12話 化物と化物と化物と.2
アルカッティオという町を出て、南東へと進み続け、三つほど村を見て回ったが、兎留美に関する手掛かりは見付けられなかった。
「次は、あの村か」
地図を見て、村の名前を確認すると、テルノーへ村と書かれている。ノブストンの首都オーバリアヌまで、目と鼻の先まで来てしまった。
「ふぅ……スキルの連続使用がこうも辛いとは、足が限界だな。もう無茶は出来んか」
スキル疾走を、クールタイムが終わる毎に使用した所為か、足が悲鳴を上げており、体の疲れが一向に取れなくなっている。
「村まで距離があるからっ、少し休もう」
旧時代の遺物である瓦礫の上に、ゆっくりと腰を下ろし、荷物の中から薬を取り出して布に浸し、それを脹脛に巻き付ける。
「っ……流石お師匠様の薬。効き目は抜群だが、泣きたくなる程の痛さっ、叫びたくなるぞ」
麻酔なしの状態で針を刺され、その針をぐりぐりと、動かされている感覚だろうか。腕を骨折した時の、倍程の痛さだ。
「日が沈むまでには、村に行きたいのだが……どうしてあの村は、囲いが壊れているのだ」
遠視スキルでもギリギリ見える距離なのだが、それでもハッキリと見える程に、石造りの壁が壊れている。まるで──魔物が来ても問題ないと言っている様な、奇妙な光景だ。
「これは……少し様子を見るか」
鞄から土色の布を取り出し、寝転びながらそれを被って、魔物からも人からも目視されないよう、この荒れた風景と同化する。
この地に生息するツイバミは、恐竜の様な見た目で鼻が効くが、砂漠地帯の魔物よりかは弱く、簡単に対処が出来る。寧ろ一体くらい、襲って来て欲しい。
「保存食ばかりだと、飽きるからな。新鮮な肉ならば臭みもないし、生でも美味いが……」
遠くの空が赤く色付き、ゆっくりと日が沈んでいく中で、ジッと村を見続ける。
人の出入りはない。
なぜ一人も守衛がいないのか。
壁が壊れたままなのは何故か。
夜が近付く静寂の中で、様々な疑問を思い浮かべるが、今一番の疑問はこれだろう。
「夜が近いにも関わらず、魔物が姿を現さないか。奇妙……いや、異常だろうな」
ツイバミは基本夜行性。昼間にも姿を見せるが、夜の方が活発に活動する魔物だ。にも関わらず、一体も姿を見せないとは。
足の状態は──薬のお陰で大分良い。
周囲に魔物の気配なし。
「行くか────っ!?」
そう思い、ゆっくりと匍匐前進で進もうとしたその時──突然の轟音と共に、村の中から火の手が上がり、日が沈んだにも関わらず、その燃え上がる火で周囲を照らし出した。
「なっ……まさかっ!」
立ち上がって直ぐに弓を手に持ち、迷彩布を放り出して駆け出した。直感が急げと──告げている。あの村に兎留美が居ると、何故かそう思えたのだ。
「"能力向上"っ! "疾走"!」
スキル二重発動──痛む足を無理矢理強化して動かし、疾走の発動時間内に村へと着き、中を覗き見ると、誰かが争っている姿が見えた。
「マロンっ! 右から回れ! 正面から攻めて勝てる相手ではない! 我が意思により爆ぜよ炎──っ、ファイヤボム!!」
「畏まりましたアレス様!」
一人は、浅黒い肌に黒髪を靡かせる、お師匠様と似た長い耳を持った女性。もう一人は、その女性の指示に従い動いている、幼子。
「あれは魔法か? お師匠様と同じエルフに見えるが、一体誰と戦っている……っ」
視線を感じた。いや、確実に捕捉された。隠れているにも関わらず、あの二人が戦っている相手の目が──私を捉えていた。
私はあの女を、"アレ"を知っている。
お師匠様の命で、兎留美が排除する予定であった、大国ノブスノンの暴力の化身。そして、リシュエルの称号を持つ者。
「女帝っ、エルララルラ! アイツがここに居るという事はっ、兎留美もここに居る!」
エルララルラは私に気付いているが、エルフと幼子が攻めているお陰で、動く事が出来ないと見た。ならば今の内に兎留美を探して、ここから全力で離脱する。
「最悪、私が足留めをして、兎留美だけでも助けなければ。恩を返すぞ、兎留美っ」
幸いエルフと幼子は、エルララルラの対処に手一杯で、私の存在には気付いていない。気付いているのは、エルララルラのみ。
今居るのは村の北側。
迂回して村へと入るべきか。ここから入って家々を調べて回るか。唯一の救いは、石造りの家が多く、火が燃え広がり難い事だろう。
「迷っている暇は──ない!」
そのまま村の中へと突入する。戦っているあの三人、特にエルララルラの視界から逃げるように、民家の裏手へと回り兎留美を探す。
大声で叫び、探したいところではある。が、それだとあの三人の注意を引いてしまい、戦いに巻き込まれる可能性がある。
「しらみ潰しに探すしかないか」
エルララルラが兎留美を捕らえたのなら、戦いに巻き込まない様距離を取る筈。となれば、少し離れた家屋が怪しいな。
「……ここでもないか」
一つ一つ家を調べるのだが、村民の姿が見当たらない。エルララルラを恐れて村を離れたのか、若しくは、エルララルラに殺されたのか。
「どこだっ、兎留美」




