22話 進撃乱戦あいつはどこに.1
2026/06/28 改稿
アルテラ教の大司教を追い詰める為に、俺がここ数日やっていた事は、至ってシンプル。
一、"アルテラ教"の神官である、ザルブ・ポワードが放火をした事を、世間様に知らしめ、その際に聖女が負傷した事にする。
二、俺が魔王かもと噂の元となった、あのラクレル村での一件の詳細と、火事の際に聖女を助けたのは、俺という事にして、アルテラ教の行いが可笑しい事を、世間様に知ってもらう。
三、王国側も、魔王云々と騒いでいた事もあり、民の不信感が王国に向かないよう、アルテラ教を糾弾する御触れを発した。
四、俺はただ、王国側の御触れの内容を、そのまま紙に載せて、ミルン便で配りまくった。
「そして、詰めの一手はコレですよっと」
「なあ……流にーちゃん」
「こらこら、怪我人なんだから、そんなにハッキリと声を出すなっての。バレるだろ」
「あんた、ほんまに魔王ちゃうん」
はいっ、只今"包帯"でぐるぐる巻きにした、聖女リティナを荷車に座らせて、王都中を練り歩いております。
「顔がべとべとすんねんっ……」
「我慢しろっての」
数日前に作った、赤黒いスープを更に煮込み、ドロドロの状態にして、リティナの顔に塗りたくり、火傷風メイクをした上で、包帯でそれを隠せば──あら不思議。怪我を負った、聖女リティナの完成です。
「聖女が負傷している"事実"を、王都に住まう人達全員に、しっかりと見て貰わなきゃだし」
アルテラ教の男が、演説した内容。『聖女が魔王に拐かされた』というそれを、有り難く利用させてもらいます。
「おいアレ、聖女様じゃないか……火傷の痕がっ、痛々しいな」
「おいおいっ、昨日アルテラ教の奴が、聖女が負傷したのは嘘だとかって、言ってなかったか? どう見てもあれは……」
「あの糞教会っ、聖女様になんて事をっ」
そう──アルテラ教の奴らは、ご丁寧に自分達で、巨大な墓穴を掘ったんだ。少し考えれば分かる事だろうにな。
「流君。昨日、アルテラ教の者が言っていた内容と、あの者達がボヤいておる内容が、違うように思えるのだが……」
「そうだな。昨日のあの男は、"リティナが負傷したのは嘘"だなんて事は、言ってないぞ」
「ならばなぜ、"言った"事になっておるのだ」
リティナの乗った荷車を引いて、疑問を浮かべる村長を見て、少し残念に思った。
「村長はやっぱり、脳まで筋肉なんだなぁ」
「流さん。私も分かりませんよぅ」
「ミルンも分からないのっ」
村長だけでなく、ミルンやニアノールさんまでも分からないなんて……そんなに難しい事でも、ないんだけどなぁ。
「分かり易く言うと──人っていうのは、聞いた事よりも、見たモノを信じるって事だ」
だからこそ俺は、情報の全てを紙に書いてもらい、それらを配りまくった。聞いてもらうだけでは、直ぐに忘れてしまう。だからこそ、最後のこの一手が重要だ。
「百聞は一見にしかず」
「なあにその言葉?」
「今俺達が今、行っている事だよ。さっきも言ったけど、聖女リティナが負傷している事実が、とても重要な事なんだ」
これにより、昨日アルテラ教の演説を聞いた者は、『アレっ? 手配書やビラに書かれていた事の方が、正しいんじゃね?』と考え、自分の都合の良いように解釈、勘違いをしてくれる。
「勿論、アルテラ教の演説内容を、覚えている人も居るだろうけどな」
「ふむ……しかし、このまま歩いておるだけで、アルテラ教を追い詰めれるとは、思わぬぞ」
「村長。俺がただ歩くだけだなんて、いつ言った? ここからが本番だぞ」
何の為にわざわざ、リティナにメイクを施して、この広い王都を練り歩いていると、思っているのだろうか。
