15話 皆んなで楽しくピクニック.2
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ジアストール王国の首都に聳え立つ、アルテラ教大聖堂。王城よりも目立つソレは、壁一面に華美な装飾や彫刻が施され、『王城よりも王城らしい』と、王都を訪れた冒険者や商人達が、物見に来る名所の一つ。
アルテラ教の信者達も、足繁く通い、御布施をしては、祈りを捧げる場所。
その大聖堂の奥に、一際輝くモノがある。
唯一神アルテラの像。
高さは十五メートルと、ジアストールの歴代の王像より大きく、アルテラ教の権威の象徴でもある。
その像を、一心不乱に磨く者。
太陽が昇る前から、大司教、司教の部屋を掃除して、礼拝堂を隅々まで磨き、綺麗な布で御神体を優しく、去れど汚れ一つ、埃一つ残さぬ様磨き上げ、最後に御神体へ語りかける。
「アルテラ様は、本日も御綺麗で御座いますね」
神が語りかけてくれる訳も無く、ただ己がやりたいからと、見習いには任せない。
「この時間は、私の宝物に御座います」
目を閉じ、石畳に膝を付いて、手の平を組み、頭を下げて祈りを捧げる。
「アルテラ神様。本日も、我等を御見守り下さいますよう、お願い申し上げます」
そうしていると、頭の中に、誰かの声が響いて来た。暖かな声色で、しかし、どこか怒りを帯びている声。
『愚かな子らは居らぬな。貴女は清浄なりて、直ぐにここから立ち去りなさい。ここに居ては、巻き込まれるわよ?』
「っ、アルテラ様っ!?」
女神官は、直ぐに気付いた。この声は、唯一神アルテラ様のお声だと。
「……御神託をっ、私が?」
アルテラ様は仰った。直ぐにここから立ち去る様にと。何かが起きる?
急ぎ大聖堂を後にして、信用のおける神官達に伝えるも、誰も聴く耳を持ってくれない。
『貴様が御神託を賜った? 頭がどうかしたのか。神官になれたからって、調子にのんなよ』
『司教様の御用があるのだっ。邪魔するな』
『はははっ、笑い話かい?』
唇を噛んだ。
誰も信用してくれず、このままでは、アルテラ様に申し訳が立たない。
話を聞かない者は無視して、慕ってくれている後輩を連れ、急いで大聖堂を離れる。
「ルトリア様っ、何故そんなに急ぐのですか!」
「良いから急ぎなさいっ! アルテラ様の御言葉を信じるのです!」
その時、異様な雰囲気の者達が、前から歩いて来た。その者達が目指す方向。
アルテラ様が忠告なされた、大聖堂である。
「あっ、あの」
「んっ? 何だあんた……」
何故この人種は、獣族の幼子を、肩に跨がせているのだろうか。しかも、不気味な笑みを浮かべて、私の胸を見て来る。
「今日は……っ、大聖堂に……」
何と言ったモノだろうか。
神から御神託を受けたので、大聖堂に向かっては危険です。なんて言っても、あの神官達の様に、馬鹿にされるだけじゃない。
「何も無いなら行くぞ?」
それでも、教え導く神官として、危険が迫っている場所に、向かわせる訳にはいかない。
そう思って、私は彼等に、理由を伝えた。
「神様がねぇ……あんがとさん」
「えっ、待ってっ!?」
それでも、大聖堂へ行こうとする五人組。矢張り嘘だと、思われたのだろうか。
「本当に話を聞いたのですか! 大聖堂に行ってはっ、危険なのです!」
私は必死に止めた。だけどその男は、笑ってこう言って来た。
私の様な神官が居て良かったと。
大丈夫、危険は無いからと。
「なぜそのような事が、分かるのですか!?」
「んーっ、まあ良いか。俺達がその危険だ」
「何を言って……」
「あんたは良い人そうだし、早く行きなさいな。じゃ無いと、巻き込まれるぞ?」
そう言って、その者達は、大聖堂のある方へと、向かって行った。
どれ程時間が経ったのか、後輩に揺さぶられてハッとなった私が、歩み始めようとした時、轟音と共に、爆風が押し寄せて来てた。
「っ、危ない!?」
「先輩っ!」
砂塵が辺り一面に吹き荒れ、まるで嵐の中に居るかの様な突風に、目が開けられない。
私は必死に、後輩に覆い被さり、砂塵が収まるのを待った。
風が収まり、顔に付いた砂を払って、ゆっくりと目を開ける。どうやら後輩は無事の様だ。
「大丈夫? 怪我とかして無い?」
