16話 黒幕さんと煮豚野郎.1
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「何故っ、何故私がこの様に逃げねばならぬのだっ。糞っ、ディムニ大司教めっ」
小窓から、月の光が差し込む時間。
男は、焦りながらも皮袋に、金貨や宝石類、内部資料の束を詰め込んでいた。
逃げるにしても、時間の猶予は僅かだろう。
しかし、ここで慌てて不審に思われ、捕まるよりかは、平然を装い去る方が、確実だ。
「それに、何だあの魔法は……。あの様な魔法、今迄に見た事が無いぞっ」
大聖堂を跡形も無く消し去り、その威力に反して、周囲への被害が軽微で、家屋や城が揺れたのみ。
大聖堂を、跡形も無く消し飛ばす程の威力なのにも関わらず、被害の報告が一つも来ない。
異常の極みであるぞ。
「まさかっ……古の魔法……」
大聖堂の禁書庫に眠る、神の魔法が記された本が有ると言う話だが、魔王がそれを行使したとでも言うのか。
「そんな馬鹿な話が有るか……いかんな。気を張り詰め過ぎて、要らぬ事を考えてしまうわ」
頭を振り、皮袋を背負う様に持ち、自室からそっと周囲を伺い、ゆっくりと、音を立てない様に歩き出す。
「おや? この様な時間に、珍しいですね」
「うむ。所用で少しばかり、城下に行かねばならぬ。全く……陛下は困ったお方よの」
「左様で御座いましたか。最近はゴロツキ共が目立ちますので、お気を付け下さいませ」
「そうであるな。では、失礼するよ」
すれ違う者達には、いつも通り雑談をして、巡回中の衛兵に指示を出し、ゆっくりと目的の場所へ向かう。
「……ここか」
大きな物置小屋。
中に入り、その角に置いている木箱を退かして床板を剥ぎ、それを確認する。
そこには、地下へと続く古びた扉が有り、鍵を開けて、その中へと進む。
「良しっ。ここからスラムを経由して、王都の外へと逃げれば、彼奴らも追って来れまいて」
松明を付け、薄暗い階段を降りて行く。
そして、階段が終わる所で一息。
階段を椅子代わりに座り、持って来た水袋に口を付け、喉を潤す。
「後は……ここから真っ直ぐか……」
先の見えぬ暗闇に、少しばかり嫌気が刺すが、腰を上げ、先へ進もうと踏み出した。
その時────『どちらへ行かれるのですか』
耳元で急に声が聞こえ、「ひぁっ」と喉から空気が吐き出されながらも、前へ転がる様にして倒れ、直ぐ振り向いて、それを見た。
いや、それらを見た。
『逃げる事は叶いませんよ?』
『逃すと思いますか?』
『逃げても直ぐ捕まえますよ?』
『逃げた先にも居りますよ?』
『逃げようとすれば、脚を斬りますよ?』
黒外套を羽織った、顔が見えぬ集団。
王家に古くから仕えると謂れる、ジアストールの裏の者、影。
「なっ、何故貴様等が出て来る! こっここんな事でっ、貴様等は動かぬ筈だ!」
「普通ならば、動きませんよ。愚か者達の所為で、動かざる得ない状況ですので」
「一体何を────っ!?」
気付けば、天地が逆さまになっており、ほんの瞬きの合間に、地面に組み敷かれ、意識がゆっくりと、遠のいて行く。
「さて影達、撤収致しましょう。この先に居る影に、伝達して下さい」
「わかりました影」
「行きましょう影」
「全く、影使いのあらい影ですね」
「早く帰って、女王陛下で遊びましょう」
「「「それにしても、愚かな大臣ですね」」」
そう言って影達は、紐で括った大臣を担ぎ、そのまま闇の中へと、消えて行った。
◇ ◇ ◇
ジアストール城の地下には、表で処理出来無い者達の為の、特別な施設が存在する。
間諜を尋問する為の、特別室。
罪を犯した貴族達を、閉じ込める牢獄。
そして、その更に下の階。
牢獄よりも深き場所に存在する、処刑場。
その処刑場にて、ルルシアヌ・ジィル・ジアストールが、傍聴者へ告げる。