「すぅぅぅ──っ、王都に住まう者達よっ!!」
「急に大声を出すでないわ」
「お父さん、何する気なの?」
聖女を荷車に乗せ、王都を練り歩いていた理由は、ここにある。痛々しい姿の聖女に視線を集め、誘導する事。
「見よっ! この痛ましい聖女の姿をっ!」
周囲の人達は足を止め、リティナと俺を交互に見て、俺の言葉に耳を傾ける。
「神官であるザルブは姿を隠しっ! その者の上役である大司教からの謝罪の弁もなくっ! このような事がっ、許されて良いのか!」
「うわぁ……流さんがやろうとしてる事がぁ、なんとなくですけどぉ、分かりましたよぅ」
「ひっ、人のやる事では、ないのである」
ようやく、俺のやらんとしている事に、ニアノールさんと村長は気付いたようだ。
「アルテラ教の非道な行いに対しっ! 聖女リティナ様は怒りを示されたっ! 今より我らはっ! この聖女リティナ様と共に、アルテラ教大聖堂へと赴き、大司教オーグド・ディムニとの──面談を求める!」
実際は、面談という名の、公開処刑にする気満々なんだけど、上手くいくだろうかねぇ。
「王都に住まう者達よ……聖女に助けられた者、聖女を慕っている者達よ。どうかっ! 我らの後に続いて欲しいっ! アルテラ教の非道な行いを、二度と起こさぬ為にっ!」
即興演説イン、流バージョンです。そしてこのまま振り返らずに、ただ演説をしながらゆっくりと、アルテラ教の大聖堂へと向かう。すると──聖女の乗る荷車の後ろから、誰かが付いて来る足音が聞こえ、それがみるみる増えていき、俺の狙いは成功した。
「お父さん。人が沢山、付いて来るのっ」
「あまり見ちゃ駄目だぞ。こういうのは、雰囲気が崩れると、一気に冷めるからな」
「ふーん、分かんないっ」
「特にリティナ。教会の敷地に入るまで、お前は絶対に喋るなよ」
荷台を見ながら言うと、物凄く不機嫌そうな顔をしたリティナが、コクコクと頷いている。
「んでアレが、大聖堂へと通じる門か……見事に閉じられているなぁ。無駄なのに」
そこそこ大きな門が二つあり、一つは城へと通じる、貴族街への門だろう。護衛の兵士が何事かと、こっちを見てきてるし。
「そんじゃここで、全たーい止まれっと」
右手を挙げて立ち止まると、背後に聞こえていた大勢の足音も、ピタッ──と止まり、そのまま門に向けて声を上げる。
「アルテラ教の者に告ぐっ! この門を今直ぐ開けよっ! 聖女リティナ様が、大司教オーグド・ディムニとの面談を、求めているっ!」
くくっ、もしもここで、この門を開けなければ、大司教が聖女との面談を断り、民衆の教会への不信感は、更に増すだろう。
逆に、門を開け、俺達を中に通したとしても、大司教を見付け次第ぶん殴れるから、俺達としてはどっちでも良いんだ。
「どうでるかねぇ……大司教の奴は」
「流君。分かっておろうな」
「何がだ村長?」
「中へ入ったとしても、証拠を得る迄は、手を出してはならぬぞっ」
証拠ねぇ……多分だけど、大司教がザルブに命令したっていう証拠は、何もないだろう。だからこそこうして、民衆を焚き付け、煽りに煽ってボロを出すのを、待っているんだ。
「ザルブに命令した証拠がなくても、他のモノを探し出してでも、潰してやるさ」
そうして少しだけ待っていると、門の先からゆっくりと、一人の老人が歩いて来た。その老人は、門の鍵を開け、俺の前に立つと、静かに頭を下げて口を開く。
「魔王……いえ、小々波様と、聖女リティナ様御一行ですな。私はアルテラ教の"司教"、ゼンビルと申します。どうぞ、中へとお入り下さい」
なんか、思ったよりもすんなりと、入れたんだけど……どういう事なのコレ?




