22話 進撃乱戦あいつはどこに.3
2026/06/28 改稿
俺の考えは、甘かった。この五人なら、たとえ十数人の私兵が現れたとしても、楽勝だと思っていたんだ。
「槍兵構ええええええ──っ!」
「「「応っ!」」」
「突撃いいいいいい──っ!!」
だってこっちの戦力のうち、元騎士団副団長の村長と、暗殺系猫耳メイドが居るんだぜ。
「弓兵は聖女を狙えっ! あそこで釘付けにして、絶対にこちらに来させるなっ!」
「「「ははあっ!」」」
超楽勝って思うだろ、普通。それなのに今こうして、砦から出て来た奴らに、なぜか抑え込まれてるんだ。
「ゴラァっ! 流にーちゃんも応戦しろやっ!」
「矢が飛んでくるのっ! ふんっ!」
ヒュンヒュンッ──と勢い良く飛んでくる矢を、斧で叩き落とすとか、ミルンが居なければ、今頃射殺されてるだろうな。
「ぐぬぅっ、手強いのであるなっ!」
村長は槍兵に囲まれながら──違うな。槍で刺されている筈なのに、何故かその槍は刺さらず、どうやってか猛攻に耐えている。
「あれって、前にケモ耳達の攻撃を耐えた、変なスキルだよな……危なっ!?」
村長を見ていたら、頬を矢が掠った。
「お父さんっ! 気を抜いちゃ、めっ!」
「悪いミルンっ! にしてもっ……大司教の奴、まさかこんなに大勢の私兵を、雇ってるとはねぇ。だから砦に籠ったのか」
そう、今俺達は、砦の前で戦闘中。
サクッと砦の中に侵入して、大司教をボコるついでに、証拠を粗探ししようと思っていたのに──砦の門が突然開き、来るわ来るわの武装した雇われ兵。
「おらあっ! あんた魔王やろっ! 木の影に隠れてんと、北門で見せた"圧"出せやあっ!!」
「お前も隠れてるだろうがよっ!」
「ウチは相手に近付かなあかんねんっ!」
理不尽な言い方だろ……それに、圧を出せと言われても、何故か上手く出せないんだ。意味が分からないぞ。
「チッ……使いたい時に、使えないとかっ」
因みに、矢が飛んでくる量を、俺とリティナで比較すると、俺が三で、リティナが七。完全にリティナの方が、狙われている。
「回復役を先に狙うとか、戦いを分かってる敵かよっ。こうなったら、魔法を使うしか……っ」
問題は、何の魔法を使うかだ。
孤児院の火を消した時は、しっかりとイメージする事が出来た。しかしそれは、あくまでも"火を消す"といった目的があったからこそ、発動出来たのだと思う。
「北門で使おうとした、豪炎なら……駄目だっ、あの数の兵士には、焼石に水だな」
それに俺は、人殺しにはなりたくない。
この魔物蔓延る異世界であっても、怒りに飲まれたとしても、誰かを殺すだなんて事は、出来るならしたくはない。
「ふんっ! ふんっ! 矢がしつこいのっ!」
そう言いながら、ミルンも木の影に隠れて、飛んでくる矢を弾かなくなった。
「矢の量から考えて……弓兵だけでも十人以上は居るか。厄介過ぎるだろっ」
槍兵で村長の動きを止め、弓兵でリティナを釘付けにって事は、本命を温存してやがるな。
弓兵、槍兵の次に来るとしたら──歩兵。
村長がいくら強かろうとも、この練度の兵士が相手だと、数で押されれば負ける。
「チッ……殺るしかっ、ないってか」
そうこうしている間に、主力であろうフルプレートの兵士達が、ガチャガチャ音を立て、砦から姿を現した。
「守備隊前へっ!! 奥に居る男と獣は、殺しても構わぬっ! 聖女は生け捕りにせよ!」
「「「応っ!!」」」
「総員前──んぐぅっ!?」
