12話 誰の後悔後先立たず.13
スラムのゴミ山、廃墟、瓦礫の山を走り抜け、ザルブはただひたすらに隠れ家へと向かう。
「おろしてー!」
「むぅーやー!」
二匹の獣が喚き立てるが今はそれよりも自分の安全を考えて後から悪鬼の表情で迫り来る二人には気付かずにいた。
「見えたぁああああ!」
スラムの端。
丁度スラムと普通の民家が建ち並ぶ境界線の廃屋に滑り込む様に入り鍵を閉め、廃屋内の地下道へ続く地下への扉を確認し、一息。
「ひゅーっひゅーっだずがった…」
手に持つ獣を投げ捨て、身体にしがみついている獣を床へと叩き付ける。
「ぎゃんっ!?」
更にその獣の上に跨り、顔めがけてーーー
「貴様らのっ!」
ボコッ
「せいでっ!」
ボコッ
「私のっ!」
ドスッドスッドスッ
「高貴なっ!」
バキッ
「命がっ!」
バキッ
ーーー拳をひたすら振り落とす。
「やめてーミウちゃんがしんぢゃう!?」
「煩いわぁああああああ!!」
投げ捨てた獣が立ち上がり向かって来たが、その腹目掛けて落ちていた木材を投げ突き刺す。
「ぎゃっああああ!?」
それをみて溜飲を収め、立ち上がり、倒れている獣を交互に踏み付けていく。
「糞っ糞っ糞っ穢らわしい獣は! 這いずり回っていれば良いのだこの畜生共!」
はぁっはぁっと息が上がるほど踏み付け、二匹の獣から声がしなくなった事に笑みを浮かべる。
その時ー鍵を閉めた筈の扉が十字に割れ、誰かがゆっくりと入って来た。
その者は、地に伏し傷だらけの二匹を視界に収めると、ザルブの目の前から消え、逆さまになったザルブの意識が、一瞬で闇に落ちた。
※
怒りを抑え、ザルブを追っているニアノールは、遠くでメオを抱え、ミウを貼り付けて走っているザルブを視界に捉えた。
「ヘラクレス様っ見つけました!」
走るスピードを上げる。
その後から息をあげながらヘラクレスは何とかニアノールについていき、さすが獣族、薄暗くなりつつある空で見えにくいにも関わらず、見通す事が出来るとはと関心していた。
「あそこの建物に入っていきました! 仲間が居るかもしれません、慎重にまいりましょう!」
「分かっている、ニアノール殿も短気を起こさぬようにな。捕まえて誰が黒幕かを聞き出さなければ!」
二人は扉の前で立ち止まり、軽く扉を触るが動かず、鍵が掛かっているようだ。
中から怒鳴り散らした声が響いてくる。
子供達の声が聞こえない。
「ヘラクレス様、どうやら一人の様です。このまま突入いたします」
そう言ってニアノールは息をフッと吐き、扉を十字に斬り中へ突入。ヘラクレスも中へと足を踏み込んだが。
子供達が倒れている。
それをザルブが踏み付けたまま此方を見ている。
子供達の声が聴こえない。
ニアノールとヘラクレスは一瞬にしてザルブに肉薄してーーー
「この汚い脚をどけなさい屑!!」
ーーーザルブの両脚を切断。
「このっ大馬鹿者がぁああああああ!!」
声を荒げてヘラクレスは宙に浮いたままのザルブを頭から床へ突き刺した。
そして直ぐ子供達の状態を確認する。
「ミウ!? メオ!? 大丈夫か! 私だ、おじちゃんが来たぞ!」
み…やめ。
おじ…ちゃ。
小さく声が聴こえた! 二人共まだ浅く呼吸をしている!
「ニアノール殿、二人を急ぎ聖女リティナの元へ、私よりニアノール殿の方が早く着く」
ニアノールは頷き、二人を抱えて急ぎ孤児院へと戻って行った。
そして、残った私がする事。
床に突き刺さったままのザルブの脚の切断面を布でキツく縛り、そのまま床から引っこ抜く。
意識が無いようだ。
そう思い逆さまのまま片手でザルブを持ち上げ、もう一方の手でザルブの顔面に拳を撃つ。
「ぎゃひぃぉ!? なっにゃんだ…にゃにがおきたがひゅっ!?」
目が覚めた様なので更に拳を撃つ。
「ぐぅえ!? だれぇあああ脚がぁああ私のあじぐひゅ!?」
脚が無い事に気付いた様なので更に拳を撃つ。
「なじぇごんなごどっするのだぶひゅ!?」
口を開いた様なので更に拳を撃つ。
「だずげでぇごめんにごがぁ!?」
謝ろうとした様なので更に拳を撃つ。
拳を撃つ、拳を撃つ、拳を撃つ、拳を撃つ、拳を撃つ、拳を撃つ、拳を撃つ、拳を撃つ、拳を撃つ、拳を撃つ、拳を撃つ、拳を撃つ、拳を撃つ、拳を撃つ。
「貴殿がした事。以前私も同じ様な事をしていたので貴殿を悪だとは口が裂けても言えん。だからコレは私の我儘であり、子供で言う所の癇癪であり、単なる八つ当たりだ。以前の私への、八つ当たりだ」
「やみぇてぇ…じにだぐない…」
ザルブは息も絶え絶えに声を発する。
「ならば首謀者を言いたまえ。そうだな、流君が言った言葉を借りるなら、楽には生きれると思うなよ、だったか。首謀者を吐くならば、殺しはしない」
もはやどの様な顔だったのか分からない程に顔を変型させたザルブは涙を流しその名を言った。
「ふむ、確かに聞いたぞ!」
ザルブは床に座らされ、自らの太腿から下が無い事に打ちひしがれる。
そこへ、ヘラクレスからの一言。
「ザルブ君、やはり私は流君の様に優しく無いようだな!」
怒り治らぬヘラクレス渾身の一撃。
拳がザルブの眼前に迫った瞬間、ザルブの口から「ごめんなさい」と聞こえた様な気がした。
その拳により、ザルブの首から上が瞬時に飛び散って逝った。