「けほっ、はい。大丈夫……」
後輩が大丈夫な事を確認して、ゆっくりと立ち上がり、城下に向かおうとするが、後輩が動かない。そしてゆっくり、後輩が背後を指差して、口をパクパクさせている。
私は背後を振り返り────「はっ?」
可笑しな声が出た。
そこにあるはずのモノが無い。
王都のどこからでも、見る事ができるモノ。王城に匹敵する程大きく、煌びやかな建造物。
大聖堂が、跡形も無く、澄んだ空だけが、遠くまで続いていた。
◇ ◇ ◇
「あんな神官も居るんだな」
「そりゃそやろ。神官全員腐ってたら、信者共から苦情が来るやろうしな」
「おとうさん……おむねみてたっ」
「痛っ、悪かったってミルン。神官服でもあそこまでデカいと、ついつい見ちゃうんだよ」
「あのおむねを、もぐの!」
にしてもさっきの神官。俺達を引き留めた理由が、御神託うんぬんって、何なんだ? いやっ、今気にする事でも無いか。
「それにしても……あれが大聖堂ねぇ。なんとも趣味の悪い、成金城じゃないか?」
王都散策してる時も、遠くから日光フラッシュかまして来てたし、なんなんよアレ。
「なあリティナ。あれがアルテラ教の本拠地で、間違ってないんだよな? なんだか全く、大聖堂に見えないんだけど」
「そやろ。あの馬鹿みたいに光っとるのが、大聖堂であり、アルテラ教の本拠地や。無駄に信徒から、金毟っとるから、金だけはあんねん」
「……そんなの、良く放置してんなぁ」
女王の職務怠慢か? それとも、アルテラ教と共謀して、贅沢三昧なのかね。
まあ其れも、今日までだけどな。
階段を上り、大聖堂全体を、その視界に収める事の出来る位置まで到着。
「流君……準備は良いかね」
「流にーちゃん。一発でかいの頼むで!」
「流さん、他の有象無象はお任せをぉ」
「おとうさん!」
ミルンの尻尾が、忙しなく背中を叩く。
鼻息も荒く、やる気満々だな。
「ミルンもっ、いっしょにたたかう!」
「ああ、一緒に頼むわ」
直線上に、大聖堂の正面入口。
デカくて派手な、門と言える程の扉だ。
「それじゃあ一丁、ぶっ潰しますかね」
俺は集中する。
先ずは何をしたいか。目の前の馬鹿みたいな建物を、粉微塵に消し去りたい。
ならばどの様に。一撃でもって、塵も残さず、その全てを消し去る為に、ぶっ放す。
燃料は怒り。只々、炉に薪を焚べるが如く燃え続ける、激しい怒り。
息を大きく吸ってええええっ、叫ぶっ!!
「お前らがっ、俺を魔王と呼ぶのならっ! 魔王に手を出した事をっ、後悔しやがれ! 宣戦布告だこの馬鹿共がああああああ────っ!!」
その魔法は、ミルンのボロ小屋を一瞬で塵に変えた魔法。範囲指定された場所へ、浄化の光を降らせ、対象を殲滅する属性魔法の最上位。
『神級魔法・ファイヤオブジャッジメント』
大聖堂の上空に、小さな火の玉が見えた。俺は懐かしい気持ちで、ゆっくりとその火の玉に手を伸ばして握る。その瞬間────眼前の建物全体を覆うように、巨大な光の柱が降り立ち、轟音と共に大聖堂が光に呑まれて行く。
「……砂埃、ヤバくね?」
「おとうさんを、たてにする!」
「全員伏せるのであるっ!?」
「うひゃぁ……こんなんポッと打てるんかいな」
「リティナ様伏せてぇっ!!」
粉塵が晴れ、埃まみれの砂だらけ。
顔面砂人間です。
面白く無い? さーせんっ。
「ぷっ、口に砂が……おおっ、見てみろ皆んな! 空がこんなにも、広く感じるぞ!」
無駄な建物が無くなったから、何処までも広がる、晴れ渡る空が見える。
電線や電柱なんて物も無いから、隣の王城が無ければ、もっと見晴らしは良いだろう。
「ぺっぺっ。流にーちゃん! 少しは考えて魔法打てや! ウチらも巻き込む気かいな!」
「おとうさん……ミルンのおいえ」
「凄いぞ流君! こんな魔法は見た事がない!」
「流さん……やっぱり魔王ですかぁ?」
お掃除完了の余韻に浸っていたら、魔法の範囲外だった小さい教会から、神官達が慌てて出て来た。
『だっ、大聖堂が……我等の御神体が……』
『おおっ、アルテラ神よ!』
『何が起きた……大聖堂はどこに…?』
『どうなっておる! さっきの音は何だ!』
ぞろぞろと、大聖堂を探している様だけど、現実を受け入れて下さい。
タイミング的には、今だろうか?