門の上から指示を出していた、恐らくは隊長であろう男の声が──止んだ。というよりも、変な声を出して直ぐ、何も言わなくなった。
「何だ……っ、マジかよっ!?」
木の影から顔を出し、門の上を見ると──いつの間にかニアノールさんが、その隊長の首を握ったまま、ジッと他の兵達を、獲物を狙うような目付きで、見下ろしていた。
突然の出来事に──誰も口を開かない。攻めようとしていた歩兵ですら、門を見上げて、ニアノールさんを凝視している。
一瞬の──静寂。
だからこそ、それに気付かなかった。誰も彼もが、門の上を見ていた為、気付けなかった。
突如一人の槍兵の"首"が──飛んだ。
「──はっ?」
それは、誰の声なのか。
いつの間にか村長の隣に、黒外套を羽織り、顔を隠した"者達"が立っていた。恐るべき殺意を、纏わせながら。
「そっ、そいつらを殺せええええええっ!!」
「「「あああああああああ──っ!!」」」
黒外套を羽織った者達は、六人。にも関わらず、村長すら手を焼いていた者達を、次々に屠り、蹴散らし、その数を減らしていく。
「あれって、影さん……だよな」
「暗部の連中が、何で今更出張って来たんや」
「おっ、リティナ。怪我とかしてないか?」
「ほんまあんたっ、何もしとらんなあっ!」
そんな事を言われても、中身はただの中年男性だし、ミルンの見ている前で、人を殺すなんて事はしたくないんだ。ミルンが危ない状況だったら、なりふり構わず魔法を使うけど。
なんて事、言える訳がない。
「悪かったよ……にしてもこれは」
六人の影さん相手に、数え切れない程の兵が群がるも、動きを追えず混乱しているのか、さっきまでの勢いはなく、そこに村長も追撃をかけての、正に乱戦。
「流にーちゃんっ! ボーッとしてへんと行くでっ! どう見ても今が好機やろ!」
リティナが顔を向ける先で、ニアノールさんが"急げ"と手招きをしてきている。
「なあリティナ。こんな時にする話じゃないんだけど……言って良いだろうか」
「なんやっ!」
「招き猫って、実在したんだなぁ」
「お父さんっ! 気をしっかり持つの!」
何故かミルンに、心配されてしまった。
「意味分からん事言ってへんと、行くでっ!」
「お父さん走るのっ!」
「あっ……はい」
ミルンの後を、砦の門目指して走っていると、まるで『ここが道ですよ』と言わんばかりに、ポッカリと兵達の穴が出来ており、乱戦に巻き込まれる事なく、そのまま砦の内部へと、侵入する事が出来た。
「ふぅっ……何あれ、暗部の強過ぎだろ」
「そりゃそうや。院長先生の後輩らやねんから、化物揃いやろうからな」
「何それ……それじゃあ院長影さんって、あの影さん達よりも、強いって事なのか?」
元暗部の長で、美人エルフの院長影さんの、後輩達……怖ぇ。いや、恐ろしいが正解か。
「リティナ様、お待たせ致しましたぁ」
「お疲れニア。助かったわ」
それじゃあこの、猫耳ニアノールさんも、暗部関係者だったりは──考えるよはよそう。今は大司教を、探さす事が優先だ。
「お父さん、村長は来ないの?」
「流石にあの状態じゃあ、来れないだろうな」
「ふーん。それじゃあ行くのっ!」
流石ミルン。村長を心配した訳ではなくて、ただ聞いてみただけか。尻尾をピンッ──とさせて、ヤル気は衰えていないな。
「そんじゃあ、先頭はミルンとニアノールさんで、中衛はリティナ、後衛は俺で行くぞ」
「ええで。怪我しても、直ぐに治したるわ」
「やりますよぅ」
「接近戦なら、負けないのっ」
うんうん、これってさ……この中で一番弱いのって、間違いなく俺だよね。




