20話 魔王としての一撃を.4
2026/06/28 改稿
なーんて、思ったりもしてたのだが、アルテラ教の打ってきた手は、なんとも直接的というか、予想外のモノだった。
「敬虔なるアルテラ教徒よっ! 魔王の言葉に耳を傾けてはなりませんっ!」
白の法衣に身を包んだ、恐らくはアルテラ教の者だと思うが、昨日の兵士を真似てなのか、街頭演説をぶちかましてきた。
「聖女様を拐かし、民を惑わせるこの所業っ! 決して許してはならぬ事でしょうっ!」
若干声が上擦ってるなぁ……あの感じだと、演説をしている奴は、一連の犯行に関わりのない、ただの信者なのだろう。
「またっ! 魔王の諫言を信じっ! 何の罪もない大司教様を、出頭させよと命じた陛下に対しっ! "一教徒"として断固抗議するっ!」
王政を敷いているこの国で、まさかの爆弾発言をかましやがった……やり方がエグいというか、あの信者が可哀想だろ。
恐らくだがあの演説は、アルテラ教の総意としてではなく、あくまでも、『個人として抗議してます』という、蜥蜴の尻尾切り演説だ。
「アレ考えた奴、絶対腹黒いだろ」
「お父さんよりも?」
「心外だぞミルン。俺はあんな風に、人を使い捨ての駒になんて、しないだろ?」
「そういえばそうなのっ」
しかし、矢張りと言うべきか、アルテラ教は街頭演説のみで、ビラ配りをしていない。信者を使って、人海戦術でやれば良いものを、手を抜いているのだろうか。
「にしても……立ち止まって聞いてる人って、案外少ないんだな。笑えてくるわぁ」
「歩いてる人、唾吐いたっ」
「うわぁ……これが、聖女効果なのか」
こうして王都を歩いていると、リティナを心配する声や、アルテラ教に愚痴を溢す声が、至る所から聞こえてくる。勿論、女王に対しての悪口も、少なからずある訳だが──昨日の兵士が口にした、女王からのお達しを、ビラにして撒いたお陰か、そこまで多くはない。
「この感じなら、五手目で大司教とやらを、引き摺り出せるかもな」
「お魚?」
「それは釣り……間違ってはないな」
この一件が片付いたら、川へ釣りに行くのも良いかもだ。ミルンと出逢った魔龍の川で、のんびりと釣りをする。魔物が襲って来たら、筋肉村長に倒して貰おう。
「魚食べてぇ……塩焼き食べてぇ」
「お腹が空くから、お魚お魚言わないでっ」
「……焼肉」
「お肉っ……じゅるっ」
ミルンを肩車している所為で、俺の脳天目掛けて、ミルンの口からドバドバと、滝の如き大量の涎が垂れてきます。
「そんじゃ、皆の所に戻ったら、明日の詰めに向けての腹拵えを、するとしますか」
「やぎにぐぅっ!」
寝泊まりしていた孤児院は、建物の半分が焼け落ち、住める状態ではないので、王都アストールの高級宿──にではなく、冒険者向けの格安宿屋に、泊まっております。
一人一泊二千ストール。俺、ミルン、村長、リティナ、ニアノールさんで、合計しても一泊一万ストールとか……流石、日雇い労働者系冒険者向けの宿だ。
「見た目は普通の、宿屋なのになぁ……」
王都のメイン通りから外れて、貧民街に入るギリギリの位置に建つ、木造二階建て宿屋。その二階の一室が、今の俺の部屋だ。
「ミルン五人分の広さなのっ」
「うん……村長は足を曲げないと、部屋から足が出るって言ってたもんな」
ミルンの身長は、本当に低い。犬耳をピンっとしても、俺の腹までしかないんだ。その背の低いミルンの、五人分の広さの部屋。
「畳だったら、二畳半だろうか」
「たたみって、なあに?」
「草で編んだ、お部屋の床だよ」
「草の床っ!?」
そんなやりとりをしつつ、宿屋へと入ると、疲れた顔の村長と、苛々しているリティナ、ナイフを研ぐニアノールさんが、一階の酒場に集合していた。
「お疲れ村長。貧民街のケモ耳っ子達は、どうだった? 元気にしてたか?」
「……少し落ち込んではおったが、大丈夫であったぞ。家が焼けたというのに、強い子供達なのである」
「そりゃ良かった。確か今は、院長影さんの知り合いの所に、避難してるんだったか」
アルテラ教に情報戦をしかける前に、ケモ耳っ子達の安全確保の為、院長影さんが信頼している人の所へ、連れて行ったんだけど、それがどこなのかは、俺は知らない。
「うむ。何と言えば良いのか……確かにあの場所であれば、誰も手は出せまい」
「なにその、棘のある言い方?」
「流君は気にしなくても、良いのである」
「なんじゃそりゃ」
次にリティナに目を向けると──貧乏揺すりを繰り返し、今にも暴れ出しそうな雰囲気だ。
「おいコラ流にーちゃん。いつになったら、あん大司教をぶん殴れるんや」
「そうですよぅ。私は今直ぐにでもぉ、背後からサクッとしたいのにぃ……」
聖女とその護衛が、物騒過ぎるっ。特にニアノールさんは、ナイフを延々と研ぎ続け、宿屋の店主が遠巻きに、ドン引きしています。
「それなんだけど、明日で色々と、アルテラ教を追い詰めるから、もう直ぐだと思うぞ」
「明日やな? 明日になったら、孤児院燃やして餓鬼共に怪我負わせた、あん糞ボケザルブの親玉を……ボコボコに出来るんやな?」
「俺の予定ではね」
その為には、このリティナの"協力"が必須であり、この一手が上手く決まれば、間違いなくアルテラ教は、窮地に立たされるだろう。
「お父さんお父さん……お肉っ!」
「おっと、そうだったな。厨房でも借りて、焼肉作るから、少しだけ待ってなよ。村長達も食べるか? 食べるなら作るけど」
「うむ、頂くのである」
「ウチも頼むわ。飯でも食わな、ずっとここに籠もっとるから、苛々すんねんっ」
「私も食べますよぅ」
その言葉を聞いて、「はいよ」と返事をしつつ、明日行う詰めの動きを、しっかりと脳内シミュレーションで確認する。
「先ずは、リティナにアレをして、ここを通ってから……くくっ、楽しみだねぇ」
焼肉の煙と香りが、宿屋に泊まる冒険者達を苦しめながらも、俺は口元から笑みを溢しつつ、肉を焼き続けるのであった。