「これより、アルテラ教の大司教、オーグドディムニ及び、ジアストール王国大臣、トネリオスドーズの裁判を、執り行う」
声は透き通り、巷では泣き虫女王と言われている事を、微塵も感じさせない、威風堂々たるその姿は、正しく一国の王の姿。
「二人を此処へ」
そう告げると、目隠しをされ、荷車に手足を括り付けられ、影達に運ばれて来る者達。
全裸に加えて、四つん這いのまま括られている為、最早、屠殺前のオークの如しである。
「ぶぎっ、ふぎぎぎふごっ」
大司教オーグドディムニは、口枷をしているとは言え、人語を忘れたかの様な有様。
下半身は焼け爛れ、そこから色々と漏れ出ており、二度と座る事は出来無いだろう。
「へひゅかっ、ひょじひをっ! ひょじひを!」
逆に、大臣のトネリオスドーズは、口枷をされているものの、それ以外に傷は無く、叫ぶ余力がある程に、元気である。
そんな二人を、冷めた目で見ながら、女王は罪状を読み上げて行く。
「大臣、トネリオスドーズ。貴様はそこの大司教と、ラクレル村を手に入れるべく共謀し、民を魔王と認定させ、刺客を放った事を黙認。更に、儂に意図して報告をせず、結果として大聖堂を失った。これに相違ないか?」
「ふぉっ!? ひゃいまひゅ!!」
「陛下、間違いございません。との事」
「ももぉっ!?」
大臣は口枷をしている為、代わりに影が、女王の言葉に応じている。
勿論、肯定しかしない。
「次に、大司教オーグドディムニ。民を魔王と流布し、神官達を使いそれを亡き者とし、ラクレル村を手に入れようと画策。又、それが失敗と見るや、神官ザルブにスラムごと消し去る様命じ、その結果として、大聖堂は消失。これに相違ないか?」
「ふごぉ、ふごぉ、ふごぉっ」
「ふごぉ……間違い御座いません。との事」
「ふごごごっ」
若干影に、言葉が移ってしまった様だ。
女王はそれを聞いて深く頷き、処刑場には似つかわしく無い、華美な王座から立ち上がり、声を上げる。
「二人共、自らの罪を認めた事、儂がしかと聞きた。なれば、判決を言い渡す! 両名共に絞首刑に処す! 異論の有る者は前に出よ!!」
「ひっ、もひゃああああああっ!?」
「ふぎぃ、ふぎぃっ」
傍聴席に居る者達は、誰も彼もが目を逸らし、二人の罪人以外、誰も声を上げない。
そんな中で、傍聴席から立ち上がり、そのまま罪人達に向かって、歩いて行く者が居た。
その者は、息を大きく吸った後、処刑場に響く声量でもって、言い放った。
「その判決にっ、異議有りっ!!」
大臣は安堵した。
背後に居る為、誰かは分からないが、刑罰に異議が出れば、情状酌量の余地が、残っているかも知れないと、希望を抱いてしまった。
しかし、その者の次の言葉で、抱いてしまった希望がそのまま、恐怖へと変わる。
「裁判長! 刑罰がゆる過ぎます!! 極刑なんて生温い事を言わずっ、地獄の苦しみを、与えるべきでは無いでしょうか!!」
「ひゅーっ!? ひゅれが!?」
その者が何を言っているのか、全く理解出来ぬまま、裁判は進行して行く。
「ふむ、極刑が優しい罰と申すか。ならばお主に問おう。此奴らに与える刑罰は、何が妥当と考える?」
その者はゆっくりと、四つん這いになっている大臣の前へ出て、そのまま目隠しを取り、大臣の目を見ながら、こう告げた。
「そこの煮豚の汚い尻とっ、大臣様の臭い口を合わせてっ、そのまま突っ込みましょう!!」
大臣は、そう言い放った者の顔を見た。
そして、今正に、自分の体勢がどのようになっているのかを理解して、想像してしまった。
なぜなら目の前には、異臭を放つ、大司教の下半身が見えており、括られている荷車らしき物を押されれば、そのままイン。
「ひゃっ、ひゃあああああああああ────っ!?」
「さあ黒幕さん。刑の執行の時間だよ?」
魔王が大臣に、優しく微笑みかけた。




