっ!」
ミルンは臭いを我慢しているのか、斧をブゥンッブゥン──と振り回し、その臭いを散らそうとしているが、ここまで充満していたら、流石に無理があるだろう。
「ほい、到着っと。一本道の地下通路か」
「リティナとニアノールが、何か見てるの」
「なんだあれ……」
松明の明かりが照らす、薄暗い一本道の両端に、小さめの牢屋のような物が並んでおり、それに目を向けながら、二人へ近付いて行った。
「なあ二人共、何見て────」
二人の目線を追い──それを見た。
すかさずミルンを抱きかかえ、「ぬわっ! なにするのっ!」その目を隠し、俺は再度、ゆっくりとソレを見た。
「なあっ、リティナ、ニアノールさんっ」
「言わんでええっ。口にすなっ……」
「リティナ様。直ぐにぃ、供養の準備をしてもぉ、宜しいでしょうかぁ」
「許可せえへん訳がないやん」
大量の──骨。大量の──亡骸。ソレらが小さな牢屋の中に、まるでモノのように敷き詰められ、その全てには特徴があった。
俺は──甘かった。
情報戦を仕掛け、扇動し、追い詰める。
そんな事をしている暇があったなら、さっさと攻めていたならば、この子達を、一人でも多く救えたかも知れない。
それを俺は、やらなかった。
魔王と噂される程の力を、持ちながら、俺が日和った所為で、自身の安全を優先した所為で、この子は助からなかった。
「ミルン、絶対にこれを取るな」
空間収納から布を取り出し、ミルンの顔を覆い、ゆっくりと、抱っこしているミルンを下ろして、リティナに抱きつかせる。
「リティナ……ミルンを頼む」
「お父さん?」
「あんた、何する気や」
俺はゆっくりと、通路の先を見た。恐らくこの先に、大司教が居るのだろう。逃げようとしているのだろう。
「────殺してやる」
俺は──全力で駆け出した。