「貴様らぁっ! 大聖堂を消したのは俺だ! お望み通りっ、魔王自ら来てやったぞ!!」
呼ばれて飛び出て流です。
おっさん共が、一斉にこっち見んなよ。そっちの女神官さんは、見ても良いぞ。
『魔王だと……』
『何故魔王がここにっ』
『大司教様は何処か!?』
『逃げなければっ』
小声で言ってる様だけど、普通に聞こえてますからね? ヒソヒソするなら、もっと声量抑えなさいな。
「俺の望みはただ一つだ! 今直ぐにっ、大司教を連れて来い!!」
大聖堂はぶっ潰したし、後は主犯を捕まえて、スラムに持って帰ってポイします。
適当に放置してれば、そのまま引き摺り込まれて、自然消滅してくれるからな。
「逆らうのならっ、大聖堂と同じ末路を辿るぞ!!」
殺しなんてしない。
俺は優しいからな。禿げてない神官達の毛根を、根刮ぎ塵にしてやるだけだ。
「十秒以内に連れて来いっ! じゅうっ!」
『魔王なぞっ、嘘に決まっている』
『だがしかし、大聖堂が……』
「きゅうっ!」
『大司教様はどちらに!?』
『我等であやつめを滅するのだっ』
「はちっ!」
『待たれよ! そこの者話を聞け!』
『我等の御神体は何処にっ』
「ななっ!」
『どうすれば良いっ、どうすれば!?』
『どうせハッタリに決まっておるわ!』
「ろくっ!」
『我等で一斉にかかればっ』
『大聖堂を塵に変えた奴だぞ!?』
「なんか遅いから、さんっ、にっ、いちっ、時間切れじゃごらぁっ!!」
「「「理不尽だろっ!?」」」
魔王なんだから、理不尽でしょ?
理不尽に頭髪を毟って、理不尽に服を剥ぎ取り、理不尽に揉み揉みする。
「それじゃあ皆んな、殲滅しようか!」
「たまつぶす?」
「ふむ……弱そうな者達である」
「二、三人拷問したらええねん。大司教の居る場所なんて、ケロッと吐くやろ?」
「それじゃぁ、捕まえますねぇ」
殲滅するのは、戦意の有る奴だけね。
そう思いながら、一歩進んだ瞬間、神官達が跪き、レッツ土下座をかまして来やがった。
「「「大司教様の元へっ、ご案内致します!」」」
ザルブって奴もそうだったけど、土下座をすれば、許して貰えるとでも思ってんのか?
『この背教者があああああっ! ぶふぅ!?』
一人向かって来そうだったのに、痩せた神官服を着たおっさんが、ボディブローで止めやがった。仲間じゃないのかよ。
ゆっくり歩いて来るけど、何というか、全体的に、信用ならない雰囲気の奴だな。
「見習いが失礼を致しました。ルトリアが、直ぐ逃げる様にと言っていた理由が、理解出来ました。まさか、魔王とは……」
「ルトリア…さっきの巨乳神官か。んで、俺が魔王ならどうするよ?」
「どうぞこちらへ。大司教様は、外へ出られぬお姿故、私めがご案内致します」
「出られない……病人か?」
病人だったら、やり辛いなぁ。ベッドから無理矢理引き摺って、スラムへポイだなんて、流石の俺でも、良心が痛むぞ。
「たまつぶすっ」
メリィッッッ────「あひゅっ!?」
「ミルンさんや……いつの間に下りてんの。そんな奴放っておいて、先行くぞーい」
「ちかづいたから、たまつぶすっ」
グチィッッッ────「ぎゅふっ!?」
うん。襲って来そうだった見習いを、立派な男の娘にしちゃってますね。まぁ……なんだ。ミルンに狙われたのが、運の尽きだわな。




